第20話 2ヶ月が経過してみて
魔法で料理が作れると便利だと思い始めた今日このごろ。
俺は鍋を使わないで米が炊けないか実験してみることにしたのである。
まず洗って浸けておいた米を用意し、空中に米を炊く量の水の塊を固定し、その中に米を入れていく。
そして炎の魔法を発動し、火の玉を水の塊の近くに設置して様子を見守る。
するとグツグツ沸騰してきたお湯の塊。
塊の中が泡でいっぱいになり、水蒸気が空気穴から外に飛び出していく。
煮立ったら、弱火にして様子を見て、徐々に更に火を弱めていく。
するとお湯を吸い取って米が膨らみ、ご飯の塊が空中に浮いているようになる。
その状態で数分間放置し、ふっくらしてきたら、空中の固定を解除し、風船を割る様に鍋代わりにしていた空気の膜を破裂させてボールの中にご飯を入れる。
しゃもじで混ぜてから少し味見をしてみると普通に美味しいご飯になっていた。
「魔力さえ気にしなければ魔法だけで調理も可能……ということか」
応用すれば色々な料理も魔法だけでできそうである。
ただ複数の魔法を並行して扱う必要があるのと、火の調整や水量調整が楽な代わりに、魔力を結構な勢いで消費するので、魔力富豪の様に魔力が有り余っている状態以外は、普通に竈で料理を作った方が無難だろう。
「鉄鍋くらいは異世界でもあるだろうから、それで調理はできるよな……」
それでも米を炊くは確かに魔法でやるのは勿体ないが、パンを作る時に小麦粉と水を混ぜ込んだりする際に魔法を使えばほぼ自動でやってくれるので便利ではある。
「あとは異世界だとライ麦パンが地域によっては主流らしいからな……」
ライ麦パン、別名黒パン。
少量の小麦粉……もしくは全てライ麦粉を使って作るパンの事で、菓子には向かないものの、小麦よりも生命力が強く、寒い地域でもよく育つのでロシアなんかでは主要な穀物に分類されているのがライ麦である。
一応台所にはライ麦粉があるので、レシピに沿ってライ麦パンを作ってみたが、小麦粉で作るよりもゴワゴワと硬い食感をしていて、少しばかり雑味が混ざる。
ただその雑味がサンドイッチにしたり、ジャムを塗ったりすると美味しさに繋がるので不思議である。
まぁライ麦パンを食べる地域だとジャムを使える身分では無い気がするが……。
これを米の代わりに毎日食べるとなると、日本人として米食に慣れているのでちょっと嫌な気もするが、異世界ではこっちが主食。
少しずつパン食に慣れていくしかない。
「いっそのこと麺にしてしまうか?」
ライ麦麺……こだわっているラーメン屋の一部で出されることがある麺であり、だいたい1対1の50%ライ麦を混ぜるという方法が取られている。
ほぼ小麦粉と同じ感覚で使うことができるので和洋中誰にでも合うのがライ麦麺の特徴である。
俺もライ麦を食べる必要が異世界ではあるかもしれないと知ってここの書庫で調べて初めて知ったが……。
まず小麦粉とライ麦粉を1対1で混ぜていく。
軽く混ざったらそこに水、塩、かんすいを入れて塊になるまでよく混ぜる。
魔法で混ぜた方が楽なので魔法で混ぜていく。
よく混ざって塊になったら形を整えて寝かせる。
今回は実里の錬金術で寝かせる時間をスキップしてもらい、生地となる。
今はパスタマシンがあるのでそれを使うが、麺棒で伸ばしていくのでも可。
魔法を使えば均等に伸ばせる気もするが、それは後々練習していこう。
伸ばした生地を折りたたんで麺になるようにカットしていき、再び少し寝かせたあと(寝かせる工程は錬金術で短縮)、お湯に入れて湯がいていく。
今回は事前に醤油ベースのスープを作っておいたので、それにほうれん草、味玉、メンマをトッピング。
湯がいた麺を器に入れて、スープを投入し、トッピングを載せてライ麦ラーメンの完成である。
見た目はライ麦を使っているので麺の色が焦げ茶色をしている。
皆で実食してみると……
「うん! 悪くない!」
「普通に美味しいです!」
「ツルッとした食感じゃないけど、中太麺にしたことでスープに絡んで合っている気がする」
桜花さん、つららちゃん、実里の3人が順に感想を言っていくが悪くは無い。
まぁ醤油も異世界に行ったら1から作らないといけないのでそう簡単に食べられないのがなぁ……。
ラーメン自体は好評だったのでまた作ることにするか。
少しずつだけど俺の料理の腕も上がってきたな……そりゃ毎日料理作っていたら嫌でも上がるか。
「なんだかんだでもう60日目か……だいぶ日数が経過したね」
「そうですね……すっかり布団の上でヤッても何も違和感感じなくなってきましたが」
「布団一回タンスにしまって、ふすまを閉じて開ければ綺麗になっているからねぇ……多少汚れても柔らかい布団の上でセックスした方が気持ちがいいし」
「それはそうですけど……」
60日目のこの日、俺は桜花さんと交わって、そのままピロートークをしていた。
実里とつららちゃんはこの時魔法の勉強をすると書庫で本を読んでいる。
60日間書庫の本を色々読んでいるが、分担してようやく5分の1読み終わった感じであり、全ての本を読むとなるともうしばらく掛かりそうである。
「あっという間だったね……60日」
「そうですね……早かったですね。凄く充実した60日でした」
実里は錬金術を駆使してだが、皆最低限の料理は覚えることもできたし、魔法の習得も順調。
やっぱりアニメや漫画とかで明確なイメージを持つことができているのが大きいかもしれない。
アニメの技の再現とかちょっとしてみて興奮したりもしたし……。
60日……高校生の俺にとっては長い時間であるが、大人になると時間感覚が短くなるとも聞く。
やっぱりこの日の当たらない空間だと時間感覚が徐々にズレていき感じもするが……実際のところどうなのだろうな。
……あれから画面の男とは会話をしてない。
質問することに関してだいたい書庫の本に書かれているし、画面の男も神と名乗っている存在だ。
こちらから声かけしなければアクションを起こしてこないのかもしれない。
彼曰く1週間以上この空間に滞在した者は居なかったと言っていたが、俺達は既に8倍以上の日数を過ごしている。
1人だけであったらここまで長期間この空間に居られた自信は無いが、桜花さんが纏め、俺、実里、つららちゃんがそれを支える体制が上手く機能しているお陰で、異例の長期滞在でもおかしくならずにいられるのだろう。
まぁ3大欲求をちゃんと解消しているのも大きいかもしれないが。
「阿部君は異世界に行ったら何をしたい?」
「皆を娶ることの出来る地位と金銭的な余裕を持つ……てのでは無いですよね。桜花さんが聞きたいのは」
「うん」
「そうですねぇ……なるからには一国一城の領主になってみたいですね。男って出世を目指すものですから」
「一国一城の主か……いいじゃないか。その為にはもっと念入りに準備をしていく必要があるけどね」
「頑張ります」
「いや、違うよ。僕達全員が力を合わせて頑張るんだ。君1人に背負わせたりはしないさ」
「……はい!」
こうして60日目も過ぎていくのだった。




