第2話 現状確認で1話潰れたんだが?
ブラウン管テレビの電源が切れ、俺は周りの3人を見渡す。
「とりあえず座ろうか」
一番年長者である桜花さんがこの場を纏めて、テレビが置かれているテーブルを囲んでいる人数分の椅子に座る。
俺は正直座るよりも着るものを探した方が良いと思ったが、着るよりも状況判断を優先した方が良いと桜花さんは判断したらしい。
実里とつららちゃんの2人は恥ずかしそうにしているが、とりあえず桜花さんの指示に従って椅子に座る。
「とりあえず椅子に座っていれば下は隠れるから胸だけ隠せば良いからね。私は絶壁だから胸らしい胸は無いから別に良いけどね! ははは!」
自嘲気味に笑う桜花さんに俺らはなんと言った方が良いか困惑してしまう。
「さてと、状況を整理していこう。私自身も困惑しているから、皆で話し合って、少しずつ理解していこう」
桜花さんがそう言い、俺に目線を向けてきたので、俺から状況を確認していく。
「まずこの不思議な状況を考えるに、拉致された……という考えは捨てた方が良いと思う。ほっぺたをつねってみたんだが痛みを感じない。触っている感覚はあるんだが、痛覚が遮断されるってことは麻酔が効いているのかもと思ったけど、普通に会話もできるし、身体も動かせる。あと俺的には電子レンジに弁当を入れた事は覚えているんだが、その先の記憶は抜け落ちている感じ」
「あとは……目の前のテレビに映っていた人の言っていることは何故か信用に値すると考えてしまいます。信用してしまう催眠術みたいなのが聞いているかも? 信用するんだったら死んでしまったというのが本当ということになるけど……」
パンパンと桜花さんが手を叩く。
「一旦死んでしまったかどうかは考えるのは止めよう。場の雰囲気が悪くなる。実里ちゃんは何か思いつくことはある?」
全員の目線が実里に向く。
「夏兄が言うように痛みを感じないっていうのもあるけど、体の悪いところも治っているんだよね……口内炎があったんだけど、それが綺麗さっぱり治っているんだよね……誘拐されて治療されるってことも考えづらいから……やっぱりテレビで言われていた男の言うことが一部正しいと思う。まぁ神様かどうかというのはまだ判断に戸惑うけど」
実里は横に座るつららちゃんに目線を向ける。
「あ、あの……とりあえず私と対面に座っているイケメンのお姉さんの名前を知らないので自己紹介をしておきます。冬木つららと言います。実里とは中高一緒の親友で、夏樹さんとは実里ちゃんのお兄さんというのと、私の姉のクラスメイトという関係です」
すると桜花さんが慌てて自己紹介をする。
「そうだね! 自己紹介がまだだったね! 僕は桜花桃奈。皆が居たコンビニ近くの大学に通う20歳だったよ。阿部君とはバイトの先輩後輩で、実里ちゃんはその妹兼名前を覚えている常連さんって感じかな。あと実里ちゃんと阿部君が血が繋がってない事も知っているかな」
「あ、それは私も知ってます。実里から義理の兄が渋くて同級生達が子供に見えて仕方がないってよく愚痴られてました」
「ちょ! ちょっとつらら!」
「実里……そんな事を思ってたんだ……」
「わぁぁ! 夏兄! そんな目で見ないで!」
どんな目だよとツッコミは置いておいて、お陰で少し場の空気は良くなった。
状況をもう少し整理していこう。
まず俺達が今居る部屋は正方形の白い壁紙をした部屋で、床はフローリングになっている。
東西南北の中央に木製の扉があり、扉の形は同じ。
テーブルの上には神を名乗る男が映っていたブラウン管テレビ、恐らく電気を消すための照明用のリモコンが置かれていた。
なんか謎解きが開始される部屋みたいである。
北側には扉の左右がふすまになっていて、開けてみると左側には敷き布団と掛け布団、枕が人数分の4組あった。
洗濯したてみたいにふわふわで外干しみたいないい匂いがする。
枕は程よい硬さで押し込むと少し沈む感じ。
とても寝心地が良さそうである。
右側のふすまを開けると大量のA4サイズのノートと新品の鉛筆と消しゴム、それに鉛筆削りや文房具類がしまわれていた。
とりあえずこの部屋にある物はそれだけっぽい。
部屋の確認を終えて椅子に座り直し、会話を再開する。
「寝具があるってことは生活をすることを前提としている感じか?」
