第8話 最初に覚えた魔法……汗を生み出す
俺が飯を作り終えて、中央の部屋に皆を呼び集める。
最初書庫に向かうと桜花さんがまだ調べ物をしていたが、声をかけて食事に来てもらう。
一方で実里とつららちゃんを呼びに体育館の部屋を確認したが、2人はその部屋にいなかったので、脱衣所の部屋の方を確認すると、はしゃいでいる2人を見つけた。
「何か発見したのか?」
「あ! 夏兄! それがね!」
「まぁ待て待て、食事できてるからそこで桜花さんと一緒に聞くから」
「うん……わかった!」
2人を椅子に座らせて、4人揃った所で
「「「「いただきます」」」」
日本人らしく食事の挨拶をして箸で食べ始める。
「なんだよ……男料理って言ってた割には阿部君家庭的じゃないか! 美味しくできてるよ!」
「夏兄、家で料理全然作らないのに料理できるんだ……」
「バイトで夜遅く帰ったら親も実里も寝てる事あるだろ? そういう時にちょこっと作って食べることがちょこちょこあってな」
「夏樹さん、美味しいです!」
とりあえず全員から美味しいと言ってもらえて良かった……。
うん、イカ焼きも豚汁も自画自賛になるが美味いな。
「そう言えば実里とつららちゃん、脱衣所ではしゃいでいたけど、何かわかったんだろ?」
俺が2人に話題を振ると、そうそうと興奮気味に実里が話し始める。
「私達が考えていた仮説の1つが当たっていたらしく、夏兄が走ったら体が熱くなったって言っていたじゃん。だからその熱くなるのが魔力由来なんじゃないかって思って色々試してみたの! で、体を冷やそうと汗をかくイメージをしてみたら汗がかけたの!」
「汗をかくってそれは普通……あ、そっか、今精神体だから生理現象が起きないのか」
「うん! で、汗を大量にかいたのを確認してから、脱衣所の血圧計擬き……魔力測定機ってこれから呼ぶけど、それで測ったら現在の魔力量が減っていたんだよね」
「おお、ということは汗をかく魔法が成功しているってことか?」
「そうなるの! だから今私達精神体だから、魔法を覚えていくのに生理現象の再現からのほうが分かりやすいと思うんだよね!」
「なるほどな……」
実里は汗をかくということは水を生み出すのと同じと考えているらしく、汗の量を多くしていったり汗が出る場所を調整したり、慣れてきたら汗の性質……色を着色してみたり、塩分量を多くしてみたり色々できると思うとも喋ってくれた。
あとつららちゃんが補足で魔法には色々属性があるらしくて、汗をかく魔法は水魔法だけど、汗の温度を調整するとなると熱に関連するから炎魔法、汗に塩を混ぜるとなると塩は土魔法で生み出していることになるらしい。
うん、俺も何作品か魔法が出てくるラノベやネット小説は読んだことがあるが、汗から始まる魔法の覚え方……みたいなのは初めてだ。
精神体だからこそできる魔法の覚え方だな……。
2人曰く運動することで汗をかくイメージが明確にできたから汗の魔法ができたとのこと。
つまりイメージさえ固まれば指先から炎を出したり、物を凍らせたりすることも可能ではある……ということだろうか。
うーん、要検証だな。
「桜花さんはどうです?」
「僕かい? そうだね……」
桜花さんが調べていた転生先の異世界についての情報であるが、世界地図を見ると、オセアニアの地域をまるまる世界地図に落とし込んだみたいな世界が広がっているらしい。
「食後に地図を見せようと思うが、オーストラリア大陸に当たる場所に複数個の国家が乱立していて、ニューギニア島は1つの大国が支配していて、ニュージランドは2つの国で分かれている感じ。あとは太平洋の島々もほぼ同じくらいの位置にあって、その島が地球に比べて6倍から7倍の大きさがあるっぽい」
桜花さんの説明によれば世界で3番目に小さい国であるナウル共和国に当たる島が異世界だと大阪の堺市くらいの大きさになっているらしい。
うん、わかりづらいな、東京ドーム換算だとナウル島の広さが東京ドーム約450個だったのが、約3100個分まで広がったと考えるのが良いだろう。
……それでも国としてはまだだいぶ小さいが……。
一旦食事に集中し、食べ終わった後に桜花さんに再度説明を求め、桜花さんが世界地図の載った本をテーブルに広げ、俺達が覗き込む。
「なんで異世界の地図がオセアニアの地域の地図と合致するのかは分からないけど、異世界の中心はオーストラリア大陸に当たる大陸ね。画面の男が言っていた帝国ってのがここら辺」
桜花さんは地図に丸を付ける。
それが西オーストラリア州におおよそ当たる。
この中に無数の貴族領土が諸国として存在している感じらしい。
ここの何処かに俺達は転生することになるらしい。
「ぶっちゃけて言えば農業国家かつ広い未開拓の場所が広がっているの。南西の海岸沿い……と言っても海岸から数百キロ内陸まで樹海に覆われていたり、地球だと南オーストラリア州って言われている場所も殆どが未開拓になっているらしいね」
「まぁとりあえず僕達はこの帝国について調べていけば良いと思うけど」
桜花さんに帝国の名前とかはわからないのですかと聞くと、異国の文字で書かれているから、発音がわからないとなんとも言えないと言われてしまった。
まぁでも生活の様子とか通貨の価値、社会の仕組みなんかがわかっておけば転生後の生活もだいぶ楽になるだろうな……。
「じゃあ食器洗っておくから皆風呂先に入ってきなよ」
「いやいや、料理作ってもらったから洗い物くらいは僕達がやるからさ」
桜花さんがそう言い、実里とつららちゃんも頷く。
「夏樹さん、先にお風呂入ってきてください」
「夏兄、先いいから」
「そ、そうか? 悪いな」
俺は3人に言われて先に風呂に入るのだった。
フェイスタオルをラックから取って、お風呂場に向かい、洗い場で体を洗っていく。
「リンスインシャンプー使うけど……精神体の髪の毛って綺麗になるもんなだろうか?」
匂いを嗅いでみるが、特に強い匂いがするわけでもなく、石鹸の匂いだなぁとしか感じない。
味覚と嗅覚、聴覚、視覚は普通なんだよな。
触覚の一部が感じにくいだけで……。
タオルにボディソープを付けて、体を洗っていくが、垢は出ていないし、ゴシゴシ擦ったら体毛が付着していることもあるのだが、そういのも無かった。
体に付いた泡を流してお風呂に浸かり、数分。
今のうちに性欲もすっきりさせておこうと洗い場で自慰行為をしてみたが、全くイケる気配が無い。
「精神体だから射精に通じる感覚が遮断されている!?」
そうなると性的欲求が解消されないというのは思いのほか苦痛である。
ただ今はどうしようもできないので風呂から上がる。
体をタオルで軽く水を流してから外に出てバスタオルで水気を拭いていく。
髪の毛もドライヤーで乾かしてから中央の部屋に戻ると、他のメンバーは布団を敷いて寝る準備を進めていた。
「じゃあ僕達お風呂に入ってくるから、阿部君は先に寝ていても良いからね」
そう桜花さんに言われて布団にくるまる。
もうこうなったら眠るしかないと割り切り、ムラムラしている自分の心を落ち着けて目を閉じるのであった。
こんな状態でも目をつぶって数十秒で眠りの世界に行けた俺は凄いと思う。




