第32話 エルウィン・フォン・ケッセルリンク
私の名前はエルウィン・フォン・ケッセルリンク……シュネーの父親だ。
私の先々代……お祖父様は元々帝国の中央で法服貴族として働いていた官僚系の家柄であり、竜人の多くが軍関係者の中少々特殊な生まれであった。
そのため軍と財務の橋渡し役としてお祖父様は勤務していたらしいのであるが、政敵により嵌められてしまい、汚職の濡れ衣を着せられ、それが中央でも大問題に発展したことで数十人単位の貴族が貴族籍を剥奪されてしまい、お祖父様は失意のうちに亡くなってしまった。
残された私の父は3男であったことで、兄2人がお祖父様の手伝を使って復権しようとする中、自分の能力と祖父の政敵が中央に居座っている間は復権は無理だと悟り、地方で基盤を作るため、開拓者を募集していたゲンシュタイン騎士領に開拓者として潜り込むことにしたのである。
しかし、ゲンシュタイン騎士領は僻地にあり、自分の生活基盤を作るので精一杯であり、地主になることはできたが、そこで父は力尽きてしまった。
跡を継いだ私は地主として領主様に仕えているが、正直ここで生活をしていても貴族に復権できる見込みはほぼ無い。
一応一族の悲願ではある貴族への復権も子供に押し付けるのは良くないと教育してきたのであるが……シュネーがそんな時に生まれた。
彼女は私達一家が赤い髪や尻尾を持っているのに対して、綺麗な銀の鱗や尻尾、髪をしており、普通とは違う子供だと直感した。
その予感は的中し、シュネーは炎だけでなく水や風、氷といった他の属性にも高い魔法の適性を発現し、さらに魔力量も人より多かった。
一家揃って大喜びし、私達両親だけでなく私の息子でシュネーの兄もシュネーならば一族の悲願である貴族に戻れるのではないか……というのを期待するようになっていった。
そんな期待を受けてか、シュネーは貴族の様な振る舞いをするようになり、他の子供達を家臣の様にして遊ぶようになってしまった。
最初は注意をしていたのであるが、シュネーが遊んでいるのは主流から外れてしまった子供達で、力を持っているシュネーが守ってあげないと年上の子供達から虐められてしまうような子達だった為にシュネーなりに考えていることを知って、強く言うことは止めることにした。
そんなある日、シュネーが魔法の扱いに失敗して倒れたと遊んでいる子供達から言われて家に運び込まれ、体調が良くなって数日後に再び遊びに行って帰ってくると、私に魔法をもっと教えて欲しいと頼み込んできたのである。
正直既にシュネーの方が魔力量に関しては上である。
しかし、父親として娘が悩んでいるのに対して何かしてあげないとと思い、その日から仕事がない日は私と一緒に魔法の特訓をすることにした。
何でもシュネーは友達に魔法を使った喧嘩で負けてしまったらしい。
シュネーを倒せる子がいた事に驚きであるが、シュネーの才能であれば直ぐにその子に勝てる様になるだろう。
そう思って特訓を続けること数週間。
幼いシュネーに無理をさせてしまったのか高熱を出して倒れてしまった。
一時は生死を彷徨ってしまい、私達は出来る限りの治療や祈願を施して快調に向かうことを願うと、徐々に熱が引いてきて、シュネーは元気を取り戻した。
取り戻したのだが……人が変わったかの様な変化をしていたのである。
元気になったシュネーに魔法の特訓を再開するかと聞くともう大丈夫と言われ、皆と遊びに行くと言って出かけてしまった。
あれだけ魔法の特訓に熱中していたのに大丈夫かと不安になったが、元気に遊ぶことも必要だろうと切り替えることにした。
そんなある日の夜、シュネーの部屋から物音がして見に行くと窓からシュネーが外に出ていくのを見てしまった。
ただベッドの上ではシュネーが寝ている。
私はベッドで寝ているシュネーに手を当てると、すり抜けてしまった。
「ダミーの魔法!?」
こんな魔法をシュネーが覚えているとは知らなかった私は、シュネーの成長に驚きつつ、外にでて行ったシュネーを慌てて追いかけていった。
私は夜目の魔法を自分の目にかけて外を探すと、森の中に入っていくシュネーを見つけてしまった。
「な! 夜の森に入るだと!」
熊や狼等の凶暴な野生動物が生息している森に6歳のシュネーが入るなど自殺行為……シュネーが多少魔法が使えても危ないことには変わりない。
私は慌ててシュネーを追いかけ、森に入り、シュネーを見失わないように進んでいくと、開けた場所に出た。
そこでは巨大な熊にクリスティー家のメアリーちゃんが襲われてしまっていた。
「な!」
私はもうメアリーちゃんを助けることはできないと判断し、目をつぶる。
しかし、ぐちゃりと肉が潰れる音や熊がメアリーちゃんを捕食するような音、メアリーちゃんの悲鳴は聞こえてこない。
目を開けると、熊と殴り合っているメアリーちゃんがそこに居た。
よく見てみるとシュネーとよく遊んでいるアドラー家のナーリッツ君やシュネーがその様子を切り株に腰を掛けて眺めている。
メアリーちゃんはその間にふわりと体を浮かせると、光の光線を大熊に向かって放ち始めた。
シュネーが喧嘩で負けたと言っていたのはメアリーちゃんだったのか……あれほどの魔法が使えるとなると確かにシュネーでは勝ち目は無い。
しかし大熊はその光線を片手の手のひらで受け止めて弾く。
光線が近くの木に当たるとその木に大穴が空いていた。
「こ、これほどの威力のある魔法を普通の熊が受け止められる筈がない」
つまり目の前にいるのは魔獣ということになる。
そんな相手にシュネーやナーリッツ君は呑気に観戦しているんだ! 早く逃げないと殺されてしまう!
私は音を立てないようにこっそりと移動してシュネー達のいる方に近づく。
その間にもメアリーちゃんと大熊の攻防は続き、光線魔法が近くに着弾する。
光線が当たった地面が高温で液化し、直ぐに固まって黒曜石の様になってしまったのを見て、私は震えながらシュネーの元に近づいた。
すると私の肩を誰かが掴んだ。
「あれ? シュネのお父さんじゃないですか」
振り向いて見ると、ナーリッツ君が私の後ろに立っていた。
あれ? さっきまで目の前に居たはずなのに……。
すると私の目の前に光線が飛んできた。
逃げられないと死を覚悟した瞬間、目の前に障壁が展開されて光線を離散させてしまった。
「あ、あえっと……」
私は腰が抜けてしまう。
「おーい、戦闘止めて! シュネのお父さんに見つかった」
大声でナーリッツ君が叫ぶと、戦闘をしていたメアリーちゃんと大熊が戦いを止めてこちらに近づいてくる。
大熊はこちらに近づきながら姿を変えていき、すると見覚えのある姿になっていった。
「べ、ベルベット家のアキーニャちゃん?」
大熊の正体が人であったのにも驚いたが、知り合いの子供があんな戦闘をしていたことに私は更に混乱してしまうのであった。




