第4話 理不尽と考えるのではなく必要性を考える
「あ、質問し忘れたんだけど……服のこと」
桜花さんが異世界転生のことや部屋のことばかり聞いていて、服があるのかどうかを聞き逃した事に気がついた。
俺も言われてみれば、まずはそれについて質問するべきだよなと思っていたが……桜花さんが忘れていただけだったみたい。
ただ聞いた感じ、服がありそうな部屋がないんだよな……。
「流石に全裸で動くの恥ずかしいので服を探しませんか……夏樹さんの男根も丸見えですし……」
つららちゃんが恥ずかしそうに言う。
俺は慌てて、手で隠すが、今更感もする。
とりあえず体が隠せそうな物がありそうな場所……と言うと浴場かな?
バスタオルがあれば最低限隠すことができそうだし。
俺の提案でまずは西の浴場を調べてみることにした。
木製の扉を手前に引っ張って開けると、脱衣所が広がっており、洗面台には4つドライヤーが刺さっていて、横にはご自由にと書かれたバスタオルとフェイスタオルが積まれているラックがあった。
あとは使用済みのタオルはこちらに入れてくださいと書かれた入れ物があり、中をのぞくと黒い渦が巻いていた。
手を試しに入れてみたが、特に変化は無かったものの、中に入ってまで確かめるのは危なそうだと頭が訴えかけてくる。
とりあえず全員バスタオルで体を隠し、探索を続ける。
調べた感じスーパー銭湯の脱衣所を簡略化した場所というイメージが強く、給水器はあるけど、体重計は無かった。
逆に何故か血圧計が置かれており、画面の男は今の状態を精神体と言っていたのに、血圧を測って何になるんだと思ったけれど、一応俺が代表で計測してみるとこの様な数値が表示された。
【現在の魔力量 5】
【最大魔力量 5】
【精神摩耗度 1%】
うん、ファンタジー……。
周りの皆も集めて数値を測ったが、精神摩耗度を含めて同じ数値。
魔力というのがファンタジー世界でお馴染みのの魔法を使うためのエネルギーとするとこれが基準となるのかもしれない。
とりあえず桜花さんはメモを取る。
この脱衣所にあった物は先ほども話したフェイスタオル、バスタオル、ドライヤー、血圧計擬き、あとは荷物を入れる籠、洗面台に腰掛けるための丸椅子……それくらいである。
洗面台は全面鏡になっていて、俺達の姿が映し出されているが、体が全体的に白っぽい感じがする。
それ以外はバスタオルに身を包んでいる俺が映っている。
「何か発見ありますか?」
「うーん、特にないね」
「夏兄の血圧計擬き以外は変なの無いよ」
「そうか……」
とりあえず次に見るとなると風呂場だ。
曇りガラスで風呂場の様子は見えなくなっており、俺は引き戸を開けて、中を確認する。
床はタイルが張られていて、壁沿いには洗い場、部屋の半分は浴槽に並々とお湯が張られていて、縁からお湯が流れ出ている。
お湯に手を入れてみると少しぬるま湯みたいな感じで体感温度は38度から39度くらい。
手でお湯を掬って顔を洗ってみるが、普通のお湯にしか感じない。
温泉の様に硫黄の匂いがする感じでも無い。
洗い場にはリンスインシャンプーとボディソープと書かれたボトルが置かれていて、実里とつららちゃんが調べた限り、ごく普通のシャンプーとボディソープであり、成分表が書かれているわけでもないのでよくわからないと言うのが結論だった。
あとは風呂桶が人数分の4つ、洗い場前に腰掛けが4つ、洗い場の数も人数分の4カ所で、気になるのは温度調整の部分が無く、バーを下げるとシャワーからお風呂と同じくらいの温度のお湯が出てくるのだった。
「本当に最低限の風呂場って感じですね。桜花さん」
「……広さは20畳程度……小さめのホテルや海近くの宿なんかがこんな感じの風呂場が多いイメージだけど……うーん記憶に当てはまる宿はないね」
「他に扉も無いですし、外に出られる感じでも無いですね」
「まぁあの画面の男が言うに、僕達は今精神体らしいから外に出られたとしても消えてしまうんじゃないのかな?」
