第6話 全員恋愛敗北者からの逆転スリーラン
一通りの部屋の探索を終えた俺達はふすまからノートと筆記用具を持って書庫に再度入っていった。
闇雲に調べ物をしても効率が悪いので、役割分担をすることに。
まず俺は、この中で一番料理ができるらしいので、料理のレシピを読み込んで、料理のレパートリーを広げる役割を担う。
桜花さんは異世界の政治体制や経済状況、種族や宗教、歴史なんかを幅広く調べる。
実里とつららちゃんは今全員が興味を持っている魔法について2人で勉強してみることに……。
ただ女性陣の裸体がどうしても気になるので、俺は料理本を持って中央の部屋で勉強をすることにするのだった。
そうして調べる中で、気になったのが異世界の料理について書かれたレシピ本が目に止まった。
開いてみると、異世界の食文化の中心はパン食で貧しい人達や田舎に住む人達は黒パンが主流であると記されていた。
黒パン……ライ麦パンとも呼ぶが、ライ麦という元を辿ると小麦畑近くで小麦に姿を似せた雑草が発生源で、転生者が異世界に持ち込んだのか、それとも異世界にも小麦があるからそれで同じ進化を辿った雑草があったのか……どちらにせよライ麦が異世界では多く出回っていることがわかる。
レシピ本には黒パンと書かれているので、対となる白パンも勿論存在するが、黒パンを田舎とすると白パンは都市で食べられるパンとされており、都市の知識人階級や貴族達が食べる物となっていることが書かれていた。
黒パンの良いところは白パンよりも栄養価が高いのが魅力であり、あとは小麦よりもギッシリとした焼き具合になるため日持ちが良いのも特徴である。
塩との相性が良いともレシピ本には書かれていて、バターの保存性を高めるために製造過程で入れられる塩入りのバターだったり、ソーセージやハムと言った加工食品、海の近い地域だと魚の塩詰めなんかも黒パンとの相性が良い食品らしく、逆にジャムなんかの甘い物とは白パンほど相性は良くないと記載されていた。
確かにライ麦を使った菓子なんかはライ麦栽培が盛んな地域にはあるかもしれないが、菓子と言ったら小麦を使うイメージなので相性があんまり良くないのも納得である。
「でも日本のレシピ本に書かれているライ麦パンには黒糖が入れられている場合があるんだよなぁ……」
これは日本人の口に合うように甘みを増して食べやすくしているのであるため、異世界の田舎や都市部でも労働者階級に転生したら、砂糖なんて手に入りにくいと思うのであんまり考えなくて良いだろう。
材料はライ麦粉、小麦粉(無くても良い)、ドライイースト(酵母でも可……というか異世界だと酒粕を投入して膨らましているらしい)、塩、水。
「確か小麦粉とか粉類があった場所にライ麦粉や燕麦粉があった気がするな。何に使うんだと思ったけど……異世界の料理用か」
台所で使い道に困った食材が幾つかあったがそういう事かと納得する。
「うーん、あれだな……料理の製造工程を簡略化する魔法を覚えておく必要がありそうだな。よく混ぜたり、発酵を促進させるみたいな魔法があればいいんだけど……」
そんな便利な魔法があれば良いなと俺は思うのであった。
女性陣だけになった書庫では最初は真面目に調べ物をしていた3人であったが、桜花がいきなり
「ねぇ、2人は阿部君の事をどう思っているの?」
と、爆弾をぶち込んできた。
2人とも顔を真っ赤にして慌てるが、桜花が
「いや、真面目な話、当分この空間で文字通り裸の付き合いになるし、恋愛感情とかは早めに把握しておきたいってこと、阿部君にもし付き合っている人とか居ないか把握しておきたくてさ」
大人な桜花が2人を宥めると、実里が口を開く。
「夏兄は……その……異性として見てる部分は確かにある。私と夏兄……血が繋がってないし、互いに反抗期の頃はぶつかったりもしたけれど、思春期になってからは距離感も分かってきて……夏兄は私の事を妹としてしか見てないと思うけど……私の性癖が年上好きになったのは絶対夏兄に影響されてると思う」
「なるほどね……冬木ちゃんはどう思っているかな?」
「わ、私は……その……頼りになるお兄さんだなって思っているし、わ、私の初恋の人でも……あります!」
「え! つららそうだったの!」
実里が席から勢いよく立ってつららの方を見る。
つららは顔を真っ赤にして伏せながら
「実里ちゃんが夏樹さんの事好きなの分かっていたから伝えなかったけど……最初に実里ちゃんの家に行って夏樹さんに出会った時に一目惚れして……」
「んんん! すっごい複雑な感情が渦巻いてる! 私の中で!」
両手をブンブン振りながら実里は悶えるが、つららも顔を伏せてしまう。
「そう言う桜花さんは夏兄の事どう思っているのよ!」
「僕かい? そうだね……付き合っても良いくらい好んではいるよ。僕って自分が言うのもなんだけどイケメンだろ? 男友達からは同性の様な友達として、女性からは恋愛の対象として見られることが多くてね……阿部君は僕の事を異性として見ていることが分かっているし、バイト先の店長さんみたいに性欲だけで僕を見ているわけでもなかったからね。ただ阿部君にそれとなくアプローチした時に片思いしている人が居るって前に言っていたんだけど……2人は知らないかい?」
「夏兄の好きな人……」
実里は悩んでしまうが、つららはハッと顔を上げて
「多分私のお姉ちゃんだと思う」
「つららのお姉さんって言うと高校の生徒会に入っていた?」
「うん……お姉ちゃんが夏樹さんにバレンタインで友チョコを毎年渡していたんだけど、夏樹さんから気合いの入ったお返しが毎年返ってくるって嬉しそうに言っていたんだよね」
「「ぜったいそれよ」それだね」
場が一瞬沈黙する。
「つまりあれか? 僕達はこの状態にならなかったら冬木ちゃんのお姉さんに全員負けていたってことになるのか」
「うわ……うわぁ……ラブコメみたい……私自身が負けているのも含めて……」
「クラスメイトかつ片思いの相手は流石に勝てないよ……それが私の姉ということを踏まえても……」
この空間に来れていなかったら恋人レースに全員負けていた可能性が高いというのに頭を抱えることになったが、逆にチャンスが転がり込んできたとも言える。
「逆に考えよう……転生したら全員幼馴染だ」
「「!?」」
「幼馴染ヒロインは恋愛レースにおける特大のアドバンテージ! しかも前世からの付き合いがあるとなればこれはもう……運命の赤い糸が繋がっているようなものだよ」
「た、確かに……転生してしまえば義理の妹という立場は切れてしまうけど、妹として見られなくなり、1人の女性として見られるのでは」
「わ、私も好きな人の妹ではなく、私の事を見てくれるかも?」
桃色の考えが全員によぎるが、そうなると3人共に恋のライバル関係になってしまう。
桜花は本を唐突に開いて、あるページを実里とつららの前に差し出す。
「異世界では重婚が合法!」
「「!?」」
「ライバルではなく、僕達は協力できるとは思わないかい?」
実里とつららは互いに顔を見合わせた後に桜花が差し出した手をがっちり握った。
「共闘関係」
「せっかく神様が用意してくれたこの空間、この時間で私は夏樹さんを落とすつもりです!」
「冬木ちゃんの言う通り! この空間、この時間で阿部君を恋に落とす。どんな手を使っても!」
「「どんな手を使っても!!」」
この時、3人の間で恋愛同盟が結ばれた瞬間であったのだった。




