第30話 塩の錬成
「ずいぶんとまぁ……神様も意地悪するわね」
南部の地域の村に転生を望んだが、生活水準は中世レベル。
鍛冶屋の娘としてアキの家は他の家に比べると裕福ではあるが、それでも地主や領主と比べると貧しい暮らしを強いられている。
まぁこんな環境だと地元でも愛着が湧くことはないだろう。
「森があるのは良いわね。食べ物の調達に関しては考えなくても良さそうだし」
「そうだな……ただ魔法が普通より使えることがバレると家族から農作業を手伝えだとかここの領主が権限を使って土地に縛り付ける可能性が高いから魔法は基本隠す方針で」
「あぁ、なるほどね。だからナツはシュネにやりたい放題にされていたわけか。記憶だと反撃できるチャンスはいくらでもあるのに反撃しないことに疑問を持っていたのよね」
「アキも嫌だろ? ここの領主の妻になるの」
「嫌よ。自由が完全に無くなるし、私はナツと前世から繋がりがあるのよ! それを捨ててまで別の人と結ばれたくはないわ」
「それを聞けて安心した」
まぁ茶番はこれくらいにして、アキの体の調子はどうかと質問する。
「完全に身体強化と土系統の魔法以外の魔法は出そうと思っても出せないわ。覚悟はしていたけど、修行した一部技能が使えないとなると……ちょっと来るものがあるわね」
転生前に予想した通り、身体強化と土系統の魔法しか使えないとわかるとアキは少々落胆していたが、錬金術はちゃんと使えるとわかるとテンションは持ち直した。
「えっと9歳になる年に冒険者予備校に通って1年間授業を受けて冒険者になるってプランを組んでいるのよね? うーん、家の親が許可してくれるかどうか」
「それにシュネはともかく俺達は学費免除の特待生で入学しないといけないからな。合格しなかったらバイトしながら通わないといけなくなるし」
「10歳になれば予備校に通わなくても冒険者になれるけど?」
「それまでこの村に居たいか? 俺は嫌だぞ……」
「まぁ……それはそうね……」
修行場としては良いかもしれないが、家に縛られるので自由は無いし、自身の力を十二分に発揮できる場でもない。
兄貴も俺の存在が目障りっぽいし、早めに家を出るに限る。
「というかシュネがつららなの確定なの?」
「ほぼ確定だろ……竜人で氷の魔法使えるのほぼ居ないらしいし」
竜人かつ炎だけでなく水や氷への親和性の高い竜人なんかが複数人居ても怖い。
それにこの村には竜人の家系はシュネの親族だけで、俺らと同じ年となればほぼ確定だろう。
「……ちょっとやりすぎちゃったかしら」
アキがそう言うとメアリーが
「天狗になっていたし、良い薬になったことでしょう」
そう返答し、ところで変身のチートはどうなのかと聞くと、アキは流石にここだと変身したのが他の人に見られるのはまずいと言われ、夜に確認することにするのだった。
夜になり、俺がアキをメアリーの農園に案内し、アキが力を込めると、どんどんアキは毛深くなり、更に身長も伸びて2メートルくらいまで大きくなると、大熊へと変化した。
「これが獣化100%で、人化100%が」
シュルシュルと縮んでいき、元の大きさと同じくらいになり、耳も熊の丸い耳ではなく、人と同じ耳になり、ちょっと芋っぽい少女がそこに居た。
「ちょっとまってね……」
アキがそう言って顔を擦りだすと、顔が前世の実里の顔になる。
「顔を変えることもできるっぽいね。今できるのは前世の姿と獣人形態、ドワーフ形態、それらの比率をいじった状態だけど」
「良いなぁ前世の姿になれるの」
「まーね! 将来的には肉体改造みたいな事もできると良いけど! 目指せつらら超えの巨乳」
「あー! それズルい! 僕もそのチート選べば良かった!」
メアリーがそう叫ぶが、メアリーは今世でも残念ながら絶壁である。
まぁまだ6歳だから伸び代は十分あるが、なんか前世と同じ高身長絶壁になる未来が見えてしまう。
「メアリーとナツはここで修行していた感じ?」
「そうそう、あとメアリーに頼んで貴重な食事を分けてもらっている」
「ああ、ナツの家だとお腹いっぱいまで食べられないのか……」
「アキの家は食えるのか?」
