第66話 狩場での狩り1
週末、俺は予備校で荷車を教官から借りる申請が通り、狩りに持っていくことに成功した。
「荷車なんてナーリッツ、何に使うんだ? お前空間魔法が使えるから荷車なんか要らんだろ」
ジェイシェット教官が俺が申請に来た時にそう呟いたが、俺は人を運ぶのに使いたいと説明する。
狩場まで徒歩だと2時間かかるが、飛行魔法を活用していけば5分もかからずに到着することができる。
パーティーメンバーを乗せていけば時短になる。
「ナーリッツ、お前多才だな。飛行魔法も使えるのか」
「逆に魔法使いって飛行魔法使えないんですか? そういう常識に俺疎くて……」
「うーむ」
教官曰く、飛行魔法は魔力の消費量が多いので、魔物との戦闘で優位な位置を取るためや緊急回避の為に飛行するというのはあるらしいが、飛行して長距離を移動するなんて贅沢な使い方をするのは冒険者でも上澄み、帝都の宮廷魔導師達は日常的にしているとの噂もあるらしいが、そのレベルらしい。
「できるのはナーリッツだけか?」
「メアリーとシュネもできます」
「あの2人もか……逆にアキーニャは……ああ、獣人とのハーフだったな」
「ええ、でも彼女は錬金術が使えるので」
「ナーリッツ、錬金術が使えるのはあまり公言するな。アキーニャがどのレベルで錬金術を使えるか分からないが、錬金術って詐欺の常套句だからな」
「あ、そうなんですか」
神の間で調べた限りでは錬金術は才能ある人が使える技術と本に書かれていたが……そりゃ才能ある人だけ使えるなら才能無い人が真似しようとして詐欺も横行するか。
地球でもエセ科学で詐欺を行う奴らもいるくらいだからな。
まぁアキの錬金術はパーティーで共有する程度で留めるか。
とりあえず教官から荷車の借用は許可が出たので、俺は狩場に行く日に朝早く荷車を借りて、皆と合流地点に指定した町の南の検問所近くに行くと、先に待っていたメアリーやアキ、シュネ達にマンシュタインとスター、マリーの3人も合流していた。
「ん? ナツ、荷車なんか何に使うんだ?」
教官と同じ説明をマンシュタイン達にすると、そんなに魔力が持つのかと改めて驚愕していた。
俺やメアリー達村出身のメンバーはワイバーン達と戦ったり、森を移動するのに飛行できないと時間がかかって仕方がなかったからな。
今までは飛べないアキは背負って行けば良かったけど、人数が増えたから荷車に乗せて運んだほうが効率が良いだろう。
マンシュタイン達にそう言うと
「今回の狩場、行くのに時間がかかるのだけが欠点だからね……その時間が短縮できるんなら確かにそれでいいけど」
納得したらしい。
検問所の衛兵に冒険者予備校で発行された冒険者仮の証明書……名前と年齢、性別と冒険者予備校の生徒ですよと証明する文章が書かれた簡易なネームプレートであるが、授業の最中に作らされたのであった。
特待生だからある程度の戦闘はできるだろうという理由で他のクラスより発行が早いらしい。
他のクラスは入学から3週間後に発行らしいので、ちょっと得をした。
町の外に出た俺達は街道から外れた場所で荷車にアキ、マンシュタイン、マリー、スターの4人を乗せ、アキが土魔法で風よけを作る。
「風よけなんて作る必要があるの?」
スターが疑問に思ってアキに聞いているが、アキが結構な速度で飛行するから風よけが無いと常時身体強化をしていないと風が痛みに感じてしまうし、風が当たり続けると寒いので、囲うことが必要なのだと説明する。
一方で持ち上げて運ぶ俺、シュネ、メアリーの3人も準備ができたので、セーのと言って皆を乗せた荷車を持ち上げる。
そのまま俺が前方、後方にメアリーとシュネに持ってもらって空を飛び始める。
最初眺めていたマンシュタイン達もどんどん速度が上がってくると、風よけの中に身を屈め、到着するのを待つ。
