第49話 町に向けて出発
「ナツ、本当に行くんだな……まだお前は9歳だから家に居ても良いんだぞ」
「そうよナツ、冒険者になれるのは10歳からじゃない」
冒険者になるために家を出ていくと家族には前から言っていたが、いざ家を出ていくとなると、両親からそう言われた。
「父さん、母さん、でも冒険者としてやっていくんだったら冒険者予備校に通った方が都合が良いって行商人の護衛で来ていた冒険者に言われていたんだ。生活費もシュネの親父さんがある程度援助してくれることになっているしさ」
勿論援助というのは建前で、俺達が数年かけて蓄えた銀貨120枚のことを表向きはシュネの護衛をする代わりに援助するということになっていた。
シュネの親父さんは俺の両親だけでなく、アキやメアリーの両親にもシュネと一緒に冒険者になるのであれば初期費用は支援しますよと言って、冒険者予備校に通わせることを認めさせていた。
やっぱり他の家の人達も9歳で町に行かせるのは早いのでは無いか、冒険者をやらせるのは無謀なんじゃないかと思っていたらしいが、冒険者予備校に通うのであれば教育を受けることができるのでまだマシであると判断したらしく、村を出ていくことを許していた。
「このタイミングを逃すと、冒険者予備校の費用を実費で支払うことになるから、シュネ達と町に行ける今が最適なんだよ」
「それはそうだが……」
すると行商人が村に来たぞと声がかかり、両親の制止を振り切って行商人の元に駆けつける。
「父さん、母さん、それに兄貴、冒険者として成功したら必ずもっと生活が楽な地域に呼び寄せるから待っていてくれよな!」
そう言って俺は家を飛び出すのであった。
「では改めまして行商人をしているポーラン・クムと申します」
町に行くには行商人のおじさんと一緒に行く必要がある。
それは町に入るときに身分を保障してもらう必要があるからだ。
町に入るには身分が保障されていることと、通行税を支払う必要があり、俺達が飛行の魔法で町に向かうということもできなくは無いが、町の土地勘も無い為、どの宿に泊まった方が良いとか、どこで買い物をした方が良いかなんかを聞くことができるため、行商人のおじさん……クムさんについて行った方が色々都合が良いのである。
「こちらが今回私の護衛をしている冒険者グループの銀の翼さん達です」
「銀の翼のリーダーのアルフレッドだ」
短く刈り上げた赤髪の青年がリーダーのアルフレッド、スキンヘッドの盾持ちがジャズ、金髪でそばかすが特徴的なアルフレッドさんの恋人で治癒師のマーシー、日本人っぽい顔立ちで俺達とそう年が離れてなさそうな黒髪の女剣士のライラック。
この4人が銀の翼のメンバーらしい。
全員ブロンズ級の冒険者である。
「ナーリッツ・アドラー……皆からはナツと呼ばれています」
「シュネー・フォン・ケッセルリンク……フォンと付いてますが没落してるので貴族ではありません」
「メアリー・クリスティーだよ! よろしくお願いします」
「アキーニャ・ベルベット……アキですよろしく!」
自己紹介を済ませ、荷車に買い付けた小麦粉を載せると早速村から出発し、馬車に乗り込む。
そのまま村を出発するのであった。
「ねえねえ、ナツ君達は村の幼馴染ってことで良いんだよね? なんでまた9歳で町に出ようと思ったの?」
馬車で揺られるだけも退屈らしく、マーシーさんが聞いてきた。
「それは勿論冒険者予備校に入学するためでして、冒険者予備校に合格して1年間授業を受ければブロンズ級から冒険者としてスタートを切ることができるんですよね?」
俺が代表して答える。
「お、よく調べているね。そうそう。冒険者予備校を卒業すればブロンズからスタートできるよ。私達このメンバーも冒険者予備校の同期なんだ」
「失礼ながら年齢バラバラですよね?」
「うん、私が15歳、アルフレッドが16歳、ジャズも16歳、ライラックが12歳だね」
ライラックさんだけ歳が離れているのか。
エルフとかの混血というわけではなく普通に若いだけか。
「ライラックが一番若いけどこのメンバーの中で一番賢いんだよ。だからパーティーの契約の交渉とかはライラックが必ず確認するし、戦闘能力も中々よ。ねーライラック!」
「別に……」
澄ました顔で外を見ているライラックさん。
人見知りなのか、人と話すのがあまり好きでないのか……。
「ねえねえちなみに君達は誰が付き合ってるとかあるの?」
「おい、マーシーそれは辞めておけって」
「えーだって聞きたいじゃない!」
ジャズさんがマーシーさんを止むるが、別に隠していることでもない。
シュネが
「私達ナツと付き合ってますよ。ねーナツ」
「ん、まぁな」
マーシーさんがえ!? 3人と付き合ってるのと驚いている。
ジャズさんが年下なのに彼女持ちかよ……羨ましいと嘆いている。
「村では隠していたんですけどね。私が地主の娘で、ナツは小作人の息子……ちょっと立場が違ったので……村を早く出たかったのは恋人の関係でも白い目で見られないからっていうのもありますね」
マーシーさんが他の2人も納得しているの? と聞くと、アキとメアリーもウンウンと頷いていた。
「ほへぇ……ナツ君は大変だ。女性を満足させるって1人でも大変なのに……」
マーシーさんは俺を値踏みするような視線を向ける。
ジャズさんは俺の肩を叩いて
「女性の扱いには気をつけろよ」
と小声で呟く。
「勿論彼女達に失望されないように頑張るつもりです」
俺がそう言うとマーシーさんとジャズさんはおお、よく言ったと感心したらしい。
馬車はゲンシュタイン騎士領の山脈に差し掛かり、一度馬車から降りて、馬車を後ろから押す様に言われる。
「行くぞ……せーの!」
リーダーのアルフレッドさんの号令で皆で荷車を押して進めていく。
身体強化の魔法をかけた俺達も後ろから押していくと、ゆっくり荷車が進み始めた。
「よしよし良いぞ、難所を越えるまでまでもう少しだ。せーの」
そのまま推し進めること約100メートル。上り坂を登りきれば、あとは緩やかな下り坂。
荷車が転がり落ちないように皆でブレーキをかけながら進んでいくと、上空からGAAAAとワイバーンの鳴き声が響き渡った。
どうやらワイバーンがこの荷車に気がついたらしい。
「おい! クムさん! ワイバーンが出ない道じゃなかったのかよ!」
「はい! 十数年この道を使っていますが、今まで襲われた事はなかったのですが……」
「ちい! クムさん馬車から離れろ! 火球が飛んでくるぞ」
「あわわわわ!」
クムさんは慌てて馬車を飛び降りると、ワイバーンは口から火球を放ってきた。
俺はすかさず魔法障壁を展開する。
バスン
魔法障壁に弾かれた火球は離散し、馬や荷車は無事である。
「シュネ、俺が倒す」
「ナツ、頑張って」
俺が飛行の魔法で空を飛ぶとワイバーンに向かって突っ込み、ワイバーンは火球を連発してくるが、全て魔法障壁で防ぎ、異空間からアキが作った魔剣(ワイバーンの鱗の剣)を取り出し、空間魔法を剣に纏わせる。
「運が悪かったなぁワイバーン!」
俺は剣をワイバーンの首に叩きつける。
「亜空切断!」
ザシュ……ワイバーンの首が飛び、頭を失った胴体が落ちていく。
「あ、やべ」
下には荷車があるので、俺は空中でワイバーンの体を支えると、荷車の横にワイバーンを降ろすのであった。




