第55話 クムさんの親族経営網
「ほう、例の物というのは?」
「クムさんこの場所では人目が多すぎませんか」
「おっと私としたことが……ゼファー奥の部屋で渡そうと思うんだが良いかい」
「ああ、構わないさ」
俺達や銀の翼のメンバーも含めて、奥の部屋に移動してから、俺は異空間からワイバーンの魔石を取り出した。
「な、なんて巨大な魔石だ!」
「ゼファー、これはワイバーンの魔石ですよ」
「なんと! これがワイバーンの魔石……」
慎重にゼファーさんが俺から魔石を受け取ると色々な角度で魔石を確認する。
「うーむ、確かに一線を画す魔石。それにナツ君だったか、君は空間魔法を使えるのかい?」
「はい、空間に物を収納させることができます」
「ワイバーンを倒したのも彼です」
俺はついでにワイバーンの頭もテーブルの上に置く。
「確かにこれを見せられたら信じるしか無いな……クム、私に見せたというとワイバーンの買取か?」
「話が早くて助かる。ワイバーンを換金して欲しい」
「ふむ、冒険者ギルドに持ち込まなかった理由は推測だが、彼がまだ若年だから足元を見られるからか?」
「それ以前にまだ冒険者に成れる年齢に達していないので冒険者ギルドでは換金が出来ないのですよ」
「なるほど……」
「あと表向きはワイバーンの亡骸を見つけて私達が運良く回収したことにしてくれませんか。大事になるのを彼らは望んでないのでね」
腕を組んだゼファーさんはクムさんに
「確かに私であれば冒険者ギルドを通さないで領主に売ることで換金することは可能だ。ただそうなると冒険者ギルドに不義理を働くことになる。冒険者ギルドにそっぽ向かれたら商売が成り立たなくなるのは分かるだろ」
「ええ、なので手間賃を取っていいのでそれ込みで換金をお願いしたいのですよ」
「ふむ……ナツ君だったか、私がどう頑張っても領主である辺境伯とこの町の冒険者ギルドのギルド長には真実を伝える義務があるから伝えるが良いかな」
「俺としてはいきなり特別待遇にされないかが心配なんで……」
「うーん、私もまだ半信半疑であるが、実力を見せる場面が来なければ大丈夫じゃないかな。冒険者予備校には実力以前に青い血(貴族)の息子とかが入ってくるからそういう意味でも特別待遇はしないと思われるよ」
「なるほど……ゼファーさんに任せます」
「うん、ワイバーンの素材は他にもあるかな?」
「骨と鱗は出せますが、肉は腐りませんか?」
「そうだね。では骨と鱗を出してもらおうか」
俺はゼファーさんがこの部屋の中に出してくれと言われて、骨や鱗を出していく。あっという間に部屋が埋まるとゼファーさんから
「この量だと……手間賃込みで白金貨480枚でどうだろうか」
「構いません。でもその金額って直ぐに用意できるものなんですか?」
「ナツ君が心配しているように直ぐ現金化は難しい。しかも10歳未満だと銀行や冒険者ギルドに口座を作ることも出来ないからね……口座があればそこに入金するだけで済むんだが……」
「今回クムさん含めて9等分することにしているんで、銀の翼の皆さんに白金貨213枚、ポーランさんには白金貨54枚を渡してあげてください」
「じゃあナツ君達4人は213枚の白金貨を受け取ることになるけどその金は私が預かっておくので良いかな? 無論10歳になって冒険者ギルドに口座を作ったら直ぐにそちらに入金するが」
「そうですね。あ、あとその中から金貨10枚ほど現金で支払うことはできますか?」
「できるが、何かあるのか?」
「いえ、宿代とかは確保しておきたいですし、1年間の学費とかもありますから」
ゼファーさんは困った顔をしながら
「ワイバーンが倒せる実力があるなら予備校は絶対特待生になれるから安心しなさい。宿代については4人の1年分をその代金から支払っておこう」
「助かります」
「なに、これくらい容易いさ」
交渉が纏ったので、俺はゼファーさんにお礼を言い、ゼファーさんは纏った内容の確認をクムさんと銀の翼の皆さんと行い、両者共に了承する。
銀の翼の皆さんとはこれで一旦お別れ、冒険者ギルドに依頼完了の報告をしないといけないとのことで、足早に去っていった。
