第40話 ハンバーグパイと木苺ジャムパイ
「自由に使える小麦粉ゲット!」
「でも30キロくらいだから大切に使わないとね……何に使うの?」
「ふふーん! 色々使えるけど、小麦粉を節約しながら美味しい食べ物と言えば……パイだろ」
「「「パイ?」」」
行商人のおじさんと交渉して蜂蜜と綺麗な布を手に入れた俺達は、布はアキの錬金術を駆使し、更に防御力を上げて魔法のマントを作ることに決まっていた。
服を作るでも良かったが、服だと成長期の俺達は身長がどんどん伸びているので服を作っても直ぐに着れなくなる未来が見えていた。
かと言って死蔵しておくのも勿体ないので、雨除けや魔物からの攻撃を守るマントをを作れば、体が大きくなっても継ぎ足していけばある程度は使えるし、町に行くまで使えれば良いと割り切ることにした。
まぁあとの残った布は手ぬぐいにしたり、料理を濾す時に使うなどして活用していく。
布はアキに任せるとして、小麦粉を使っておいしい料理を俺は作ることにする。
小麦粉を多く使わないでおいしい料理を沢山作るとなるとパイが向いている。
そもそもパイは地球での歴史を辿ると保存容器の意味が強く、窯の性能も低かった為、長時間パイ皮を焼いて、とても硬く食べられない耐熱容器として活用され、その中に食材を入れて食べる皿代わりに使われていた。
中世頃になると窯の性能が上がり、現代日本で見るようなミートパイが流行り始め、パイ生地も食べられるようになる。
もう少しすると砂糖を使った菓子パンが流行り始め、それに合わせてパイも甘い物が増えていったのである。
そしてアメリカの開拓時代になるとパンに使う小麦粉を少しでも減らそうと中に具材を詰めるパイが脚光を浴び、リンゴ栽培が盛んになった時期も重なった為にアメリカの国民食としてアップルパイが誕生した……なんて話もある。
事実パンを作るより小麦粉の使用量は3分の2程度となる。
では早速パイを作っていこう。
まずはパイ生地から。
小麦粉、塩、水、それに油が必要になるが、油はアキにあんまり美味しくなかったホーンタイガーの肉の脂身から油を錬金術で抽出してもらい、油……どちらかと言うとラード代わりに活用させてもらう。
水と塩を混ぜて食塩水を作り、小麦粉と混ぜ、粉っけが無くなるまでよく混ぜる。
そこに油を少しずつ入れていき生地に馴染ませ、少し寝かせる。
寝かせ終わったら麺棒で生地を四角く伸ばしていき、折りたたんでまた伸ばすを数回繰り返す。
今回は麺棒は使わずに魔法の力でやってしまったが、これでパイ生地の完成である。
これを各種パイにしていこう。
伸ばした生地を丸く型を取り、パイの大きさを決め、そこに具材をのせていく。
この時パイ生地にフォークで小さい穴を開けておくと具材に火が通りやすくなるので良い。
今回はハンバーグパイと木苺で作ったジャムパイの2つを作っていこうと思う。
ハンバーグパイは文字通りハンバーグをパイ生地で包んだ食べ物で、ワイバーンの肉塊を異空間から取り出して、これを風魔法でミンチにする。
更に森の中で採れた自然薯を使い、ハンバーグの繋ぎとして活用し、ミンチ肉ととろろにした自然薯(食感を楽しむようにサイコロ状にカットした自然薯も入れておく)を混ぜ合わせ、パイ生地の上にのせる。
乗せる時もハンバーグの形をドーム状にすると火が満遍なく通りやすくなるので良い。
あとは残ったパイ生地を長方形にして、縦と横にジグザクになるようにかぶせていく。
下の生地と上にのせた生地の接合は水を付けるとよい。
あとは窯で焼くだけである。
ワイバーンの肉塊が香辛料をまぶしたかのように刺激的な味わいなので、下手に調味料を入れるより、素材の味を活かした方が美味しいのである。
もう1つの甘いパイも作っておこう。
