第34話 山に挑む前のトレーニング
「シュネさんや……今までやってきた事どう思います」
「本当にごめんなさい……」
シュネことつららの意識が覚醒して彼女は会って早々に俺達に土下座した。
意識が覚醒前の自分が驕り高ぶって更に選民的な思考で行動していたことや言動を黒歴史にしたいと猛省していた。
「まぁ俺達もその件に関してはそこまで怒ってないよ、親父さんにバレたのはちょっと思う所あるけど」
「そっちもごめんなさい」
俺が怒っているアピールをするが、シュネも自分が悪いので受け止める。
「はいはい、怒ったり反省したりするのはこれくらいにして、シュネの魔力に関して違和感はない?」
「多分私に覚醒する前から魔法を使いまくっていたから、魔力が体に順応しているっぽいですね。ほぼ違和感なく魔法が使えます」
メアリーがシュネに確認すると、シュネは手から氷の結晶を生み出し、それを手で砕いた。
次に火の玉を手から生み出すが、それも問題なくできている。
「飛行はできそう?」
「それも問題ありません」
ふわりとシュネが浮き上がり、空中で歩いて見せる。
問題は無さそうだ。
「とりあえず数日は動物を狩って練習をしてから、4人そろった事だし山に挑んでみよう」
メアリーがそう言うと、シュネが
「確か魔物のテリトリーですよね? 山の周囲は」
そう確認する。
その通りで、山は魔物の巣窟になっており、野生動物以上に危険な動物がわんさかいる。
ただ冒険者をやっていく以上魔物を討伐できないようでは話にならない。
どんな魔物が生息しているか分からないが、魔物を倒せれば自信もつくし、冒険者としての収入も安定する。
6歳で戦いに行かなくても……と思うかも知れないが野生動物が歯応えが無い以上魔物で実力を測るしか無い。
まぁごちゃごちゃ言っているが、結局のところ自分達が現状どれぐらいやれるのが試してみたいのである。
「魔物のテリトリーだな。でも魔物くらい倒せないと貴族に成り上がるのなんて夢のまた夢だぞ」
「それは……そうだけど」
傲慢さが消えた反動で慎重になりすぎてないか?
「はいはい、とりあえず僕はシュネと一緒に野生動物の狩りをしてくるから、アキは錬金術の練習、ナツは空間魔法の練習して異空間の収容量を増やさないとね」
メアリーが前世と同じようにリーダーシップをとって場を纏め上げ、一度解散することになったのだった。
空間を広げるとなると今ある異空間に魔力を込めて、面積を増やしていく感じか?
俺は自身の肉体に宿る魔力を汲み上げて、練り込み、空間魔法へと転換していく。
端から見たら座禅組んでウンウン唸っている様にしか見えないのであるが……。
「ぷはぁ……これでどれくらい広がったか?」
おおよそ直径3メートル大の火球を生み出す魔力の100倍を空間魔法に込めてみたが、広がった面積は4畳分だけであった。
「一応2倍にはできたけど……これだけ込めて4畳か……今の全魔力を込めたらもっと広げられるかぁ?」
今回の面積を広げるだけでも1時間近く瞑想する必要がある。
これは魔力を魔法に変換する体がまだ魔力をスムーズに通せない……魔力が体に馴染んでいないのが問題に思える。
「アキ、ちょっと外に居るわ」
「はーい」
錬金釜で何か作る練習をしているアキに一声かけてから外に出て、俺はとりあえず身体強化を現状の最大倍率まで上げる。
「くう、体全体に魔力が流れているのがわかるけど……精神体の時に比べて100分の1程度しか魔力に対して効果を発揮できていない!」
精神と肉体の乖離である。
元々魔法の才能がある肉体では無かったところに俺の精神が宿った為に魔力に順応するのに時間がかかるし、肉体が邪魔をして魔法の効率が落ちてしまっている。
神の間でもこうなる可能性は本に書いてあったが、実際に体験すると出力の割に威力が小さいのが凄まじい違和感。
こうなった場合の対処法は細い管に水を大量に流して管を水圧に耐えられるようにするか、管を太くしていくかのどちらかである。
今回やっているのは後者。
管を内側から外に向かって膨らませる事をしている。
そういう時に手っ取り早いのも身体強化の魔法である。
体の内側を刺激して魔力を循環させるので他の魔法に比べて魔力の消耗が少ない。
故に長時間トレーニングすることができる。
更に効率を良くするために俺は岩を魔力で生み出して、それを身体強化した肉体で持ち上げる。
その岩の重さは優に5トンを超えている。
「現状の筋力と身体強化でギリギリ持てる重さ……」
俺は岩を背負いながらスクワットを開始する。
負荷的にこれが現状一番効くトレーニングである。
「クソつれぇ……」
絵面は超地道であるが、実際滅茶苦茶トレーニングになっているので頑張るしかない。
俺はこのトレーニングを2時間ほど続けるのだった。
「魔力無いなった……すっからかん……」
魔力が無くなると肉体にとんでもない睡魔が襲いかかってきて、俺は休憩スペースで仮眠させてもらう。
2時間程度眠ったら、いつの間にか帰ってきていたメアリーとシュネに起こされた。
「ん……狩りしてた2人が帰ってきたってことは……結構時間が経っている感じか?」
「爆睡していたけど何かした後でしょ? 何したの」
「魔力が空になるまでトレーニングしたら急激に睡魔に襲われてな」
メアリーに聞かれたので、俺が答えると、確かに魔力がほぼ無くなると睡魔に襲われるよねとメアリーもなったことがあるらしく、頷いていた。
「狩りの方はどうだったんだ?」
「とりあえず熊と鹿狩ってきた」
外を見ると運ばれてきた動物達の亡骸が置かれている。
「全員で解体してしまおうよ」
「そうだな」
そのまま俺達4人でメアリーとシュネが狩ってきた動物達を解体し、部位ごと、素材ごとに分けて俺の異空間に仕舞っていくのだった。
そんな生活を続けること数日、俺の異空間も合計40畳くらいの広さまで拡張し、多少は魔力が体に馴染んだ事を確認し、今日はいよいよ山に挑む日である。
早朝、家族で黒パンと薄い塩野菜のスープを飲んで日課になっている水汲みをしてから出発しようとした時……兄であるレグに声をかけられた。
「おい、ナツ」
「何? レグ兄?」
ドンと壁に俺を押し付ける。
「お前……盗み食いしてるだろ」
「え?」
「とぼけたって無駄だぜ、ここ最近お前顔色良いし、少し肉が付いてきたんじゃないか? どこで飯食ってんだ? あれか? お前とつるんでいるシュネの嬢ちゃんに恵んでもらっているのか? それとも鍛冶屋のアキか?」
いや、狩りしたり畑作ったりして食べている……と言っても信じてもらえるわけねぇな。
面倒くさいことになった。
どうしたものか……。
「わ、わかったよ……貰った時にレグ兄の分も貰えばいいんでしょ?」
「わかってるじゃねぇか……じゃあ頼むわ」
兄貴は俺にそう言うと遊びに出かけてしまった。
食べ盛りで食事が足りていないのはわかるが、弟にたかるなよ。
まぁ俺くらいしか威張れる相手が居ないんだろうな……。
芋でも渡してやれば満足するだろう。
俺はあまり気にすることはしないで、皆との待ち合わせ場所に移動するのであった。




