第61話 教官達の評価 教会に行く
冒険者予備校の試験官達が集まり、入学者達の話し合いをしていた。
「さて、今年も予備校入学の試験が終わったわけであるが、合格者は265名、特待生は魔法の合格者が15名、武芸合格が5名の20名になるな」
「例年通りという具合でしょうか」
「まぁ特待生は4名を除いて貴族のご子息か、辺境伯様の家臣筋か」
「そうではない4人も貴族の零落かなんかか?」
「いや、突然変異に当てはまるらしい」
試験官達は融解している石柱の一部を会議室に持ち込み
「凄まじい温度で溶かしたな。これをやったのが今年の一番か?」
「そうなる。シュネー・フォン・ケッセルリンク。フォンと付いているが貴族ではないようだ」
「没落貴族か。冒険者になって家の再建の為に動いたか?」
「いやはや、確かにあれだけの魔法を使えれば貴族に返り咲くことももしかしたら可能かもしれないからな」
他の特待生の話題に移り、シュネーと一緒の村出身の他3人にも注目が移る。
ゲンシュタイン騎士領では魔法使いの養育が始まったのか? という話になるが、試験官の1人になっていた元冒険者のジェイシェットがゲンシュタイン騎士領に数年前に行った時にはその様子はなかったが、動物の毛皮を売りに来る子供がいた事を思い出す。
「そうか……あの時の子供達が……」
「ジェイシェット、何か思い当たるのか?」
「いや、俺が冒険者だった時にゲンシュタイン騎士領に交易の護衛で行った時に熊や狼の毛皮を売りに来ていた少年少女がいた事を思い出してな。あれが……2年半前だったから、彼らが6歳の時に既に片鱗を見せていたってわけかと思ってな」
「6歳で野生動物を狩れるなら冒険者として高い適性が既にあるな。魔法使いの殆どは町で育っているからな。田舎から出てきた子に比べると動物や魔物を殺したりするのに忌避感を抱く者も居るしな」
「まぁ魔法使いであればそれでも活用方法は色々あるがな」
話し合いも少しすると落ち着きを見せ、冒険者予備校の校長が試験官や教員に教育方針の指示が行われる。
「冒険者ギルドの方から熟練冒険者達の引退が相次いでいるため、例年以上に新人への期待が高まっている。あとフォーグライン辺境伯領ではプラチナ級冒険者が10年以上出ていない。これを踏まえてなるべく有望な者同士でパーティーを組ませることを教員達は意識してくれ」
「以上で今季冒険者予備校の入学試験全過程を終了とする」
試験官や教員達はそれぞれ数日後より始まる新入生受け入れに向けて準備を始めるのであった。
冒険者予備校側から魔法の試験に合格した時点で特待生と明言され、俺達は合格祝いとして町の食堂でちょっと高い料理を楽しんでいた。
白パンにソーセージがたっぷり入ったポトフ、スペアリブの様な骨付き肉に香辛料で味付けされたジャガイモが添えられていた。
それにデザートにはスパゲッティアイスというスパゲッティの様な見た目のアイスが出てくるらしい。
冷凍するのに魔導具が必要なので、アイスは滅茶苦茶高い。
このメニューも全部で大銅貨5枚……日本円換算で5000円もするが、スパゲッティアイス単品でも大銅貨2枚もするのである。
「ではでは、冒険者予備校合格を祝ってカンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
俺達は注がれていたオレンジジュースをぐいっと飲み、それから食事に移る。
食堂と言っても個室形式になっていて、会話しながら食べてもマナー違反にはならない場所である。
まぁドレスコードやマナーに厳しい場所で食べるのは息が詰まるのでそういう店で食べるのは少し避けていた。
「ナツの振動魔法、いつ覚えたの?」
「いやあれ神の間でも使うことは出来ていたよ。ただ最近になって出力を上げることができるようになったから、実用的になっただけで」
メアリーの問いに俺が答える。
この振動の魔法も、元々は動物や魔物を原型を留めたまま倒すことを目的とした魔法であり、触れた相手に衝撃を伝え、内臓や三半規管を狂わせる魔法である。
