第26話 不運すぎるし貧乏過ぎるぞナーリッツ君
桜花桃奈の転生体であるメアリーと合流を済ませた2日後、治癒魔法をかけていたことで治ってはいたのだが、安静にしていなさいと両親に部屋で寝ているように言われて、暇な日常を送っていた。
まぁあいた時間は体に魔力を慣らす訓練を行って、膨大な魔力に身体が壊れないように魔力の流れを体に覚えさせていった。
そして神様から貰ったチートである空間魔法への適性……これもどうイメージすれば空間魔法を使えるかある程度頭に入っていたが、実際にやってみないことには始まらない。
俺は部屋の壁の前に立ち、空間魔法を発動させると壁の外へとワープをすることに成功した。
「よし! 俺が思った通りテレポートみたいな事もできそうだ」
俺は更に異空間へのゲートを生み出すと、顔を突っ込んで中の様子を伺う。
そこには四畳半くらいの広さの白い部屋がそこにあった。
「異空間への収納スペースもこれでよしっと……体が魔力に慣れてないからこの程度の広さの空間しかできないけれど、後々は家を丸ごと移動するみたいなことができるようになれば荷物運びとしての仕事も色々できそうだな」
そして一番できて欲しいと願った技を試してみる。
まず魔法で自分の分身を作り出し、それを操れるように魔力のパスを繋ぐ。
自分自身は異空間の収納スペースに移動してパスを繋いだ分身と五感を共有すると……本体は異空間に居るので攻撃されることが不可能なのに、こちらからは分身を使って攻撃することができるというインチキが可能になる。
「出来ちまったよ……」
試してみたらできてしまった。
ただ魔力を込められる量が少ないので、分身体は何かしらの魔法を1つか2つ使わせたら消滅するほど不安定な代物なのだけど……。
とりあえず練習がてら分身をベッドで寝かせて、俺は異空間に閉じこもり、筋トレをしたり、魔法の練習をして1日を終えるのであった。
ようやく外に出ることを許され、俺は改めてメアリーに連絡を行い、合流すると、恐らく実里とつららの転生体だろう人物に会いに行くことにした。
まずは実里から。
この村唯一の鍛冶屋の娘が実里の転生体だろうとメアリーが目星を付けてくれていた。
「アキー遊びに来たよ」
メアリーがそう言って鍛冶屋の中に入ると熊の耳や尻尾が生え、身長が1メートルちょっとしか無い少女が椅子の上で編み物をしていた。
「メアリーおはよ~……あ! ナツだ。大怪我したって聞いたけど大丈夫だった?」
彼女はアキーニャ・ベルベット。
鍛冶屋ベルベット家の長女である。(アキ、弟、妹の3人)
「アキが店番していたんだ」
「うん! お母さんに教わって手袋作っていたんだ……寒いのヤーだから」
作りかけの手袋を俺達に見せてくれた。
まだ5歳ってことを考えるとよくできているように思える。
「上手にできているじゃん」
「えへへ、メアリーに褒められた! ナツ、怪我は大丈夫なの?」
「ん、ああ、もう大丈夫」
「本当?」
アキが俺の頭を確認し、怪我をしていた場所(怪我した時に髪が抜けてハゲた)を見てペチペチ触っている。
「うん、大丈夫そうだね。良かった……シュネちゃんも心配していたよ……下僕が減るのは許せないって」
「下僕って……」
俺は念話でメアリーにシュネちゃんって誰だっけと記憶にあるものの一応確認する。
『シュネちゃんことシュネー・フォン・ケッセルリンク……竜人の没落貴族でこの村の地主をしている家の娘、恐らくつららちゃんの転生体の子だよ』
『なるほどな』
思い出してきた……ナーリッツ君が小作人なのをいいことに下僕と言って召使いの様にさせる高飛車なお嬢様じゃなかったか?
オドオドしていたつららとは性格が真反対だな。
『他の小作人の子にはやらないのにナツだけを下僕扱いするから不思議だったんだけど、なるほど、何かしらで前世の繋がりを感じ取っていたのかもしれないね』
メアリーがそう言う。
ナーリッツ君の記憶だと結構嫌な目に遭っているんだが……。
木の実が食べたいとシュネに言われて高い木を登らされたり、シュネがちょっかいかけた犬に何故か俺が身代わりになって追いかけられたり、川魚が食べたいと言われて、溺れかけたり……。
うん、ナーリッツ君、君は不運がよく似合うな……。
あと転生しても何処か前世と似ている顔立ちなんだよな皆……メアリーもアキも顔のパーツが似ている。
メアリーはそれでも俺が転生者であると通信が入るまで確証は持てなかったらしいけど。
少しの間アキと遊んだ後、俺とメアリーは人目を避けて、森の中に入り、またメアリーが木を成長させて腰掛けを作ってくれた。
木の実を齧りながら話をする。
「軽く森の中を探索した限り、野生動物くらいで魔物と呼ばれる生物のテリトリーは山に入らないと無さそうだよ」
「となると全員意識が覚醒したら、ある程度野生動物で魔法の練習をしてから、魔物と戦ってみる感じになるか?」
「そうなるね……まぁ現状の状態でも野生動物くらいなら遅れをとることはなさそうだよ。試しにうさぎでも狩ってみる?」
「そうしてみようか……あ、そう言えばメアリーの転生チートの読心術はどうなんだ?」
「ああ、バッチリ。相手が思っていることを読み取ることができるよ。まぁあんまり長時間オンにしているとふとした拍子に嫌なことを読み取ってしまうこともあるから基本オフにしているけど……ナツはチートどうなの?」
「とりあえず小さな異空間は作ることができた。ちょっと実験してみて良い?」
「ん? なにするの?」
俺は異空間に繋がるゲートを出現させる。
「メアリーにはこれが見える」
「渦巻いているゲートだね。見えるよ」
「あ、見えるんだ。じゃあ中に手を突っ込む事はできそう?」
「どれどれ……」
メアリーがゲートに手を突っ込んでみるが、ゲートを貫通してスカってしまっている。
「駄目だね。手が貫通してしまっているよ」
異空間に入れるのは俺だけか……1つ学べた。
「小作人だとろくに食事も取れないでしょ……ちょっと来て」
メアリーに連れて行かれると森の中に小さな畑が作られていた。
「僕が作った畑だよ。小麦や芋、大豆なんかを育てているから……ちょっと待っててね」
メアリーが地面に手を当てると、芽が生えていたら場所から蔓が伸びてあっという間に葉が生い茂った。
そのまま引っこ抜くとじゃがいもっぽい芋が出現した。
「蒸して食べよう」
メアリーが蔓を使って蒸釜を作り、俺が炎の魔法を使って温めて、蒸していき、あっという間に蒸かし芋になる。
手で掴むと
「あち!」
火傷しそうになったので、手に保護の魔法をかけて食べていく。
「ホクホクしていて美味しいな……美味しい? ナーリッツ君の舌って相当馬鹿舌か? もしかして」
「いや、私も感じたんだけど、調味料も塩くらいしかこの村には無いから美味しいと感じる下限が凄く低くなっているんだと思うよ。五感は肉体に引っ張られるっぽいし」
「なるほど……」
蒸かし芋を食べ終えると、ナーリッツ君の記憶の限り生まれて初めて満腹まで食べられた感じがした。
び、貧乏過ぎる……。
「さてと、じゃあお腹も膨れたからうさぎを狩ってみようか」
「そうだな。探知の魔法で良いか?」
「そうだね。探知の魔法で小さい反応だとこの辺はだいたいうさぎか野鳥になるから」
俺とメアリーはその後狩りを行うのだった。