「そもそもここが切り離された異空間の可能性が高いですけどね」
「それもそうだ……よし、ここは調べたから別の場所を探してみよう」
桜花さんが実里とつららちゃんを呼んで、風呂場と脱衣所の探索を終了する。
異変は脱衣場から最初のテレビのある部屋に戻った際に起こった。
「お、桜花さん、バスタオル無くなってます」
「ん……本当だ」
「え? ……きゃ!」
「夏兄のバスタオルも消えてるよ!」
脱衣場から最初の部屋に戻るため、扉をくぐると、先ほどまで体を包んでいたバスタオルが消滅し、俺達は再び全裸になってしまった。
「うーん、不思議空間極まれりってやつか?」
腰に手を当てて堂々と悩んでいる桜花さん、絶壁の胸も綺麗に毛を整えられた下部も丸見えである。
「お、桜花さん少しは恥じらいを持ってください!」
「いや、今更だろ……隠しようがないんじゃ隠していても仕方がないからね。なんだ阿部君はそそり立っているじゃないか」
そりゃ女性の裸体を直視したらそうなる。
「あわわ」
つららちゃんは手で顔を隠しながらも俺の下半身をガン見している……さてはムッツリスケベだな。
実里はとりあえず自分の胸と下部を手で隠して、最低限のガードはしている。
「さてさて、体を隠す事をこの空間は禁じているのか……それとも何かしら意味があるのか……阿部君はどう思う?」
急に真顔で桜花さんが俺に質問してくるので、俺も真剣になり、考える。
「そうですね……精神体であることが関係しているんじゃ無いでしょうか……画面の男の人が神々の判断で、俺達は転生するまでの間、この仮の空間に留め置かれているので、服という衣は寒さを守るための道具であるから必要無いと判断されてしまったのかもしれないと思うのですが」
「なるほど……確かに神々に取って人間の羞恥心というのに重きを置いていないのかもしれないね。しかも排泄の必要がないって言っていたから、男性器や女性器はあくまで性別のシンボル的以上の意味合いは無いのかもしれないね」
「それだと俺が勃起しているのはおかしくありませんか? というか外部の痛みが遮断されているのに、勃起が起こるってことは体の内側の感覚は有効ってことになりますが」
「うーん、外部の痛みに関しては完全に遮断されているわけじゃなくて、僕達無敵状態になっているって言った方が良いかもしれないよ……ちょっと実験してみようか」
桜花さんは俺に近づくと、いきなり俺の顔面にビンタをしてきた。
思わず硬直してもろにビンタを受けてしまったが、確かに手が触れた感触や衝撃は感じたが頬を撫でられた程度の感覚でしかなく、痛みには感じなかった。
「感覚はあるだろ?」
「そ、そうっすね……」
悪い悪いと桜花さんに言われて代わりにと桜花さんは俺に顔を近づけると、舌を俺の口の中に入れ込んだ。
ディープキスである!
「な!」
「キャー!」
実里とつららちゃんは桜花さんのいきなりの行動に戸惑うし、俺自身も戸惑うのであるが、口の中で舌を絡める感覚はビンタされた手の当たった感覚よりもより鮮烈に感じる。
「ぷはぁ……やっぱり外側と内側で大きく感覚が違っているっぽいね」
「ハァハァ……それが勃起と何が関係が?」
「大有りさ、内側の感覚はほぼ正常ってことは味覚や嗅覚なんかは正常に動いているってことになる。つまり精神体とは言え体の内部は五感や繁殖的行動は制限がされてないってことに繫がるとは思わないかな」
「……勃起すること自体が本来おかしいってことですか?」
「そう、それにキスした時に胸がドキドキしたりするのや、羞恥心だって精神体であるだけなら不要な筈だ。それが存在するというのに何かしら神々が意味を持たせているとしたら?」
「……何かしらで使えるかもしれませんね」
「だろ?」
身を隠せない話からここまで考察することができるとは……俺1人だったら思いつかなかった。
桜花さんってやっぱり頭が切れるんだな。