「一応ね。まぁ塩味の野菜のスープと黒パンだけど……美味しくはないわね」
「ここを中継地点に森で野生動物狩って肉も食べる感じ」
「熊としての嗅覚を強化して動物を見つけることができるかな? この体になって探知の魔法もできなくなったし」
「あぁ、そういう系の魔法も使えないのか……だいぶ不便だな」
「まぁその分錬金術でカバーするし、他の皆を頼るから」
「了解了解。今夜はどうする? 肉でも食べるか?」
「じゃあ肉食べようかな……結構私食べるよ」
「じゃあ少し大きいの狙うか……鹿辺りでも狙おうか」
その日は鹿の親子を狩って、焼肉パーティーを開くのだった。
アキは熊の獣人だからか食い溜めと言って大食い選手並みに肉を食べていたが、塩くらいは欲しいなという話になるのだった。
翌日、シュネは昨日のショックで寝込んでいるらしく、俺達は昼間から森に入ってアキの錬金術を確認していた。
その前段階の準備として俺達の魔法を使って小屋を作らされていたが……。
メアリーが木を成長させて、俺がそれを木材に加工。
それをアキと一緒に3人で土魔法で接着させながら家の形にしていく。
魔法を使えば数時間で家も建てられる。
まぁ建築技術を学んでいるわけでもないので、掘っ立て小屋程度の代物であるが……。
「雨風しのげるだけヨシ!」
だいたい20畳ちょっとの広さで、10畳ほどには木の床を敷いて、一応そこで休めるようにしていた。
「さてと、次は錬金釜と火を扱う竈を作らないとね」
錬金釜……と言っても熱に耐えられる容器であれば良いので、土魔法で粘土を作り、それで大きな壺の形を作ると、壊れないように形状保護の魔法をかけてから、魔法で一気に焼き上げる。
俺が土鍋を作っている間にアキとメアリーは竈作りをしていて、こちらも粘土を焼き固めて煉瓦にし、それを土魔法で接着しながら竈の形にしていく。
超高温で焼いていったので2時間ほどで土鍋は焼き上がり、冷却の魔法で徐々に冷やしていっている。
形状保護の魔法をかけているので割れることは無いが、魔法の効力が無くなっても割れないように、今度は保護の魔法をかける必要がある。
ただこれでも普通に焼き物を作るより手っ取り早いので楽ではある。
ちゃっかり土鍋の他に小さな陶製の壺なんかも複数個作っているし。
完成した土鍋の中に水魔法で水を加え、アキがそこに指を入れて魔力水を作っていく。
水魔法で作った水は魔力水なんじゃないかと思うが、アキ曰く違うものであるらしく、ここらは錬金術の才能の無い俺達には分からない分野だな。
「さて、器、竈、そして魔力の籠もった水を用意したし……今回は塩を作りましょうか。昨日狩った鹿の食べられない部位をナツの異空間にしまっておいたのよね」
「ああ、保管しているぞ」
「それを出してくれる?」
「そのまま鍋に入れちゃって良いか?」
アキからお願いと言われ、俺は異空間のゲートを鍋の上に出現させると、言われた鹿の食べれない部位を鍋の中に入れていった。
異空間に仕舞った物は俺の頭の中に何がどれくらい入っているかすぐ分かるようになっていて、某四次◯ポケットの青狸の様にあれでもない、これでもないと探さなくて済む。
そのまま竈に俺が火を付けると、グツグツと鍋の中の物が煮込まれていき、どんどんドロドロに溶けていく。
魔力水が七色に光りだして数秒後……鹿の残骸だった物は白色の粉に変わっていた。
メアリーに作ってもらった木のお玉で中身を掬うとサラサラとした粉がお玉に山盛りになっていた。
「ナツ! 壺用意して」
「はいはい!」
壺の中に白い粉を入れていくと、1リットルくらい入る壺の半分くらい白い粉が溜まった。
舐めてみると塩だった。
「ちゃんと塩になってる」
「そりゃいらない部位を全て塩に錬成したからね。動物からだったら量によるけど塩は作れるから」
「これ血液から塩作っているのと同じってことか?」
「まぁそうね……」
「「……」」
俺とメアリーは黙ってしまうが、材料さえ気にしなければ塩が手に入るのも事実。
これで肉を食べる時に塩をかけて食べることができるようになるのだった。




