第69話 事件の始まり
狩りから数日後、俺達は予備校に通っていると、ジェイシェット教官から呼び出しを受けた。
俺達は職員室に行くと教官から金貨の入った袋を渡された。
「冒険者ギルドから、お前達に買取した金額の支払いが届いた……初っ端から随分と稼いだみたいだな。校長が、当予備校生歴代1位の稼ぎと絶賛していたぞ」
「ナツの空間魔法のお陰です」
マンシュタインが俺のことを褒める。
「褒め合うのは良いが、お前ら泊まっている宿の防犯は大丈夫か? 等分として分け合うにも中々の金額になるぞ」
「それは……」
スターとマリーの2人がまずそうな顔をする。
どうやら2人はあまり良い宿に泊まっていなかったらしい。
「セキュリティ面の高い宿に移動しろ。マンシュタイン、お前なら良い宿を紹介できるんじゃないか?」
「いや、僕は実家から通っているので女性陣を泊まらせるわけには……」
「……あんまり期待していないがナーリッツの宿はどうだ?」
「うーん、2人が大丈夫ならセキュリティ面には考えがありますが」
「本当!」
「懇意にしている商会があるので、お金はそこに預けるのはどうでしょうか。宿は……娼館と兼業しているお店なので、ちょっと女性には刺激が強いかもしれませんが」
「どこの宿だ?」
教官が俺に聞き、妖精の止まり木という宿だと答えると、あそこならそこらの宿より安全だと教官も太鼓判を押す。
スターとマリーは実家を出ているから、実家を再び頼るというのはあまりしたくないらしい。
それに毎週狩りに行けばこれくらい毎回稼げると俺が言うと、教官からも口座が年齢を理由に作れないから、冒険者予備校で預かる……ということもできなくは無いが、生徒から預かった金に手を出して解雇された職員が去年出たので、あまり預けない方が良いだろうと言われた。
それに仮パーティーなのでパーティー資金として預かると解散の時に揉めるので、個別分配しておけよとも言われた。
結局スターとマリーの2人は今の宿は安全面を考えて俺達の泊まっている宿へ引っ越しすること、俺が金を預けているクム商会のゼファーさんにマンシュタインも含めてお金を預けると言うので合意した。
買取金額通り教官から渡された袋には金貨が300枚入っており、俺達は放課後、約束通り金貨を均等に分け合った。
「ナツ、本当に良いのか? 動物や魔物を見つけたのも、ブラッディベアーを倒したのもお前の功績だろ?」
「それに私達魔力のポーションも貰っているし……」
「そうそう」
3人がそう言うが、俺はそれよりも信用できる仲間であれば均等に分けたほうが良いと思っていた。
「マンシュタインやスター、マリーは今は魔物の狩りに慣れていないけれども、1年後……いや、数ヶ月で違うことになるはずだ。それに俺は冒険者になるからには最終的には爵位を持てるような貴族になりたいんだ! その手伝いをしてはくれないか?」
言ってしまえばそのための前払いである。
俺が貴族になりたいという言葉にマンシュタインは
「正直僕も能力があるから冒険者経由で爵位を持とうと考えた事はある。ただ、世の中そんなに甘くは無い。辺境伯の重臣としての家柄故に、貴族になるのがどれだけ大変なのかよく聞くんだ」
「英雄の様にドラゴンを討伐するか、未開の地の開拓に成功するか……それか上手く貴族の家の者と繋がりを持ち、婚姻によって爵位を継承するか……これは元貴族の冒険者にしか適用されないけどな」
「僕は自分の力は足りないと思っている。ただ冒険者になって本物の英雄を見つけたいと思っていたんだ。もしナツが英雄を目指すのであれば……僕は君の剣となろう」
誰かの剣になる。
貴族が王に爵位を継承する時に言う言葉を引用している。
『皇帝の剣となり帝国の守護者たらん』
マンシュタイン、俺と出会ってまだ数日だぞ……そんな相手に忠誠を誓っていいのか?
俺は疑問に思ったのでそう口にするが
「僕はそれが可能だと思ったから言っているんだ!」
語彙を強くしてマンシュタインは断言する。
まぁ本人なりの騎士道でもあるっぽいので、忠誠云々は置いておいて、金は等分で渡す。
42枚に金貨を分け、残り6枚は預かってもらうゼファーさんへの依頼金ということにした。
皆もそれに納得し、俺達はゼファーさんの元に行くのだった。
「初っ端から稼いでるなナツ」
「これぐらいで稼いでるとは言いませんよゼファーさん」
俺達はゼファーさんに金貨を預かってもらいたいと言うと、了承してくれた。
手数料として金貨6枚渡したが、十分すぎるぞとも言われた。
まぁ今後もお世話になるので受け取ってくださいと言うと、受け取ってくれたが。
「せっかくだ。何か買っていくか? 良いものが揃っているぞ」
せっかくなので店内を物色する。
各地の交易商人が仕入れた物が並んでおり、香辛料だったり、染料や布、革製品が並んでいた。
「この革製の剣の鞘なんて良いかも……ゼファーさん、このサイズ他にもありますか?」
「おう、あるぞ」
アキは俺達がよく使っているワイバーンの鱗製の剣にちょうどよい鞘を見つけ、購入していた。
シュネは尻尾を保護する布を見つけ、購入し、メアリーは各地で出没する魔物の情報が書かれた本を購入していた。
俺は香辛料類を購入。
マンシュタイン達は特に買いたい物は無かったらしく、お金を預けるだけにしていた。
その後、店の前でマンシュタイン、スター、マリーの3人と別れて、それぞれの宿に向かうのだった。
「ということで明日俺のパーティーメンバーが宿に泊まりに来ると思うんですが」
「いいねぇ~、お客さんなら歓迎だよ〜!」
ミクさんにスターとマリーの2人を長期滞在することになるかもと言うと、あっさり受け入れてくれた。
長期滞在用の部屋はまだ余っているらしく、問題は無いらしい。
「それにナツ君達の友人なら悪い子じゃないと思うからね」
ミクさんは、だいぶ俺達を信用してくれているみたいだ。
信用を失わないように気をつけないと。
そのまま宿で夕食を食べていると、嬢の人達が噂話をしている。
「ねぇ聞いた? ここ最近墓地から遺体が消失する事件が続いているんだって」
「えー、やだ! 墓荒らしってこと?」
「うーん、一部違って、遺体と一緒に埋められていた装飾品なんかは持ち去られていないの。持ち去られるのは遺体だけ」
「遺体だけって……何のために?」
「冒険者の人達はネクロマンサーが町に潜伏しているんじゃないかって噂しているよ」
「うへ、死体を操る人でしょ……気味悪い」
「というか墓荒らししている時点で犯罪よね」
「衛兵や教会からも犯人を捜索していたり、墓の警備を強化しているらしいけど……成果は上がってないらしいわ」
「気味悪いわね」
ネクロマンサー……黒魔法使いとも言うが、俺の空間魔法同様に特殊な才能を持った魔法使いである。
本来の使い方は死者との降霊術。
事件が起こった際に死者から犯人の手掛かりを聞き出したり、後継者を決めないで亡くなった貴族や商人の当主から後継者について聞き出したりする職業の人達である。
信用されれば上流社会から引っ張りだこになり、そこそこ裕福な暮らしをすることができるが、今回のような悪いことをする人も一定数居るので、今回みたいな騒動が起こるのであろう。
「辺境伯のお膝元で事件を起こすって……犯人何を考えているんだろうか」
「あんまり気分の良い話じゃないね」
「まぁ僕たちには関係ないと思うけど」
「それもそうだな」