アキに作ってもらった片手で持つ鉄鍋に、森で採ってきた木苺を塩水で少し浸けておいた物をよく洗ってから鉄鍋に入れて、蜂蜜と一緒に弱火で30分ほど煮詰めていく。
煮詰め終わったら森に生えていた酸っぱい果実(多分柚子系)の汁を入れて木苺ジャムは完成。
丸く形どったパイ生地の端を余ったパイ生地で耳部分……具材がこぼれないように堤防を作り、その中にたっぷりの木苺ジャムを入れていく。
塗っていくではなく、入れていくである。
それぐらいたっぷり木苺ジャムを投入。
あとは土魔法で作った石窯で、俺が魔法を使い、火加減を調整しながら焼いていけばハンバーグパイとジャムパイの完成である。
1人分に切り取って木のプレートに盛り付け、4人でいざ実食。
「んん! ハンバーグパイはワイバーンの肉を使っているからかスパイスが効いているみたいで肉の旨味がダイレクトで伝わってくるよ。肉汁も凄いし!」
メアリーはハンバーグパイにご満悦。
自然薯でとろみがついたハンバーグに対しても時々サイコロ状に切った自然薯が出てきて食感に違いをもたらしてくれると喜んでいた。
アキとシュネはジャムパイを絶賛。
「蜂蜜を塗って黒パンを食べたことはあったけど、サクサクのパイ生地にジャムがたっぷり入っていて口の中に木苺ジャムの甘酸っぱさが広がって凄く美味しい!」
「やっぱりジャムにした方が美味しいよね……」
俺的にも納得がいく食事を作ることができた。
やっぱり手間をかけた分だけ料理は美味しくなるってことかな?
4人でそれぞれのパイを半分食べて、残りは異空間に保管。
俺はこの日は残りの時間ハンバーグパイ作りと木苺ジャムを作り置きしておいて、異空間に収納しておくのであった。
蜂蜜事件があってから、自分の家での生活は凄いギクシャクした感じになってしまっていた。
両親は兄貴に対して冷たく当たるようになったし、兄貴はその不満を俺に発散できなくなって暗い表情を浮かべることが多くなった。
ここで俺が何かアクションを起こせば兄貴の家での立場が完全に無くなってしまうので、下手に動くこともできない。
気まずい食事を終えて、兄貴は一目散に家から飛び出して愚連隊のところに向かい、手伝いをしない兄貴の両親からの評価がどんどん下がる。
「ナツ……お前が家を継がないか?」
親父がそんな事を言い出すくらいには兄貴の評価が下がっていた。
「お父さん、僕は次男です。家を出て冒険者になり、成功してお父さんやお母さん達にもっと生活の楽な場所に移住できる様に頑張りますから……」
「ナツ……ありがとうな。それに比べてレグは……」
親父が愚痴を言い始めたので、親身になって聞いてあげ、流石に長くなりそうだったので、ある程度したら水汲みに行ってきますと家を出た。
「はぁ……全く……」
兄貴も自分の立場がヤバいのわかってるんだったら親父の手伝いをすれば良いのに……。
幼いからわからないか。
共同の井戸から水を汲むフリをして、水魔法で桶に水を入れて、家の水釜に水を入れていく。
満タンになったのを確認し、俺は桶を家に置いて、メアリー達の居る秘密基地へと向かうのであった。
「家の雰囲気が最悪過ぎる……」
「ドンマイ」
俺は異空間を広げる鍛錬をしながら、ワイバーンの骨を黒曜石ナイフで削って加工しているアキと話す。
「アキの家は大丈夫なのか? お前が長女だろ?」
「うーん、お父さんはあんまり女性の私に鍛冶をやらせたくないらしいから、私が将来冒険者になりたいって言った時も反対はしなかったな」
「それなら良いんだけどさ」
「でも冒険者になって稼いでもお父さんやお母さん、弟をもっと良い場所に引っ越しさせるのは難しいかも」
「……村に鍛冶屋がアキの親父さんのところしか無いからな」
「うん……まぁその悩みも私達が冒険者として大成してからの話だけどね」
「そりゃそうだわな」




