第5話 男子高校生が100メートル走るのでバテるのは流石に情けないと思う
結局、体が隠せないのは仕方がないと割り切り、4人で次は北の部屋の探索を行う。
画面の男が言うには台所だった筈である。
俺が扉を開けると部屋全体が銀色で、レストランの厨房を思わせる台所が広がっていた。
目につくのは巨大な冷蔵庫。
全員で冷蔵庫の前に移動すると、メモ紙が冷蔵庫の扉の前に貼ってあった。
『食材は24時間ごとに全て補充される』
『基本的に異世界にある食材がこの冷蔵庫の中に入れられている』
と書かれていた。
冷蔵庫の中を開けてみて、食材を全て調理台の上に置いて確認をしてみる。
基本スーパーで年中売ってあるような食材は全て揃っており、イワナなんかの魚も入っていた。
特筆すべきなのはソーセージやベーコン等の種類が豊富な代わりに、牛肉、豚肉、鶏肉は部位ごとに4人の1食分あるか無いか程度だったり、部位によっては無かったりしていた。
挽肉なんかも無かった。
代わりに調理器具が置かれている場所に手動の挽肉製造機が発見したので、これで作れということだろうか……。
調味料はさ、し、す、せ、そ、の砂糖、塩、酢、醤油、味噌の基本5種類に料理酒、みりん、ケチャップ、マヨネーズなんかが発見することができた。
これで家庭料理であればある程度の物が作れる。
あと小麦粉と精米済みの米、片栗粉、パン粉なんかは揃っている。
勿論卵も2パックあった。
流石に1日2パックも卵をつかうのは考えづらいがありがたく使わせてもらおう。
調理器具なども調べてみたが、どうやら冷蔵庫以外の家電系は無いらしく、ミキサーや炊飯器、電子レンジは無かった。
あるのはガスコンロ、魚を焼くグリル、大きめのオーブンなんかがある。
「この中で料理できる人〜」
俺が全員に問いかけるが、俺以外全員そっぽを向いた。
「マジかぁ……俺もそこまで料理が得意なわけじゃないぞ。カレーやシチューなんかの男飯作れる程度だし……」
「お母さんが作ってくれてたから……味噌汁やご飯炊くのはできる……あ、炊飯器無いんだった……」
「どうしよう! 私も炊飯器でしか米を炊いたこと無いよ!」
「僕もコンビニやスーパーの惣菜品ばっかりで……」
女性陣全滅かい。
こんな事になるんだったら実里には料理仕込んで置くべきだったな。
まぁ全員家庭科で習ったことはある程度覚えているから、食材を切ったり、焦げないように煮込んだりするのは大丈夫なのがせめてもの救いか……。
「食のレパートリー少なそうだな……こればっかりは仕方がないか……」
俺が覚えている料理もあんまりないので料理に関しては期待できないかも?
