第86話 貴族の洗礼
引っ越しから数日生活してみて、クリスとミクはよくやってくれている。
現状メイドとして雇っているのは2人なので、屋敷の掃除だったり、料理だったりを任せているが、ちゃんと卒なくこなしてくれている。
まぁスターやマリーも家臣コースに入ったので、メイド服を着てクリスとミクの手伝いをしてくれていた。
じゃあ俺達(マンシュタイン含め)は手伝いをしていないかというと、残念ながら家事をできるほどの余裕が無かったのである。
というのもアンデッドドラゴンを倒したり、アンデッドの大群を消滅させたことは多くの人が見ていたし、俺が辺境伯の庭でワイバーンの素材を大量に辺境伯に提出したのも、辺境伯の家臣達や詰めていた貴族達の多くが見ていた。
そこで俺達に少しでも顔つなぎをしようと押しかける連中が多く、まだ貴族としての体裁もできていないのに、貴族としての振る舞いを求められてしまったのである。
こういう事になるから順序を踏んで基盤を整えてから貴族になりたかったのであるが、なってしまったものは仕方がない。
ラインハルトの手助けを受け、辺境伯重臣の子息として教養のあるマンシュタインも引っ張り出して商人や貴族、辺境伯の家臣の方々、雇ってもらおうとする腕自慢や才能にあふれた人達の面会、面接に5人がかりで対応してくたくたになっていた。
「うへぇ……こっちが元農民だからってお祝いの品でガラクタ押し付けてきたり、上から目線で言い寄ってくる馬鹿も居て本当にしんどい……」
「面接の方も色々いたよ……才能あればどんな人でも雇う気はこっちには無いのに……」
面接担当をしていたシュネとマンシュタインも伸びている。
アキは疲労を抜く薬と頭の疲労を回復する薬を机にもたれかかりながらストローでチューチュー吸っているし、メアリーは目を回してソファーで仮眠していた。
「いわ、ひでぇ有様だなこりゃ」
「デーニッツさん……数日ぶりですね……」
「おう、坊主や嬢ちゃん達は貴族の洗礼を受けまくっているようだな」
伸びている俺達を見てデーニッツさんは苦笑いしながら、置かれているソファに座ると、懐から酒を取り出して飲み始めた。
「ぷはぁ、貴族になるって大変だろう。よくそんな茨な道を選ぶよな。俺も宮仕えとはいえ、お館様のご厚意で結構自由にやらせてもらっているが」
そう言って俺達を見渡すと、マンシュタインの存在に気がついた。
マンシュタインも遅れながらデーニッツさんの存在に気が付き、仕事モードに切り替えると
「初めまして、ナーリッツ様達に使えるマンシュタイン・サドラーと申します」
「おう、サドラー家のボンボンじゃねぇか。頭回ってねーな。俺達初めましてじゃねーよ。何度かパーティーで会ってるぞ」
「失礼しました」
「気をつけろよ。貴族の中には侮辱されたと思う馬鹿もたまに居るからな……ふーむ。マンシュタインも魔法使いか」
「はい!」
「人より魔力量は多いが、年相応の魔力量だな。ナーリッツ達の魔力量が異常だが」
「わかるんですか?」
「そりゃ探知の魔法が使えれば相手がどれだけ魔力があるかおおよそ理解することができる。というか俺が見た中で最大だお前ら。突然変異だと思うが魔力多すぎるだろ」
デーニッツさん曰く、彼が見てきた中で最大量の魔力を持っていたのは、辺境伯様と一緒に帝都に行く機会があり、そこで宮廷魔導師のエルフの婆と手合わすることになったらしく、そのエルフの婆さんが膨大な魔力を保有していたが、その数倍の魔力反応が俺達からすると言われていた。
まぁ正解だろう。
転生する前の神の間で最後に測った魔力量は4万を超えていた。
この世界に来てから人々の魔力や魔物の魔力、ワイバーンなどの魔力量を客観的に見てきたが、ワイバーンでも俺達の5分の1以下の魔力量である。
デーニッツさんの魔力量はワイバーンと同等。
俺達もこの世界に来てから魔力量を上げるトレーニングもしてきたので、前より上がってるとして暫定的に4万5000の魔力量とするが、デーニッツさんはおおよそ9000くらいの魔力量を保有していた。
まぁぼんやりと見える状態なので実際の量は測定することはできないが。
ちなみにマンシュタインと最初に会った時が1500くらいで、約3週間の魔力増強トレーニングで1650くらいに上がっている。
スターとマリーの方が伸びが顕著で、胃もたれなんのそので魔力回復ポーションをがぶ飲みしながら魔力増強を続け、1200くらいだった魔力量を1600まで引き上げていた。
アキ曰く1週間分のポーションを1日で空にしながら練習しているらしいので、無茶しよると後方師匠面していた。
あくまで数字はイメージに基づくものなので、実際は誤差があるだろう。
「ナーリッツ達は膨大な魔力で相手を威圧するのも良いけど、魔力量を隠す事を覚えた方が良いかもな。宮廷魔導師の連中は力量を隠すために魔力量をあえて過少に見せている奴もいるらしいし」
「デーニッツさんはしないんですか?」
「俺は魔力量は無茶苦茶多いわけじゃねえからな。長年魔法の研鑽を積んで燃費を良くしていったタイプだし……あと成長限界でもある。40近くからめっきり魔力が伸びなくなってな」
神の間にあった書物によると、魔力量は死ぬまで伸び続けるが、成長が鈍化するタイミングがあると書かれていた。
恐らく肉体によるキャパ上限だろうとそういうのを調べていたメアリーが前に語っていたが、精神体で肉体が持てる魔力量を超越してしまった俺達は例外として、普通の人は特異体質や種族的優位性がない限り、5000前後で止まると見たほうが良さそうである。
俺達予備校に来て魔法について教えてくれている非常勤の魔法使いの爺さん先生もゴールドランクの冒険者として活躍した実績があると、俺達の10分の1程度の魔力量しか無かった。
才能ある人はもっと魔力を増やすことができるのであろうが、通常のやり方で1万近くの魔力まで高めるのにかかる年数が約28年。
ポーションで無理矢理伸ばすトレーニングができる財力があるのであれば短縮することもできるが、才能限界……魔力の伸びが著しく鈍化してしまう所に到達してしまう人の方が多いだろう。
「全く、年を重ねた方が魔法使いは基本強くなるのに、この年齢でこれだけの魔力を持っているんだろ……最終的にどこまで伸びるだろうな」
「研鑽は続けます」
「おう、続けろ続けろ」
酒をラッパ飲みしながらデーニッツさんは一呼吸置いて
「辺境伯から正式に地竜の討伐および薬の材料となる地竜の血液の採取依頼だ。俺と一緒に来てもらうぞ」
「わかりました。デーニッツさんと俺達だけな感じですか?」
「ああ、パーティーじゃなくてお前達個々人に対しての依頼……実質命令だ。再来週の休息日に出発し、2泊3日を予定している。行けるな」
「わかりました。辺境伯様のご子息の命もかかっているので頑張らせてもらいます」
「俺単体だとどうしても倒せない相手だ。サポートはするが、本当に頼むぞ」
「「「「はい!」」」




