第71話 宿を替えたスターとマリー 授業の様子
「ナツ! メアリー! アキ! シュネ! 宿替えてこっちに来たよー!」
「よろしくお願いします」
予備校が終わって、部屋で寛いでいた俺やメアリー達に、スターとマリーの2人が宿を替えたから挨拶に来てくれた。
「お、来た来た。ちょうど良いところに」
俺達の部屋では奥でカセットコンロサイズの小さな火を灯す魔導具(アキ自作)に土鍋が置かれて、アキが錬金術を行なっていた。
他所から見たら、スープ作っているようにしか見えないが。
「ほい、今日の分のポーション」
「あ、ありがとうございます」
アキのやっている行動に2人は興味津々であるが、俺が先に魔力回復のポーションをスターとマリーの2人に押し付ける。
「アキは何をやっているの?」
「あぁ、錬金術をしている」
「え? 錬金術?」
詐欺の代名詞になってしまっている錬金術であるが、才能がある人が行えば既存の薬学や技術にも勝る物質が作ることができる。
「実際このポーションもアキが錬金術で作った物だよ」
「調薬で作った物じゃないんだ……」
「今作っているのは何ですか?」
「アキ! 今何を作ってるんだ?」
俺はアキに聞くと、この宿の人達が使うシャンプーとリンスを作っているらしい。
ミクに前、初歩的なシャンプーとリンスの作り方は教えたが、泡立ちだったり、匂い等のより品質の良い物はアキが作ったほうが手っ取り早かった。
俺達は予備校の関係でどうしても朝は早い時間から予備校に行ってしまうため、嬢達が夜に汚れた体を洗い流す時に居ないので、その時に綺麗にするのに作り置きのシャンプーやリンス、ボディソープを用意しておいた方が良いんじゃないかと思い、ミクさんと交渉し、作ったシャンプー等を買い取ってもらっていた。
嬢達からも好評らしい。
「それが1つの鍋でできるんだ……」
「本当はもっと大きな鍋で大量に作りたいんだけど、私達はあくまで宿に泊まっている立場だからね。宿側に迷惑はかけられないわ」
「でも本物の錬金術師っているのね……度々怪しい薬を闇で売って検挙されるっていうのを繰り返しているから……」
「それを知っているから、私も外で錬金術師を名乗ることは止めているわよ。でも才能があれば便利なのも事実なのよね……」
アキは鍋を煮込みながらそう呟く。
「そう言えばこの宿混浴だけど大丈夫か?」
「混浴かぁ……男性が多く入っている時間とかあるの?」
「18時頃の男性客は入り始めた頃と7時頃の朝だな。逆に20時以降は非番の嬢以外はほぼ入ってないな」
「じゃあその時間に入るね」
「久しぶりのお風呂……安宿だと部屋で体を拭くか洗浄の魔法を使うしか無かったからね」
「大変だったな」
スターとマリーの2人と話を少しして、そのまま夕食を食べに食堂へと移動するのだった。
夕食後、スターとマリーは魔力量を上げるトレーニングをするからと部屋に閉じこもり、俺やメアリー、アキ、シュネの4人は部屋で今後の話し合いをしていた。
「想像以上に金を稼ぐことができそうだね」
メアリーが言うように今回はブラッディベアーを狩れたから金額が跳ね上がったが、それを抜いたとしても金貨200枚はかたい。
7人で分配しても1人28枚前後の金貨を得ることができる。
俺達だけならもっと難易度が高い狩場に行っても良いが、流石に教官から許可が下りない可能性もあるからな……。
「金を稼いで、将来のクラン運用資金にするとして……クランをデカくして貴族になるためにはやっぱりどっかで大貴族とのコネが必要になってくるよなぁ……」
「そうよねぇ……」
俺の言葉にシュネも同調する。
それに貴族になったら今度は爵位を上げるために頑張らなければならない。
そう考えると大貴族の後ろ盾を得てから、辺境を開拓していくって感じが良いのかもしれない。
幸い帝国には魔物が蔓延っている領域が沢山あるし……。
「そう言えばアキ、この前鍛冶屋で鉄の塊とか買っていたけど加工できそうか?」
「勿論! 今までやりたくてできなかった調理器具の一新や錬金術を使った武器の製作もできそうだよ」
「それは良かった。まぁ現状ワイバーンの剣でも別に問題は無いけどな」
「うん、私もワイバーンの手斧で十分だけど……でも鉄製の武器も作っておいて損は無いと思ってね!」
俺とメアリーは剣、シュネは杖、アキは手斧というのが俺達が強敵に挑む際に使う武器である。
剣術が優れている訳では無いが、魔法の補助として活用している。
言っちゃ悪いが武芸だけならマリーの方が俺達より優れているのは予備校での授業だったり狩場での戦闘で判明している。
ちなみにマンシュタインも剣、スターが杖、マリーが手斧と結構装備は被っている。
前回の狩場では俺達4人はブラッディベアーを倒す際に、一瞬ワイバーンの剣を使ったくらいしか見せてないが。
「今はマンシュタインやスター、マリー達と信頼関係を築いていくのが先決じゃない?」
「それもそうだな」
アキの言葉に同調する。
あとは他のクラスメイト達ともできれば仲良くしていきたいが……どうなるだろうか。
そんな話し合いを続けるのだった。
「冒険者として活動していると、どうしても野営をすることがある。例えば商人の護衛なんかは、馬車の中で寝ると体が固まって動きが悪くなる。夜間も移動するということでもない限り野営をして明日への英気を養う」
ジェイシェット教官が冒険者の常識についての授業をしていて、俺やクラスメイト達も熱心に聞いている。
授業に関しては文字の読み書きは全員ができるため削られて、その分、帝国の歴史や地理、算術、今回のような冒険者としての常識や心構え、魔物の生態なんかの座学比率が多くなっていた。
今日の午後からはこの授業に関連して、テントを張る実習をすると言われていた。
俺達も村からこの町に来るまで銀の翼のメンバー達と野営を何度もしてきたが、不便な箇所が幾つもあった。
例えばテントの狭さだったり、敷物をしていても伝わってくる地面の寒さ。
雨の日はテントに水が入ってこないように排水路を作ったり、テントの質があまり良くないので水漏れに対応したりと色々あったことを思い出す。
俺の場合は魔力で石の小屋を作ってそこで野営した方が良いような気もするが……どうなのだろうか?
隣の席のアキが紙切れを俺に渡してくる。
そこには念話繋いでと書かれていたので、アキと念話を繋ぐ。
『どうしたアキ?』
『うーんテントについてなんだけど、私らの場合事前に組み立てていた物をナツの空間魔法で運んだほうが良いんじゃないかなって思って……そもそも電気やガス、水道が通ってないから家ごと運ぶってこともできるでしょ、ナツなら』
『確かに出来るけど……そのために拠点となる家を買うのか?』
『まぁ流石に家は買わないけど、地球の遊牧民が建ててる巨大なテント……なんだっけあれ?』
『モンゴルのゲルか?』
『そうそれ、あれなら中にベッドを置いたりできるから模倣してみない? 似たような住居がこの世界にもあるらしいし』
『調べてみようか……実際にあったら便利だしな』
『私から皆には話しておくよ』
『おう、頼むわ』
特注のテント……ゲルを作ることが決まったのだった。