残った俺達はクムさんが親族が経営する宿に招待しますよと言われて、その宿に向かうのであった。
「ねぇクムさん」
「はい、なんでしょう」
「ここ娼館じゃないですかね?」
「ええ、娼館兼宿屋ですよ」
平然とそう言うクムさん。
おいおいと突っ込みを俺は入れるが、安宿や貴族や豪商が泊まる様な高級宿を除き、生活しやすく、値段が手頃な宿というと娼館と兼業している宿が良いらしい。
「娼館の宿だと広いお風呂に入れますよ」
「ほ、本当ですか!」
俺だけでなく女性陣も食い付いた。
今まで魔法で体を洗浄していたが、お風呂に浸かる事が出来るなら浸かりたい。
それが広い風呂であればなお良い。
それに娼館に宿泊すると色々な情報が集まりやすいというメリットや娼婦を守るためにセキュリティもしっかりしていて、安宿だと運が悪いと他の客に襲われる危険性があるが、娼館でそんな事をする馬鹿は居ないし、女性陣も安心して泊まることが出来るでしょうと説得されてしまった。
「それにナツさん、娼館と言っても男性従業員も居ますので、嬢に手を出さない限り安心して泊まることができますよ」
結構サービスも良いらしく、夜食と朝食付きの宿泊プランだと1人1日銀貨2枚で済むらしい。
それで風呂入り放題と考えると確かに安い。
1年暮らしたとしても4人で銀貨3000枚に届かないくらい。
白金貨換算でも30枚か……ワイバーンの売却金だけでも十分足りる。
「普通の冒険者は1日大銅貨1枚の安宿に泊まるんですが、タコ部屋だし、食事も出ないしでサービスが悪いんですよ。私も普通は安宿を紹介しますが、こちらの方が皆さんには良いでしょう」
流石商人……相手の都合と金額に合わせて絶妙なチョイスをしてくれる。
「ささ、中で手続きをしましょうか」
俺達は宿の中に入ると受付で胸が大きな緑髪のおっとりとしたお姉さんが座っていた。
「いらっしゃいませ~あ、ポーラン叔父様」
「やぁミク久しいね。元気にしていたかい?」
「はい! 両親共に元気にしていますよ!」
「そうかそうか」
クムさん曰く、彼女はクムさんの姪っ子で、この宿もクムさんの妹の旦那さんが経営しているらしい。
「今回は客を連れてきた。冒険者予備校に入学予定のナーリッツことナツ君、アキーニャことアキさん、メアリーさんにシュネさんだ」
「「「「よろしくお願いします」」」」
「はーい、よろしくね。でもお金は大丈夫かな?」
ミクさんが俺達を見て心配そうにそう呟くが、クムさんが金は問題無い、ゼファーさんから振り込みが行われるからと聞くと納得したらしい。
「じゃあご飯付きの長期宿泊ね。部屋を用意するから、ちょっと待っていてね」
ミクさんがベルを鳴らすと、従業員が集まり、ミクさんから説明を受けて部屋の準備を初める。
「ごめんね、長期滞在のお客さん用の部屋だと準備がかかるから。その間に宿の説明をするね〜」
ミクさんから宿の説明としてこの宿は娼館も兼ねているから宿だけのお客さんは3階の部屋で泊まること、1階は大浴場、食堂、従業員の生活スペース、2階が売春しているスペースになるから2階には立ち入らないこと、部屋の中に魔石で消臭、分解してくれるトイレがあるからトイレはそこで。
大浴場は基本男女混浴だけど朝の8時から11時までは従業員が掃除をする時間になっているから入らないようにすること、大浴場での性行為は禁止。
朝食は朝6時から8時まで、夕食は18時から21時までやっているのと、メニューは日替わりになっていると教えてくれた。
「娼館だから男女混浴になっているけど、知らない人に裸を見られたくなかったら夜の20時以降に風呂に入ると良いわよ。その時間以降は男性宿泊客は殆ど嬢と性行為をしている時間になるから相手の居なかった嬢以外は風呂に入らないから。逆に朝一は男性客達が嬢達と一緒にお風呂に入るから女の子達は入らない方が良いわよ〜」
とのことらしい。
まぁ俺達同士は今更裸を見合ったところでどうということも無いし、誰かに裸を見られることも免疫が付いているので問題ない。
そうこうしていると部屋の準備ができたらしく、3階の部屋に案内され、クムさんとはここでお別れするのであった。




