第38話 兄貴へのお仕置き
「お父さん、お母さんこれ……」
「ん、どうしたナツ……この壺は?」
「魔法で作ってみたんだけど、それよりも中身」
「中身……これは蜂蜜か!?」
「うん、森近くで採取してきたの。食事の足しになればと思って」
「でかしたナツ! これだけの量の蜂蜜があれば行商人に売って多くの塩を買うことができる!」
家に帰り、俺は両親に蜂蜜を渡すと、喜んでいたが、自分達で食べるのでは無く、行商人に売って塩と交換してもらうことの方が大切らしい。
陸の孤島であるこの村で生活している以上供給が限られている塩の確保の方が重要か。
少々期待していた反応とは違うが、両親を喜ばせることはできた。
たまに森に生えている芋とか木の実とかの食べられる物を渡しても良いかもしれない。
森に入るなと怒られるかも知れないが、食卓を支えるとなれば文句は言われないだろう。
「森は危ないからなるべく入らないようにしなさいね」
「はーい」
母親からもそう言われるだけで、注意はすれど、禁止にはしなかった。
そしてこの様子を見ていた兄貴は面白い筈も無く……イタズラをすることになる。
数日後、俺や両親達が出掛けている間に、兄貴は蜂蜜の入った壺を持って自分とつるんでいる愚連隊のところに持っていき、愚連隊のリーダー格……領主の息子さんに蜂蜜を献上したのである。
兄貴もやっぱり小作人という家柄なので愚連隊内での地位も低く、俺に対しては威張っているが、ほぼパシリみたいな扱いを受けていた。
そして領主の息子さんに媚を売ることで愚連隊内の地位を少しでも上げようとしたのである。
兄貴のしたことは決して褒められたことではない。
家の財産を勝手に投資に使ったのと同じ扱いであり、しかも見返りが無いかもしれない。
両親が家に帰ってから蜂蜜の壺が無くなっているのを見てパニックになり、兄貴よりも先に家に帰ってきた俺は蜂蜜の壺を探す手伝いを捺せられる羽目になり、家に帰ってきた兄貴が両親に自慢気に領主様の息子さんからお褒めの言葉をいただいたと言うと、父親は兄貴をぶん殴り、母親は泣き出してしまった。
兄貴も俺より年上と言ってもまだ9歳、衝動的に動き、自分的には良いことをしたと思った矢先に両親から叱られて、何故俺だけ怒られなければならないのか……みたいな感情を抱いていることだろう。
弟だけが褒められて、兄貴は叱られることが多ければなおのこと。
反抗心がムクムクと湧いて出てくる。
俺はそんな様子の家族を見て少しの幸福も家族内で共有できずに罵り合う事になるのか……というのを見て悲しくなるが、絶対兄貴のフラストレーションは俺の方に向くんだろうなって思い、俺の方に向いたら……ちょっと行動に移さないと行けねぇなぁ……と思うのだった。
案の定、両親に怒られた兄貴はそもそも俺が蜂蜜を持ってきたからだと責任転換を行い始め、両親がいない場所で俺を攻撃し始めた。
「お前が蜂蜜なんか持ってきたから親父とお袋に怒られることになっただろ!」
酷い話である。
勿論俺にとってだが。
「うーん、兄貴は馬鹿なんだろうな」
「は?」
「いや、馬鹿だろ……何で両親に相談することもなく自分の利益のために領主様の息子に献上するって……多分領主様の息子のザトラー様も兄貴の蜂蜜の事を下僕が俺に贈り物してきた……それ以上の感情は無いと思う。蜂蜜を献上されたからって家臣に引き上げるって事も無ければ、愚連隊内での地位が上がるわけでもないだろうよ」
「あ、ザトラー様はありがたく受け取ると仰っていた。つまり恩に感じたってことじゃないのか!」
「ないない、そんな事は断じて無い。だって相手は貴族、こっちは普通の農民よりも低い小作人……誰が相手にする?」