徒歩で2時間の距離……約12キロ先にある狩場に3分で到着し、荷車を地面に降ろす。
「本当にあっという間だった……」
「滅茶苦茶速かった……」
「よくあんな速度で飛行できるね」
今回のを時速に直すと時速240キロ。
新幹線の時速が260キロから320キロなのでそれに匹敵する速度である。
この速度で飛べるようになったのは、ワイバーンを狩る時に逃さないためであり、ワイバーン達はなんだかんだ時速150キロくらいで飛行するので、その1.5倍くらいの速度が無いと群れに合流される可能性が高くなり、群れを相手にするのは流石に面倒くさいので、速く飛べるように練習したのであった。
「さてじゃあ狩りを開始するぞ」
おー! と皆元気よく狩場の森に進んでいくのだった。
狩場の森は人の手が殆ど入っておらず、木々が乱雑に倒れていたり、足場となる場所が少なかったり、急斜面がいきなり現れたり……。
まぁ俺が空間魔法と探知の魔法を駆使して比較的通りやすい場所を選んで進んでいた。
「ナツ、何か目印でもあるのか? こんな森の中を迷いなく進んでいくけど」
「あー、空間魔法と探知の魔法で獲物の動きや木々の位置、斜面の傾斜、障害物の有無なんかを頭の中で処理しているんだ。探知魔法覚えてないのか?」
「いや、初めて聞いたぞそんな魔法」
俺は異空間から紙とペンを取り出して、探知の魔法の原理を説明する。
言ってしまえば生き物に反応するレーダーである。
野生動物も含めて生き物は微量の魔力を有しているので、植物の様な更に微量な魔力は反応しないようにして、動物や魔物の魔力を拾えるように周囲に魔力を使った超音波みたいな物を流し、対象物に帰ってきた流れをキャッチして位置関係や相手の魔力量測定する。
空間魔法を組み合わせると、カーナビみたいに立体的に情報を得ることができるが、探知の魔法だと平面上での距離感を把握することができる。
「なるほどな、こんな便利な魔法……なんで俺達習わなかったんだろうか」
「さぁ……やっぱり最初のうちは攻撃する魔法を覚えた方が良いからじゃないか? でもこれを覚えられると動物か魔物の区別もできるし、慣れてくれば魔力量で強さも区別することができるからな。俺も覚えるために何度も練習したから、今度やり方をマンシュタインだけじゃなくてスターやマリーにも教えるよ」
「ありがたい」
「「ありがとう!」」
そうこうしていると獲物の近くに到着する。
前には鹿の群れが6頭ほどたむろしていた。
「鹿だな……俺が手本見せるわ」
俺は手のひらに小さな風の渦を作ると、鹿の方に向けて、風の刃を飛ばす。
すると鹿の首がズルリと体から落ちて、バタバタと体を倒していく。
「ささ、血抜きしないと!」
俺達は周囲を警戒しながら倒した鹿に集まり、水魔法で血抜きをしていく。
マリーが空間魔法にそのまま入れるのじゃダメなのと聞くが、それでも良いが、取り出した時に周囲が鹿の血で血だらけになってしまうので、血抜きくらいはしておいた方が、解体する人に優しいだろうと説明した。
血抜きのやり方をマンシュタイン達に説明すると、初歩的な水魔法でできるため、直ぐにやり方を覚えて、血を抜いていく。
酸素が供給されなくなった血液は臭いを発生させて肉を臭くしたり細菌が繁殖してしまうので、血抜きと内臓の処理くらいはやっておいた方が肉質を美味しく保てる。
まぁ俺のパーティーの場合異空間に仕舞って鮮度維持ができるインチキができるが……。
「冒険者ギルドで大人の鹿1頭が完璧の状態だと銀貨2枚だったから、6頭で銀貨12枚。幸先は良好かしら?」
「そうだなスター。ただこれくらいなら普通の冒険者でも狩れる量だから、もっと狩っていくぞ」
俺達は更に森の奥に進んでいくのだった。




