第85話 家臣の給料決め
屋敷への引っ越しが終わったが、アキの錬金術を行うアトリエの建設が一番大変だった。
アキは屋敷の横に土魔法で大量にレンガを作り、俺やシュネ、メアリーがレンガを火魔法で焼いてかためていき、セメントみたいな物質をアキが魔法で作ると、それをどんどん組み立てていき、3時間程度で塔が完成した。
その中に今まで置けなかった石窯と、アキがワイバーンの血や骨粉、ワイバーンが住んでいた山で僅かに採れた砂鉄を混ぜ込んで作った真っ赤にテカっている巨大な鍋(全高1メートル50センチ、直径3メートルの土鍋みたいな形をした鍋)を置き、魔石から水が出てくる給水器の様な魔導具や火加減を調整するアキ特製の魔導具(ワイバーンの魔石で動く特注コンロ)なんかを惜しげもなく設置していた。
ラインハルトは奥様は何を作っているのか聞かれて、アキは本物の錬金術師であると答えたら、怪訝そうな顔をされたが、俺が異空間からアキが作った化粧品だったり治癒のポーションや魔力回復のポーションなんかを見せると、一応納得はしてくれたが
「錬金術に傾倒して家が傾いた貴族も居なくはないので気をつけてください」
と注意を受けた。
まぁアキが使う分は俺達が稼いでくればいいし、アキも無駄な物は作らないだろうし。
とりあえずこれで引っ越し作業は終了。
続いて家臣の人達との年俸交渉が始まる。
まず爵位をもらった俺、メアリー、シュネ、アキの4人は金を出す側である。
まず一番高給取りになる執事長のラインハルトから決めていくが相場がまず分からない。
「どれぐらい欲しいんだ?」
「そうですね……冒険者予備校で教師もしますからナーリッツ様達からはとりあえずで白金貨18枚でどうでしょうか」
日本円換算で1800万くらいか。
執事の相場はわからないけど、色々教えて貰う立場だし、ワイバーンを辺境伯に白金貨8万枚で買い取って貰ったので、18枚くらいは余裕で出せる。
「ラインハルトの年俸はそれで良いとして、そもそも騎士ってどれくらいの家臣を雇うのが正常なんだ?」
「そうですねぇ」
ラインハルト曰く、領地を持たない騎士が雇う家臣の数は収入によって変わってくるが、役職を持たない貧乏騎士であれば従者を1人雇うに留めるらしい。
役職持ちの場合はその役職手当の金額に合わせて家臣や従者の数を増やし、多くても20人くらいが相場らしい。
「ただ奥様達も騎士の役職を拝命していますし、ナーリッツ様は辺境伯様からの任務が達成された暁には男爵位を下賜されます。となると最低でも30人くらいは雇っておく必要がありますし、ナーリッツ様達は辺境伯家の魔法使いとしての役職を拝命なされるので、弟子を抱える必要もございます。弟子も1人4、5名として、合計20名くらいは抱えないといけないかもしれません」
「お、おう……」
マンシュタイン、スター、マリーの3人に、クリスとミクのメイド2人、銀の翼の4人に冒険者予備校のクラスメイト達8人……これで17人。
派遣されているラインハルトに、軍属のマリーの兄貴やその同僚5名も合わせれば合計23名……一応最低限の体制は整えることができるか。
「給料の相場をラインハルトに聞いても良いか?」
「勿論。そのための私ですから」
次に部屋に入ってきたのはマンシュタイン。
ラインハルト曰く、一定水準の魔法使いかつ若ければ将来性を見込んで金額を提示するらしく、更にマンシュタインは辺境伯の重臣の家柄出身。
それに見合う教育を受けているとすると年俸は白金貨6枚に冒険者としてのマンシュタインが得た利益は全額マンシュタインの懐に入れられるという契約が良いと言われた。
「これは辺境伯様も言っていたと思いますが、優秀な冒険者を抱えていると貴族としての箔が上がるのです。なので家臣としての手当とは別に、冒険者としてのメリットも提示するのが普通です」
「なるほど……じゃあ」
その契約に食と住についても盛り込んだ。
当面は部屋で住み込みで働いてもらうけど、家庭を持つようになったら住居を提供することも約束する。
「ありがたき幸せ」
マンシュタインも納得してくれたらしい。
スターとマリーはマンシュタインみたいに貴族としてのサポートは期待していないので年俸を白金貨5枚と金貨5枚、あと冒険者手当を付けるのと住む場所と食事の提供で合意。
クリスは教会からの派遣であるので、教会から賃金は貰っているが、俺からも追加で白金貨5枚を加算させて貰ったし、作業服の支給もすることで決着。
ミクはメイド見習いなので白金貨4枚と金貨5枚と衣食住提供で決着。
残りの派遣されている警備の人達は辺境伯からも手当を貰っているらしいし、こちらからは白金貨3枚と食事の提供で合意してもらった。
警備と言っても留守の時に泥棒に入らないようにするくらいだからね。
「ふう、これで現状の契約はオッケーか」
「終わったー」
「見知った仲だけど給料を決めるとなると緊張する……」
「給料ですが、年俸を月毎に分けて口座がある人は振り込むことにします。その管理はお任せください」
「定期的にちゃんと支払われているか確認するけど良い?」
俺はラインハルトに一応確認をする。
「ええ、金銭の中抜きはしないと約束しますが、金額に目がくらんで不正を行う者もいますので、当主であるナーリッツ様や奥様方が定期的に口座の監視をするのが良いでしょう。一応皆様方はまだ個人で口座は作れないため、ケッセルリンク家という家の口座でまとめられているため、個人口座を作れる年齢になっても、家の口座から抜き取りすぎないようにしてください。家臣の給料は基本家の口座から引き落とされるので」
まぁそれはそうだな。
ラインハルト曰く地方領主の中には文字の読み書きや計算も怪しい者がいるらしいので、そういう人が地主や名主の様な領主の下で徴税したりしている人がちょろまかすことがあったり、町に住んでいる貴族でも、あまりに馬鹿だと家臣が家主を操ってしまうことがあるらしい。
「詳しいんだな」
「あまり言いたくないんですが、私の実家はそんな馬鹿な貴族を操っていた家でして……」
ラインハルト曰く、数代前までは貴族に使える家臣であったが、馬鹿貴族の実権を掌握してしまい、逆に家を乗っ取ってしまったらしい。
貴族社会でそれは大丈夫なのかとも思うが、ラインハルトの爺さんは貴族を傀儡にしている状態は危ないと思い、先代の辺境伯様にその貴族の実態を暴露。
先代辺境伯様と共謀して傀儡になってい貴族を物理的に排除して、改めて男爵の地位を手に入れたらしい。
「そんな歴史があるので爵位を継ぐことのできない私みたいなのは能力があっても他の貴族から乗っ取られるのではないかと疑われてしまって……辺境伯様の家で家臣になるか実家で飼い殺されるか、商人や冒険者になるしかないのですよ」
ラインハルトは能力が高かったので辺境伯の次男のフレデリック様と学友だったらしく、その兄であるバイパー様からも能力と人柄を認められて、何かしら役職か大事な場面を任せると言われていたらしい。
俺達に派遣されたのは新興貴族として機能してくれないと、バイパー様の治療薬の入手が滞ってしまう可能性があるので、フレデリック様や辺境伯様からくれぐれもと言われているらしい。
「まぁそんな訳ありの家出身なので他の貴族からナーリッツ様は同情されると思いますので、それも込みで私を送り込んだのでしょう」
色々な理由があるんだな……。
「現状頼れるのラインハルトしか居ないから本当に頼むぞ」
「お任せください!」