台所から中央の部屋に戻り、次の部屋を確認する。
次は東の書庫だ。
書庫っていうくらいだからそんなに広くは無いだろうと思い、扉をくぐると、小中学校の図書室くらいの広さがあった。
部屋の中央には長方形のテーブルが置かれており、椅子が人数分置かれている。
木製で、しっかりとした作りをしていて、テーブルの触るとツルツルしている。
4人横並びでも読み書きができそうなスペースとなっているが、片側2人で、対面にもう2人座る用の椅子が置いてある。
椅子も肘掛けが付いたウッドチェアになっていて、ご丁寧に座る部分にはクッションが敷かれている。
座り心地は良く、精神体が座り疲れる事があるか分からないが、1日勉強してもなんとかなりそうな感じはする。
「魔法の本に異世界の歴史の本、それに異世界の言語についての本や料理本、生活をするための本が揃っているね」
「画面の男に質問をしなくても、ここである程度異世界について調べることができそうですね……桜花さん」
「そうね阿部君。ただこの量を覚えるとなると相当時間がかかりそうだし、最初は魔法についての勉強をしましょう。異世界だと魔法の強さの有無で生活水準が変わると言っていたからね」
ざっくりと書庫を見渡し、特に不思議な物があるわけでも無かったので、探索を早めに終わらせるために、書庫の探索を切り上げた。
最後に南の扉を開き、画面の男が言っていた広い部屋へと移動する。
「おお、本当に広い……」
「普通の体育館の2倍から3倍程度の大きさかな?」
つららちゃんと実里がそう言うが実際に広い。
具体的に言うと、バスケットコートが6面分くらい入る大きさをしている。
桜花さんはしゃがみ込んで床を確認する。
「床の材質は木製フローリングって感じか……普通の体育館と同じ……」
桜花さんは周囲を見渡し
「2階みたいな場所は無いか……天井の高さは10メートルくらいかな? ドーム状になっていて、普通の体育館とは構造が違うね」
「ちょっと走ってみますね」
俺は桜花さんにそう言うと全力で端に向かって走り始める。
全力ダッシュをしてみたが、息が苦しいとはならないし、肉体的な疲れも感じない。
やろうと思えば常に全力ダッシュをし続けることができそうであると思ったが、走り続けていると体に熱がこもっていっている感じがした。
走りを止めて歩きに切り替えて体を落ち着かせると、体にこもっていた熱が抜けていく感じがして、元の体調に戻る。
「精神体だから疲れを感じることはないけれど、移動によるエネルギーの消耗は体に熱がこもるという形で発現される……ということか?」
俺がブツブツ呟くと、いつの間にか横に居たつららちゃんが質問してくる。
「それってさっき桜花さんが言っていた内側の感覚が生きているってことに関係がありそうですかね」
「多分ね……精神体でも疲れとは別の力を消費していると考えるとパット思いつくのは精神力か、脱衣所で見つけた血圧計擬きで見た魔力か……」
「どっちなんでしょう」
「俺は魔力なんかじゃないかと考えるけど……魔法を使っているって感覚はないんだけどなぁ」
「ま、まぁ走るって言う基本的な動作をしていただけですからね……でも本当に画面に映っていた男性……神様の言うことが正しいのであれば……私達、今精神体であるってことなので、精神力を消耗して動いているって説明も納得できます」
「画面の男ではそれを回復するには食事、幸福感、そして睡眠が必要……か」
「なんだか……VRのゲームをやっているような感覚ですね……ゲームのキャラとしての体力バーがあって、それとは別にゲームをしているプレイヤーもゲームを長時間続ければ疲労感が溜まる感じがまさに……」
つららちゃんが言うVRゲームをやっているみたいというのは言い得て妙だと思った。
なるほど、そういう感覚にこの空間は近いのか。
「夏兄、戻ってきた」
「阿部君どうでしたか?」
俺は走った結果体力が削られる感じではなく、体が熱くなって、勝手に足が止まる感覚を伝えると、桜花さんはなるほどねぇと考え、つららちゃんと似たような結論に至っていた。
こうなると結果を知りたくなる。
俺達は脱衣所に向かい、血圧計擬きで再度測定をしてみる。
【現在の魔力量 5】
【最大魔力量 5】
【精神摩耗度 2%】
どうやら走ったりする体力を消費する行動は、この空間だと精神を消費するらしい。
他の人は1%のままだったので俺だけが違うとなると走ったことだけが違うので、これが当てはまるだろう。
もしくは精神体だから運動系の能力が下げられている可能性も考えられる。
だって普通100メートル満たない距離を走ったくらいで足が止まるとは考えにくい……これが全力で200メートルから400メートル走れって感じだったら流石に動きが鈍くなると思うが、歩きじゃないと駄目だと感じるほど体力……でいいのかな? が低下しているのは、やっぱり精神体になっていることが関係してくると思う。
とりあえず桜花さんに俺の考察をメモしてもらうのだった。




