第57話 ハーゲンシュタットの案内
風呂の後、シュネは結局起きること無く、夕食の時間になり、1階の食堂で夕食をいただく。
この時間になると今泊まっている妖精の止まり木という娼館兼宿屋も賑わいを見せ、男性客が嬢に相手してもらうためにチェックインを済ませたりし始めていた。
嬢達も夜の仕事に向けて食事を食べている人が大勢いた。
数えてみたところ、食堂に居る嬢の数は20人、男性スタッフは6名、料理を作っているおばさんが3人……みたいな感じ。
おばさん達の中にミクさんとクムさんに似ている人が居たので、彼女がクムさんの妹でこの宿の女将さんだろうか。
「あいよ、いっぱい食べて大きくなるんだよ!」
「ありがとうございます」
カウンターから食事が載せられたおぼんを受け取り、自分のテーブルに持っていく。
今日のメニューはソーセージの入った玉ねぎ、ジャガイモ、人参、よくわからない茶色の豆(レーズン豆)、ほうれん草を細かく刻んで煮込んだ全体的に茶色いスープ、小麦とライ麦を混ぜたちょっと茶色っぽい硬めのパン、ザワークラウト(キャベツの漬物)にゆで卵、1本丸々のソーセージが乗っけられていた。
村でもドイツ風の名前の人物が多かったが、町では食事の方もドイツやヨーロッパの雰囲気が強いな。
あとゆで卵の横に白いクリームが付いているが……これはなんだろうと思い、指で少し舐めてみるとマヨネーズに近い味がした。
いやマヨネーズなんだろうが、日本のに比べると酢の量が多い感じか?
ふむ、なるほど……多分過去の転生者がマヨネーズを作ってレシピを売ったな。
現地の人が開発した可能性もあるかもと思ったけど、隣で食べていたさっき髪を綺麗にしたお姉さんにソースの名前聞いたらマヨネーズって言われたし……。
まんまだったから多分転生者が作ったな。
マヨネーズ作るの異世界に転生する系の小説だとテンプレだしなぁ。
どれ、味の方は……。
うん、凄い美味しいってわけじゃないけど毎日食べても飽きない味はしている。
具だくさんのスープはちょっと塩っぽいが野菜の旨味が染み出していてパンに付けて食べると美味しいし、ソーセージも香辛料が効いている。
マヨネーズを付けてゆで卵を食べ、ザワークラウトをかき込んでご馳走様でした。
プレートや器を返却し、俺達は部屋に戻るのだった。
「ナツの料理には劣るけど、食堂の料理美味しかったね」
「うん、毎日食べるんだったらあれくらい素朴な味の方があきないだろうね」
アキとメアリーも食事に満足しているらしく、ベッドの上で談笑をする。
「冒険者予備校の入学試験は10日後だから、それまでは町を巡って慣れないとな」
「マッピングの魔法で地図作らないと……クムさんが明日宿に来て、町の案内をしてくれるんだよね?」
「そうそう。村から出てきた人には必ず町の案内をするのが務めって言っていたな」
それが身分保障をして町でこれから生活する人への最低限の責任らしい。
俺らも誰かの身分保障をしたら、案内をすることになるのだろうな。
「食事をしていた時に横にいたミクから聞いたんだけど、この娼館に来る人は冒険者の方が多いんだって……冒険者は危険を伴う仕事だから稼げる人は娼婦と遊ぶプラン……嬢によって値段は違うけど、1泊銀貨5枚から10枚」
「毎日は通えないらしいけど、1週間に1泊していく人が多いらしいから、冒険者だとそれくらい稼げる人が平均らしいね」
流石メアリー……早速情報収集をしてきてくれた。
となると娼館に来ている冒険者の稼ぎは1日銀貨2枚から3枚ってところだろうか。
うーん、まだよくわからない点も多いな。
「最上位のワイバーンを狩れるクラン員の収入がワイバーン1体狩ると白金貨20枚(日本円換算だと約2000万)ってアルフレッドさんが言っていたから、それが基準になるのかな?」
そう言う連中でもワイバーン1体狩るだけだと1年……いや半年嬢と遊ぶだけで金が尽きてしまう。