ただ出力を上げすぎると、内臓が破裂して体内に汚物があふれたり、血管が破裂して肉質が悪くなったりするし、触れないと使うことができないので、強力であるが、使い道が限られる魔法である。
「インパクトだとシュネとかアキの方が凄かったんじゃないか?」
「確かに」
シュネの熱線は見た目がド派手だし、アキの石柱投げも観ている人たちは、アキの小さな体で石柱を高速で投げ飛ばすのを見ると驚愕することだろう。
「僕の魔法が一番地味だったかな?」
「そんな事はないと思うけど」
メアリーのウォーターカッターもわかる人には凄さがわかる魔法だろう。
というより水で物を切り裂くって、相当な魔力制御を要求する技術であるし……。
「冒険者予備校が始まったらコネ作りと冒険者としての技術習得、あと冒険者としての常識を学ぶ……これで良いよな?」
「そうだね。まぁ1年間、長いようで短いからしっかり勉強していきましょう」
「「おー!」」
メアリーの言葉にアキとシュネが元気よく返答するのだった。
「はい、施術完了です」
「うん! 肩こりも治ってる! 肌もツヤツヤしているし今日もバッチリ! ナツ君ありがとうね」
「いえいえ、俺も魔法の練習になってますので」
「ナツ君は謙虚だね!」
冒険者予備校の入学試験が終わってから数日。
俺達は特にやることもなかったので、宿でゆっくり過ごしていると、ミクさんから教会に行ってみたらどうかと言われた。
「教会ですか?」
「うん、村とかにある教会とは大きさも中身も全く物だし、彼女達とデートでもしてきなよ」
「教会デート……ちょっと違う気もしますが、せっかくなので行ってみますね」
というわけでシュネ達3人を連れて教会に向かってみた。
帝国での宗教は、キリスト教のカトリックっぽい宗教主流であるが、教義は浄土真宗並みにゆるゆるであり、神父さんでも結婚できるし、肉も食い、酒を飲むことも普通にする。
ゆるゆるではあるものの、教会が病院の代わりであり、治癒魔法を使って怪我人や病人を癒したり、薬の処方をしたり、なんならアンデットや幽霊系の魔物になってしまった人の浄化を行ったり冠婚葬祭を取り仕切るのが教会の役割である。
なので教会に所属している司教や司祭の権限は高くなり、大きい町だと町長以上、領主以下の権力を有したり、帝都に居る大司教クラスになるとそこらの貴族よりも圧倒的に偉かったりする。
まぁ大司教クラスになると貴族出身の者が殆どになるらしいのだが……。
「改めて近くまで来てみると立派な教会だな」
「南部最大の都市の教会だから人が多い故に、教会も大きくなったんだろうけど、それでも大きいね」
シスターさんや修道士の方々が炊き出しをしたり、外でもできる治療を行ったり、治癒のポーションが教会の前で販売されていた。
俺達はポーションを何気なく購入し、アキにどれくらい効果があるか聞いてみる。
アキはポケットから錬金術で作った鑑定するアイテム(手持ちの片眼鏡と言うべき物)でポーションを眺める。
「止血作用と消毒かな? 地球で売ってる消毒液を強力にした感じ。治癒師の居ない冒険者パーティーでは必要かも」
「アキの方が凄いポーション作れるのな?」
「うん、ワイバーンの血で作ったポーションなんか千切れた腕や足を瞬時に生やしたりできるし、増血作用もあるから。まぁ生えてくる時痛いっぽくて実験に使った熊は悶え苦しんでいたけど」
「痛み止めも併用必須だな」
そんな事を話しながら教会の中に移動すると、聖歌を歌っている集団を祈りに来た人達が聞いていたり、懺悔室に入る人が居たりと賑わっていた。
「中も賑わっているな」
「お布施をして聖歌を聞いていきませんか?」
「それも良いな」
シュネに言われて俺達は神父に1人銀貨1枚のお布施をすると
「君達に幸あらんことを」
と祈られ、木札を渡された。
「神父様これは?」
「ん? 知らないでお布施をしたのですか? 最近では珍しいですね。邪気を祓うお札です。幽霊を祓ってくれることでしょう」
「なるほど」
てっきり免罪符かと思ってしまった。
流石にそこまで堕落していないか。
俺達はその後、聖歌を聞いてから教会前で開かれているバザーを物色してから帰るのだった。




