第45話 行商人再び
冬をなんとか乗り切り、春が始まった。
俺とメアリーは7歳になり、順調に成長を続けていた。
冬の間はとにかく修行を続け、アキは錬金術と土魔法を融合したゴーレムを生み出す魔法を開発したりもしていた。
神の間でもゴーレムに関する魔法は読んだのだが、ゴーレムのコアを作る魔法がどうしても開発することができなかったのでお蔵入りになっていたものの、アキが魔物から取れる魔石をコアに改造することでゴーレムを作り出すことが可能になったのである。
とは言え、まだ出来立てホヤホヤなので、人型の土の塊や石の塊が歩いたり、走ったり、殴ったりする程度で、とてもでは無いが戦力にはなり得なかった。
それでもアキは興味を持ったらしく、毎日研究しているが……。
それ以外は特に大きなイベントも無く、春になり、前と同じ行商人が村にやって来た。
行商人さんはシュネの父さんと話をして、毛皮が保管してある小屋に向かうと、小屋に置かれた熊や狼の毛皮を見て驚いていた。
「いやはや、中々の量の毛皮ですなぁ。鞣しの質も良い。これならば前回と同じ金額で買わせていただきますぞ」
シュネの父さんもそうですかと安堵の表情を浮かべ、夕方に運びますと交渉を済ませた。
そのタイミングを見計らって、俺達は行商人さんに木苺のジャムの入った壺を4つ見せた。
「これはこれは……ケッセルリンクさんの娘さん達、今回はどんな要望かな?」
「木苺のジャムを壺いっぱいに作ったので、これを小麦粉と交換してもらいたいのです」
シュネが代表して木苺のジャムを行商人に見せ、行商人は壺の中を確認し、失礼と言って指で1口掬って舐めてみせた。
「んん! 実に甘酸っぱい質の良い木苺のジャムだ。これならば十分に売り物になるだろう。そうだね……ジャム壺4つで小麦粉3袋と交換でどうかな?」
「蜂蜜もまだ蓄えがあるんですけど……交換できますか?」
「そうだね……どれくらいあるのかい?」
「ジャム壺と同じ大きさの壺に入った蜂蜜が6つほど」
壺1つでおよそ1リットルと少し入っている。
行商人のおじさんは悩んだ末におまけして小麦粉10袋とジャム、蜂蜜全てと交換しようと言ってきた。
1袋おまけしてくれた。
俺達は喜んでそれに答え、壺を後で行商人さんに渡すので荷車まで運びますねと伝え、その後は毛皮を運んだり、ジャムや蜂蜜の壺を運ぶのだった。
「はい、毛皮の代金50枚の銀貨、超えた分は布で支払いね」
「ありがとうございます」
「いやいや、こちらとしても助かったよ。ジャムや蜂蜜みたいな甘味は町で高値で売れるからね。正直小麦粉よりも換金性は高いよ……重さもそれほど取られないから小麦粉を積んで帰るより全然良いんだ」
「そうなんですね……勉強になります」
シュネが代表して行商人に答えると
「そう言えば前に冒険者になりたいって君達言っていたよね」
「覚えていてくれたんですか?」
「ああ、有望そうな子は覚えているよ。ちょっと試してみようか……おーいサドラー」
行商人さんが護衛と思われる男を呼ぶと、若い兄ちゃんが現れた。
「彼はサドラー、町の冒険者予備校を卒業してブロンズ級の冒険者をしている者だ。身体強化の魔法を若年ながら使いこなし、暴れ牛を一刀両断した実績もある。彼に身体強化がどれぐらい使えたら冒険者として活躍できるか聞いてみると良い」
行商人はそう言う。
サドラーと呼ばれた青年は細マッチョと言った感じの爽やかイケメンであった。
「君達がクムさん(行商人の名前)の言っていた有望そうな子供達か……どれ、お兄さんが確認してあげよう。そうだな……クムさん、小麦粉の入った袋を破かないから借りても良いか?」
「ええ、構いませんよ」
サドラーさんは荷車近くに積まれていた小麦粉の袋を軽々と担ぐと
「身体強化を全員つかえるんだよね?」
「「「「はい」」」」
「よろしい。ならば小麦粉の袋を3つ持つ事はできるかい?」
そう言われたので、俺達は行商人さんにジャムと蜂蜜と交換する小麦粉の入った袋を持たせてもらいますと言って、1袋約30キロ……合計90キロの袋を纏めて持ち上げた。
それを見たサドラーさんは
「体重の約3倍の荷物を持ち上げる事ができるか……辛そうでもないってことはまだ余裕がある」
サドラーさん曰く体重の3倍を軽々と持ち上げられるかが身体強化の最初の壁になっているらしく、このまま順調に成長すれば、冒険者予備校に合格するのは容易いと太鼓判を押された。
というか冒険者予備校の入学試験で実際約100キロの荷物を指定された場所まで運ぶことができるかという試験があるらしく、100キロの物を30メートル運ぶことは共通課題で、その後魔法が使える者は的に魔法で攻撃をし、採点を。
それ以外の人は試験官と模擬戦を行い、試験官に圧勝できれば特待生になれるらしい。
「僕は試験官に負けちゃったから普通に学費を支払って通うことになったけど、在学中のバイトでも冒険者としての基礎を学ぶことができたから良かったよ」
在学中のエピソードを語ってくれた。
「学費も高いわけじゃないし、予備校生だったら冒険者ギルドから借金することもできるから学費か生活費のどちらかはバイトで支払って、残りは借金で……みたいな生活をしている人も多いよ。それで実際冒険者になったら借金を報酬から減額されて……みたいな感じかな」
中世的な世界にしてはよくできた仕組みである。
借金を踏み倒そうにも、冒険者をしている間は返済義務が生じるので、どこの領地に逃げたとしても冒険者ギルドで依頼達成や動物の換金をしたら借金分減額されてしまうし、事前に冒険者ギルドの方に活動拠点を移動することを伝えてないと、ギルド側の心証が悪くなって、上のランクに上がりづらくなったりもするらしい。
「そういうのも予備校で習うんだけど、案外聞いてない生徒も居るからね」
優しくサドラーさんは教えてくれた。
「じゃあこれが代金と小麦粉の袋、それに布ね……重いから気を付けてな」
「はい!」
行商人さんから物を受け取って、俺達は一旦シュネの家に行くのだった。
「シュネの親父さん手伝ってくれてありがとうございます」
俺が代表してお礼を言う。
「いやいや、こっちも結構貰っているからね」
シュネの親父さんには協力してもらう分、色々贈り物をしていた。
というかシュネに持ち帰ってもらっていた。
動物の毛皮とか蜂蜜とかジャムとか焼き物の皿とか……。
シュネの親父さん的には十分な量を貰っていると感じているらしい。
「小麦粉要りますか?」
「いや、私は十分に蓄えがあるから皆で分けなさい。あの小屋で焼いて食べているんでしょ?」
「まぁそうですが……」
「なに、困ったことがあれば私に言いなさい。君達はシュネの大切な友人だ。娘の友人の頼みであればある程度は聞くからね」
「ありがとうございます」
銀貨65枚もあれば宿屋代金はある程度大丈夫であるが、もう少し稼いでおきたい。
冒険者になるために村を出るまでシュネの親父さんには協力してもらうのだった。




