第87話 ブッセ支部長
予備校が再開した初日は教官から俺達は欠席するように言われていたので、その日は休み、俺は早朝に冒険者ギルドに行き、ギルドの受付嬢に銀の翼のパーティーメンバーに会いたい旨を伝えた。
なぜ会いたいか理由を問われ、元々知り合いであることと、俺が爵位を貰ったことで貴族になったので、家臣として彼らを雇いたい事を伝えると、受付嬢は一旦離席してから俺を2階の部屋へと案内した。
その部屋には初老の男性が立っていた。
「フォーグライン辺境伯領冒険者ギルドの支部長をしているブッセだ。噂は聞いているよケッセルリンク騎士伯様」
「ケッセルリンク騎士伯だと俺の嫁達にも当てはまるのでナーリッツで結構です」
「ではナーリッツ君と呼ぼう。改めて初めましてナーリッツ君」
「初めましてブッセ支部長殿」
着席を促されて、俺は革製でできたソファに座る。
ブッセ支部長も対面に座り、案内してくれた受付嬢がお茶を出してくれる。
紅茶と思われるが、種類まではわからない。
ただ少し飲んでみると、爽やかな味わいで苦味はほぼ無かった。
「まずは爵位の下賜おめでとう」
「ありがとうございます」
「この地域の冒険者が貴族になったのは数十年ぶり。なかなかあることじゃあないからな」
「そもそもアンデッドドラゴンやアンデッドの群れが出現しなかったらまだただの予備校生でしたからね」
「いやいや、予備校の教官達から空間魔法を使える凄腕が居るという情報はもたらされていたし、数週間前から予備校生で白金貨数十枚を稼ぐ者が現れたとギルドでも噂になっていたからな。予備校に送金する金の流れの名義を見れば誰が稼いでいるかギルド長である私は直ぐにわかるのでね」
「でしょうね」
俺は紅茶をもう一口飲ませてもらう。
「なぜ銀の翼を家臣に加えようと? 失礼ながら彼らはブロンズランクの冒険者パーティー。シルバーに近い有望株ではあるが、特にこれと言って実績があるわけでもない」
「まぁコネというのもあります。俺達爵位を貰った4人が村から出てくる時に共に行動をしましてね。それで意気投合し、俺達が冒険者予備校を卒業したらクランを創ろうと言っていたのです」
「なるほど……となると彼らに多額の入金がクム商会からあり、クム商会はワイバーンの素材を売却していたのも……ナーリッツ君達が関与しているな」
「……」
「いや、別にそれで彼らを罰したりすることはない。ただそういう事を毎度されると冒険者ギルドとしても困ってしまうわけで……」
「定期的に強力な魔物を、ここの冒険者ギルドで買取をお願いするのでそれでどうか……」
「別に冒険者登録前にワイバーン倒していたのだろ? それにワイバーンを村から出てきたばっかりの人が倒せると言っても信用されないでしょうから、最初の動きは間違いじゃないな」
このブッセ支部長……俺達の事をどこまで調べてるんだよ……。
全部お見通しじゃないか。
「銀の翼の面々はここに呼んできているので、それまで少々ナーリッツ君の人柄について知りたくてね」
「人柄ですか?」
「爵位を貰ったからといって、冒険者の側面は消えることはない。まして予備校には通い続けてくれるのだろう?」
「ええ、まぁ」
ブッセ支部長はソファから立ち上がると、棚から書類を取り出して、俺に見せてくれた。
そこにはゴールドランクの冒険者パーティーだったり、有力なクランがリスト化されていた。
「現在ここの支部をメインに据えて活動しているクランは15組、規模はマチマチであるが、そのうちゴールドランクの冒険者が統括しているのは5組ある」
書類をめくるとクランの人員についてや各々の冒険者ランク、そして冒険者ギルド側からの評価について書かれていた。
「貴族の方が有力クランやパーティーのクライアントになることは多い、事実ゴールドランクが統括しているこの5組のクランとゴールドランクの冒険者をリーダーとするパーティー3つは辺境伯様が抱えている冒険者になる」
そういうパーティーは辺境伯様からの依頼は優先的に受けなければならないが、支援金が貰えたり、屋敷や装備を融通してくれることがあるのでメリットが多いらしい。
「これを見せる事に何の意味が?」
「ふむ、ゴールドランクの冒険者は興味無いのかい?」
「抱えても持て余しそうですし、予備校の方で人員は集めます。冒険者としてはプラチナを目指そうとか言う意欲もないですから……」
「まぁ、ワイバーンを何百頭も倒せる実績からして、こちらとしてはプラチナランク冒険者に認定したいんだけどな」
「それで下のランクの冒険者達の面倒を見ろと言われても無理ですよ……こっちは貴族になりたてで、それで四苦八苦しているのに……」
「なに、プラチナランクは象徴みたいなものだ。勿論ゴールドランクの冒険者では手に負えない案件を回す事はあるが、貴族のナーリッツ君達に無理させたら辺境伯様に何を言われるか分かったものではないからな」
あとはブッセ支部長から俺達が2回狩りをした利益が冒険者ギルドにどれだけ利益をもたらしてくれたか教えてくれた。
白金貨十数枚稼ぐというのも、クランという人海戦術を使って普通は達成することで、白金貨50枚以上を一度に稼ぐというのは殆ど無いらしい。
「正直に言うと、あの稼ぎを連日してくれるだけでもワイバーンを倒さなくてもプラチナランクは名乗れるよ」
「空間魔法があるから稼げている感じですけどね」
「いやいや、それだけじゃない。戦闘能力の高さも兼ね備えているからの成果だろうに」
俺はもしこのまま冒険者予備校を卒業した場合ってブロンズランクからスタートになるのか聞いてみると
「とんでもない。辺境伯様から出ている依頼を達成したら爵位をもらっているナーリッツ君達4人はゴールドランクからスタートになる。ブロンズでスタートしたら他の予備校生達が潰れる可能性がありますからな。ナーリッツ君達は既に特別な枠組みに入っている」
「そうですか……」
冒険者として1歩1歩ランクを上げていくの少し楽しみにしていたんだけどな。
まぁ現状は予備校卒業しても、忙しいことは確定しているし、狩るとしても強力な魔物かワイバーンだろうから、直ぐに冒険者のランクは上がってしまうと思っていたが……。
そうか……特別枠か。
「さてと、話していたら銀の翼のメンバーが来たようだな」
ブッセ支部長がそう言うと、ガチャリと扉が開き、銀の翼のメンバーがそこに居た。
「隣の部屋を貸すからそこで存分に話し合うと良い」
俺はブッセ支部長にお礼を言うと、受付嬢の方に連れられて、横の部屋へと移動するのであった。