「かもしれないね……転生云々言っていたけどそういうの詳しいの誰か居る? 僕そういうのあんまり詳しくないんだけど」
俺は多少ラノベは読んでいたが、こんな感じの神様転生と言われる物語は知らないし、実里やつららも多少嗜んでいたらしいけど異世界転生物はあんまり詳しくないらしい。
「一番詳しいのが相対的に俺になるのか?」
「そうね。夏兄が知っている中で神様転生のテンプレとかあるでしょ。そういうの無いの?」
「そうだなぁ……」
俺は実里に言われて知ってる限り話そうとすると、桜花さんにちょっと待ってと言われて、彼女はノートと鉛筆、消しゴムを用意した。
忘れないようにと状況をより整理するために書き記すらしい。
俺の知る限り神様転生のテンプレと言うと、神様の居る空間に呼び出されて、異世界に行くことを伝えられ、それから何かチートを授かって転生する……というのがテンプレであり、亜種として複数人で転生する場合には配られるチートが早いもの勝ちみたいな作品も多かったと説明した。
あとはチートは特に与えられずに現地人に転生するが、日本で生活していた知識を生かして成り上がっていく……という話もあると説明した。
「それって……学生が現代の知識で活躍できる文明レベルかもしれないってこと?」
「そうですね……異世界の種類にもよりますが、生活水準が中世ヨーロッパレベルの世界もあれば、魔法によって科学が発展してないだけで快適に生活できる異世界もあったり……普通の転生物と違うのは神様に出会うか出会わないか、チートや特殊な才能の有無と言う感じで別れていった筈です」
「なるほどね……落ち着いたら再びテレビの神様が喋ってくれるらしいから質問できることは纏めていこう。実里ちゃんやつららちゃんも気になったことは私が事前に纏めていくから言ってみて」
「じゃあ……元の世界に帰れないのか聞いてください。帰れるのであれば帰りたい気持ちが強いので」
つららちゃんがそう言う。
確かにいきなりこんな場所に飛ばされて、異世界に転生させると言われ、現実世界に戻ることができるのであれば戻りたいだろう。
恐らくそこについてはしっかり神様も説明してくださるだろう。
他に聞くとしたら異世界の生活水準や政治体制、魔法の有無、チートが与えられるかどうかなんかも聞いておいて損はないだろう。
あと転生した際の性別や容姿、種族も知っておく必要がある。
気がついたら魔族で人類から迫害されますなんてのは嫌だからな。
「ふーん、よし、とりあえず質問することは書き記したから、次はこの部屋にある他に繫がる扉を開いてみるかどうかだね。一旦神様に落ち着いた事を報告して質問するのもありだと思うけど」
桜花さんが皆にどちらが良いかの提案をする。
俺的には扉を開けた瞬間に異世界に繋がっていて、扉の場所で異世界の産まれる場所が決まる……なんて場合があるんじゃないかと言う不安があるので、扉を開けるのはテレビの男に聞いてからでいいんじゃないかと言う。
「実里ちゃんとつららちゃんは?」
桜花さんが2人に質問すると、実里は開けても大丈夫じゃないかというのと、質問の時間や回数が限られていた場合、他の部屋の事を聞いていたら足りなくなってしまうんじゃないかと不安を吐露した。
つららちゃんは俺の意見に近いらしく、テレビの男に質問してからの方がいいんじゃないかと提案する。
「恐らく実里ちゃんの言う時間に関しての制限は無いと思うな。まず私達が落ち着くまでテレビの神様は時間をくれているし、寝具が用意されているってことは長時間拘束されても大丈夫ってことだと思うんだよね。だから時間に関しては私達がお腹が空いて空腹になる心配以外はしなくていいんじゃないかな……というか実里ちゃんとつららちゃんはお腹空いてないの? コンビニでご飯食べようとしていたよね?」
その事について2人はハッとした表情をしてお腹をさする。
そして実里が
「お腹空いてない……確かにコンビニの時はお腹空いていたのに……」
つまりこの空間はお腹が空かない可能性があるということである。
やっぱり死んでる感じか……?
「こりゃ、お腹空かないかもしれなくなってきたな……はは、不思議空間極まれりってかな」
桜花さんが呆れた感じで笑ったのだった。