「……うるせぇ! 愚連隊内で目立てば小作人から脱却できるかもしれねぇだろ!」
「そもそも小作人から脱却するんだったら媚び売る先は地主だろうに……地主に物納でも現金でも良いから自分の耕している土地を買い戻させて貰って初めて小作人から自作農に脱却することができるんだぞ」
「小難しい事を言いやがって!」
まだ9歳、されど9歳。
年下にしか暴力を振るうことができない兄貴を見ながら、心に余裕が無く、しかも無学だと少しでも知識がある人物や権力者に利用されてしまうんだなと……実際に知見を得ることができた。
兄貴が殴りかかってきたが、俺は身体強化の魔法で防御力を上げ、兄貴のパンチを顔面で受け止める。
全く痛くない。
逆に兄貴の方が痛がっている。
俺はそのまま兄貴の腹部に拳をぶち込むと、兄貴は腹を抱えてうずくまり、朝食べた食事を全部吐き出してしまった。
俺は兄貴の髪の毛を掴んで顔を上げさせると
「俺に構うな」
そう吐き捨てて、俺はその場から立ち去った。
それ以降兄貴は俺を見ると怖がるようになり、暴言を吐くことも、暴力を振るおうとすることも無くなるのであった。
「兄弟って大変だよね……私も前世は姉が、今世で兄が居るけど、年下は年下なりに苦労があるんだよね」
異空間を広げる特訓をしている俺の話し相手になってくれているシュネも兄妹、姉妹の関係で前世も今世も苦労しているとのこと。
「特に今世は私が優秀ってことを両親が認めているから、お兄さんは地主としてこの村の家は守っておくから都会で成功して貴族になったら一門家臣として雇ってくれって言っているし……」
「割り切ってるな……シュネの兄さん」
「妹ながらアドミン兄さんは魔法の才能が乏しいだけで頭も切れるし、勉強もできるからこんな辺境の村の地主で燻らせて良い人物じゃないと思うんだけどね」
「そう言えばあんまりお兄さんの姿見てないけど、普段は何をしているんだ?」
「畑仕事をしているか、父の代わりに領主様の屋敷で召使いをやっているわ。ただ領主の息子のザトラー様とは上手くいっていないみたいなのが気になるのよね」
地主と言っているが、シュネの家は名主とほぼ同意義の立場で、正式な役名は村役人。
領主と領民の間に入って年貢の取り立てをしたり、揉め事の仲裁をしたりする立場であり、最終決定権は領主が持っているが、それ以外はほぼ地主連中が執り行っていた。
このゲンシュタイン騎士領に地主は4人おり、世襲制で地主の役職を引き継いでいた。
現地主のシュネの父親達の世代は利害関係から表向き不仲を装っているが、裏では全員と繋がっており、息子世代のシュネの兄であるアドミンや他の地主の息子達の関係は良好であった。
ただ現領主の息子ザトラー様は自ら愚連隊という領民の息子達を集めた不良組織を作って集会を度々開いて遊んでいる為、それを止める立場の地主の息子達とは仲が悪い。
ちょっとそこが気になるんだよな。
まぁ出ていく立場なので村の今後がどうなろうと関係ない……とは言えないよなぁ……兄貴はどうでも良いが、両親は貧しいなりに俺のことを大切に思っているし、メアリーやアキも今世の家族は良くしてもらっているから、立志出世したらもっと生活が楽な地域に移住させたいって考えているし……。
「考えても仕方がない……か。話し相手になってくれてありがとうシュネ」
「どういたしまして。異空間広がった?」
「ぼちぼち……前よりは広がる早さが早くなったけど、それでも1時間で8畳くらいだな」
「じゃあこの後は魔力の循環訓練?」
「ああ、その予定」
「手伝おうか?」
「ありがとう。でも大丈夫。シュネはメアリーの手伝いをしてやってくれ」
「はーい」
シュネと別れて、俺は岩石スクワットをやるのであった。




