第73話 狩り勝負 下
「なぁ、思ったんだが……マンシュタインはなんで風の刃ばかり使うんだ?」
レッドオークを倒して、俺が血抜きをしている時に、マンシュタインにそう聞いた。
「なぜって……魔法は1つの系統を極めた方が強くなる。常識だぞ」
「ふーん」
神の間で調べた限りでは魔法についてそんな記述はどこにも無かった。
恐らく繰り返し同じ魔法を使うことによる魔法の効率化を無意識に行うことで、体に慣れさせ、出力が上がる……という原理だろう。
俺も精神体で出せた出力とこの肉体になってから出力できるようになるまで数年かかった。
現状でも俺やメアリー達はリミッターがかかっている状態である。
体に馴染ませるという工程が1つの魔法を使い続けることで強力な魔法を使えるようになる……という誤解を生み出す原因になっているのだろう。
別に体に馴染めば何種類も魔法を使えたほうが手数が増えるし、魔物の相性によっては弱点を突くこともできる。
正直1つの魔法だけを極めるだと、対処出来ない場面が現れても不思議ではない。
「マンシュタイン、それは危険な考え方だ。俺達は宮廷魔導師ではなく冒険者を目指している。その場合複数の魔法が使えたほうが生存率は高くなる」
例えば足止めに際してもスターが行ったように感電させて動きを鈍らせる、穴に誘い込んで落とす、消臭や消音の魔法で痕跡を消す、火の壁を作り、火に対する防衛本能で動きを止める、幻影の魔法で騙す……と複数の魔法が使えればこれだけ生存率が上がる。
攻撃魔法でも同じ、風の刃だとどうしても肉体の防御力が高かったり、岩を全身に纏っている様な相手、ワイバーンみたいに魔法自体が効きづらい相手なんかは効果が薄い。
その場合の倒し方はスターとマリーがやったような連携して急所を攻撃する、もしくは質量で押しつぶす、呼吸器官があるなら周辺の酸素を燃焼し尽くして窒息死させるのも手である。
魔物の種類が千差万別の様に殺し方も多種多様。
1つに凝るとそれだけ可能性を縮めることになるのである。
「それって凄くもったいなくないか?」
勿論種族的や身体的に魔法の種類が限られていたりする場合もある。
そこは他の手段でカバーすることが大切。
「マンシュタインも、他の魔法に挑戦してみろよ。案外最初と今じゃ魔法の適性も変わっていたりするかもしれねぇからさ!」
そう言って、俺はレッドオークを異空間に仕舞うと次行くぞーと別の獲物を探しに行くのだった。
「はぁ……はぁ……」
「魔力切れ……」
「ポーション飲んでおけ」
魔物との戦闘は実力差を測れなければ常に全力に近い魔法を使う必要がある。
俺も魔物の森やワイバーンとの戦闘に慣れていなかった頃は常に全力で、力加減を覚えるのに苦労した。
最近だと魔物は相手の魔力の大きさで強さをおおよそ測ることができるため、探知で魔力量を測定し、それと外見的特徴、あとは感で、どれくらいの魔法を使えば倒せるかなんとなくわかっていた。
経験が浅いマンシュタイン達は魔力の使いすぎでへばっている。
初心者の冒険者が陥りやすいミスの1つで、自身の魔力残量の把握が、周囲の警戒するのに注力して疎かになり、道中で魔力切れを起こしてしまう……というのである。
魔力が尽きれば意識が遠のき、気絶してしまうので魔力残留に気にしながら立ち回らなければならない。
今回はアキ特製のポーションがあるのでなんとかなるのであるが……。
「ぷはぁ……初歩的なことをやってしまった……」
「マンシュタイン仕方がない。逆にこうして余裕があるうちに限界を知れたのはいい糧になると思うけどな」
それに探知の魔法を強化していけば、魔物の実力もわかるようになって、こういう事も減っていくと付け足す。
「マンシュタインとスターは良いよ……私は感覚で覚えなきゃいけないから」
外部に魔力を放出できない欠点を持っているマリーがそう嘆く。
まぁ同じく探知の魔法ができないアキもなんとなく実力差は見極められるようになっているので、経験でわかりそうなものであるが……。
「さてと、ここらで切り上げよう。魔力を回復したとはいえ、精神的な疲労までは回復できないからな」
俺はそう言って、狩場の外に向かって移動するのであった。
狩場の外ではメアリー達が荷車の近くで休憩しており、その背後には彼女達が狩った魔物が山積みにされていた。
全長15メートル、重さも200キロ近くで牛すら丸呑みにするヘビの魔物……ジャイアントサーペント。
大熊化したアキと同じくらいの大きさのカエルの魔物……タイタンフロッグ。
全長5メートルの怪鳥……ロックバード。
どれも魔物の領域でボスを張れるほど強い魔物である。
「ブラッディベアー以上の魔物がこんなに……」
マンシュタインが驚いて顎が外れんばかりにあんぐりと口を開けているが、こいつらは俺の村の近くの魔物の領域で普通に居た魔物である。
というかワイバーンの腹を裂くと中から出てくるワイバーン達のよく食べる獲物であった。
1体で白金貨20枚はするんじゃないかとビクついている。
「ホーンタイガーを群れで狩れるから可能だとは思っていたけど……」
「実際に狩られると実力差が見えて、少しドン引きしちゃう……」
スターとマリーの2人はレッドオークを倒せたから少しは自慢できるんじゃないかと思っていたらしいけど、残念ながらメアリー達の方が凄かったな。
「じゃあ換金に行く前に、ご飯でも食べようか。僕お腹ペコペコだよ」
現在時刻は午後2時。
朝の10時から潜っていたし、昼食を食べなかったのでお腹が空いていた。
「何か食べたい料理あるか?」
「それじゃあパンケーキが食べたい」
「おいおい、昼メシなのに甘いのかよ……腹にたまるタイプに工夫するけど文句無しな」
シュネからリクエストが入り、パンケーキを作ることに。
俺は異空間から調理台と石窯を地面に置く。
アキ特製の焦げにくいフライパンを窯の上に置き、食材を出していく。
今回作るのはジャガイモのパンケーキ。
東欧の料理だ。
作り方は簡単。
皮を剥いたジャガイモと玉ねぎをすりおろし、あとはパンケーキを作る要領で生地に混ぜて焼くだけ。
今回は重曹を入れたので普通のパンケーキの様に生地が膨らみ、見た目はパンケーキに近くなる。
逆に重曹ではなく塩、胡椒を混ぜると一気におかずに変身する面白い食べ物である。
塩を混ぜて焼いた方は平べったくて固くなるので、ハッシュドポテトに近くなる。
重曹を入れた方ははちみつをかけて召し上がれ。
「神に感謝を」
「「「神に感謝を」」」
心の中でいただきますと唱えて木のプレートに盛り付けられたジャガイモパンケーキをフォークで崩して食べていく。
塩の方は外はカリッと、中はふわっとしていてホクホクで滅茶苦茶美味しい。
一方で重曹入りの方はおかずではなくデザートだな。
ジャガイモと玉ねぎの風味があり、腹持ちは普通のパンケーキよりありそうである。
「相変わらずどう考えたらこんな素晴らしい料理を思いつくんだ? 滅茶苦茶美味しいぞ!」
「マンシュタインありがとう」
彼が褒めるということは上流階級でも十分に楽しめる料理であるっぽいな。
スターやマリーの2人も甘いパンケーキを食べて、頬を抑えて嬉しそうに食べている。
こうして狩りの勝負はもうメアリー達グループが勝っているのは分かるが、冒険者ギルドに持ち込んで金額の査定をしてもらうのであった。