それに冒険者として活動できる年齢も長くて50歳……若い頃に遊んでいたら更に活動期間は短くなるだろうから、アルフレッドさん達みたいに計画して蓄財できるタイプが老後を生き残れるんだろうな。
アルフレッドさん達もパーティーで1日銀貨4枚から12枚稼ぐのがやっとだと言っていたので、ブロンズ級の稼げるパーティーでそれくらい。
「ああ、やっぱりこれ以上は推測の域を出ないな」
「まぁ僕達は魔物狩って稼げば良いじゃん。最悪またゲンシュタイン騎士領に戻ってワイバーンを狩ってくれば金にはなるでしょ」
「メアリー、クムさんから言われたろ。政争に巻き込まれたくなかったら後ろ盾が見つかるまではワイバーン狩りは止めたほうがいいと」
「そうだったね」
貴族になるとしても基盤を固めてから。
まぁ本当になれるかどうかはわからないのであるが……。
とりあえず明日に備えて眠るのであった。
翌日、シュネが腹ペコになっていたので早速朝食を食べに行く。
ジャガイモのホワイトスープに半分に切られたパンの上にベーコンと目玉焼きがのっけられていた。
塩と胡椒で味付けされていて、普通に美味しく、シュネも満足そうにしていた。
するとミクさんのお父さんのオットーさんがクムさんが来たことを教えてくれて、クムさんに連れられてこの町……ハーゲンシュタットを巡ることに。
まず初めに向かったのは冒険者予備校で、町の中心部から外れた外周部に、日本の小中学校の様な建物がそびえていた。
違う点は校庭が2面あることだろうか。
恐らく魔法使いも居るため、魔法を練習するのに広い場所が必要なのであろう。
ちょっと離れた場所には魔法を放つ射撃場もあるらしく、そこでは動く的に当てる訓練もできるらしい。
この町ではそこでしか出来ない練習らしく、予備校を卒業して冒険者や町の住民の人達もお金を支払えば練習することができるらしい。
町中で魔法の練習をするくらいだったらそこで練習しなさいという上の見解だとのこと。
事実、見に行くと魔法を放つことのできる大人や上質な服を着た少年少女達が魔法の練習をしている。
恐らく貴族……いや、辺境伯の家臣の息子や娘さんといったところだろうか。
射撃場はクレー射撃をするみたいに魔導具が発射するフリスビーみたいなのに当てて壊せれば良いらしい。
「的を作る職人なんかも居るんですよ」
面白い職業もあるものだ。
クムさんに教えられながら別の場所に向かう。
町は円形状に広がっていて、中心部に教会が建てられていて、その周りに辺境伯や重臣の城や屋敷が立ち並ぶ。
その外側に行くに従って家臣の皆さんの身分が下がっていき、途中から商業地区と混在することになる。
商業地区の一番栄えている場所に冒険者ギルドがあり、その周囲には冒険者に向けた武器屋や飯屋、娼館が立ち並ぶ。
俺達が泊まっている宿の妖精の止まり木はちょうど冒険者ギルドと冒険者予備校の間にある宿で、娼婦の質も冒険者ギルド近くの冒険者と兼業している娼婦が働いている娼館や旬の過ぎた嬢が働いている娼館に比べると、中心部に近い分上質になっているとのこと。
その分値段もそこそこするが……。
冒険者ギルドと反対側には市民市場が決められていて、町民はここで町に売り込みに来た周辺地域の村人から食材を買ったり、掘り出し物を探したり、自家製の道具や料理を振る舞ったりしているらしい。
まだ若手の職人だったり、冒険者を引退しようと考えている人が安く武器を売ったりもしているので毎日見に行って損は無いらしい。
外周部は集合住宅やアパートが建ち並んでいて、東西南北の検問所を通って外に出る……というのを教えてもらった。
そのままの流れで、武器屋や冒険に使う道具が並ぶ道具屋、冒険者予備校で必ず使う文房具が売っている文房具屋、お勧めの食堂なんかを教えてもらうのであった。




