第54話 町へと到着
2週間ぶりにぐっすり眠ることができた俺達は、馬車に乗り込んで再び町を目指す。
クムさん曰く、ここから先に難所らしい場所もなく、2日毎に別の村へと続いているらしい。
「ここから先は街道も整備されていますので、野生動物が襲ってくることもないでしょう。基本荷車の中でゆっくりしていてください」
そう言われ、俺達は銀の翼の皆さんに色々聞きながら時間を潰した。
町で生活するのに必要な物とか、町で流行っていること、冒険者として生きていくのに心がける事……。
アルフレッドさんとマーシーさんの馴れ初めなんかも聞いたりした。
あとは宿で休んでいる時に俺、アキ、シュネ、メアリーとライラックさんが集まって転生者同士で情報交換なんかも行った。
「なるほど……転生前は私と皆さんはそんなに歳が離れてないし、流行っていた物や西暦から同じ地球から転生したってことですか」
「そうだね。神様が何かやらかしたら異世界に転生させているって聞いていたから、僕達の他にも別の神様がやらかして転生させているとは思ったけど……案外時期が被っていたんだね。こうして出会ったってことは結構居そうかな?」
ライラックさん……いや、彼女が呼び捨てで良いと言われたのでライラックと呼ぶが、彼女曰く、転生者は俺達と出会ったのが初らしい。
メアリーが代表して場を仕切ってくれているが、ライラックから色々な情報が出てくる。
知識として異世界の情報を断片的に知ってはいるが、生きた情報というのはありがたい。
「私達は転生先を指定していなかったので世界各地に飛ばされたと考えると……こうして出会えたのが奇跡だと思ってます」
「だろうね……僕達は転生先を合わせるために村単位で指定したから……まぁその結果まさかの秘境とも言える村に飛ばされて外界と隔離されるとは思わなかったけど」
「ご愁傷様です」
「ただその分鍛えられたからどっこいどっこいかな?」
話は変わってもし冒険者予備校を卒業して、俺達がシルバーランクに上がることができたらクラン作るのを前向きに検討しようという話になった。
「まだ未来の話だからどうなるか分からないけど、僕達……爵位を持つのはナツになると思うけど、重婚するために貴族を目指していくから、組織力を鍛えるためにもクラン運営はしていきたいと前向きに考えているよ。もしそうなったら必ずライラック達銀の翼のメンバーは誘うね。でも後輩に従うのってプライドとかが邪魔しないの?」
メアリーの質問にライラックは
「普通なら感じることもあるでしょうが、ワイバーンを単独で倒せるくらい実力差があると感じなくなりますよ……。私達銀の翼全員でも倒せてハニーベアーくらいですから」
この世界には実力の基準になるような魔物が居るらしく、冒険者なら倒せて当たり前のゴブリン、駆け出し卒業のオーク、これが狩れたら生活に余裕ができるチキンカウ、体臭が蜂蜜の匂いがするハニーベアー、これを単独で狩れたらシルバー級の宝獣シリーズ(主にカーバンクル等の体のどこかに魔石以外の宝石が露出しており、そこから魔法を放つ動物達)など。
ちなみにワイバーン単独は前にも言われたがプラチナ級らしい。
銀の翼はパーティーでハニーベアーを倒せるくらいなので、シルバーランクにはまだ届かないくらいの実力であるが、ある程度生活はできるくらいには稼げているらしい。
「でも他の転生者を探そうとは動かなかったんですか?」
シュネがライラックに質問する。
「うーん……神の間だっけ? あの空間で私達喧嘩別れみたいになっちゃったから、クラスメイトだったけど皆顔を合わせづらいんじゃないかな……私は皆との最後が邪険な雰囲気だったから積極的に合流しようとは思わなかったけど」
「なるほど」
言い方は抑えているけど、相当揉めたらしい。
あとライラックは意識が覚醒する年齢も決めていなかった為、赤ん坊からやり直す羽目になって約12年……前世も合わせると30年近く生きてきたことになるので色々達観してしまったらしい。
「転生者を探すために銀の翼の皆に迷惑かけるわけにもいかないし、もう冒険者として生きていくって腹を括るには十分な時間を得たわ。今は後々どれだけ裕福な暮らしができるかについて考えるのみよ」
澄ました顔でライラックはそう言う。
そうこうしているとマーシーさんに呼ばれ、ライラックは部屋を退室していった。
残された俺達はライラックの話を踏まえて、冒険者予備校卒業後の進路も考えないとなと思うのであった。
本当に村々を行き来するようになると、特に大きなイベントも無く、残りの2週間の旅路を終えて、町へと到着した。
日本の都市……という感じではなく、ヨーロッパ圏の円形に広がっていくような街並みが広がっており、東西南北に伸びる検問所を通ると町に入ることができるが……特に町の周囲に壁がある訳でもないので、入ろうと思えば検問を通らなくても入ることはできそうである。
まぁ見つかった時の事を考えるとそんな事はしないが……。
俺達は荷車から降りて、馬車の後ろに並び、衛兵に町に入る要件を伝える。
「行商人のポーラン・クムです。後ろに並んでいるのは冒険者銀の翼の皆さんと最後尾から4人は冒険者予備校に通うためゲンシュタイン騎士領のニューベック村から出てきた子供達になります。身分保障は私が」
「うむ」
クムさんが衛兵から書類を受け取り、俺達の名前を書き込むと、衛兵達から名前を聞かれ、確認作業をする。
そして別の衛兵が荷車の中身を確認した後に町に入ることが許され、馬車と共に町に入っていく。
「じゃあクムさん、依頼完了のサインを」
「はいはい」
アルフレッドさんがクムさんに依頼完了のサインを書かせ、俺達と銀の翼のメンバーはクムさんが取引している商会へと足を運んだ。
町を見回すと、レンガ造りの家が多く、多くの家が2階から3階建てになっている。
「ここら辺の家は都市の外周部になりますから、借家が多いのですよ。どの家も大きさが同じでしょ」
クムさんに言われてからよく見ると、確かに殆どの建物が同じ大きさで作られている。
集合住宅になっているらしく、スラムが拡大しないように領主が補助金を出して安い値段で人々が住める様にしているらしい。
日本の県営住宅みたいなのをイメージが最適だろうか。
そのエリアを抜けると、大きな家が立ち並ぶ商業地区へと切り替わった。
その中の1件の店の前に馬車を停めると、クムさんが中から店主を呼んできた。
どうやらクムさんの親戚らしく、クムさんと顔が似ている。
彼とクムさんが少し話をした後に荷車から積荷を降ろし、クムさんにお金を支払っていた。
「おーい、ナツさん、アキさん、メアリーさん、シュネさん」
クムさんに呼ばれて俺達も店に入ると店主の方と挨拶をする。
「初めまして、ポーラン・クムの兄のクム商会会長のゼファー・クムと申します」
「初めまして、ナーリッツ・アドラーです」
「メアリー・クリスティーです」
「アキーニャ・ベルベットです」
「シュネー・フォン・ケッセルリンクです」
「ふむ、ポーランが今年連れてきた子供達だね。よろしく頼むよ」
俺達はゼファーさんと握手をし、クムさんが例の物を取り出すように言うのだった。




