第154話 まだ開拓は始まったばかり
夕方となり、今日の作業開始は終了。
物理的に引っ越した屋敷の横の資材置き場には木材や石材が山のように積み上がっている。
アキのゴーレム達が運んできた魔物の亡骸も山積みされており、錬金術師見習い達が血抜きだけはしてくれていたので、状態は良好。
あとまだ寒い時期なので素材が暑さで腐らないのもグッド。
集められた魔物の亡骸は俺が異空間に仕舞って、全部回収しておいた。
「さて、風呂風呂〜」
一通り作業が終わったので食事の前に風呂に入り、体を洗う。
洗浄の魔法で綺麗にはできるが、風呂に入ったほうが疲れも取れるからね。
「お、マンシュタインも風呂か?」
「あ、ナツもかい? 一緒に入ろうか」
「そうだな」
今日はマンシュタインと一緒に風呂にはいることにするのだった。
「ふぁ〜疲れた〜でも綺麗に整地された土地が広がるのは気持ちが良いな」
「そうだね。ただ今の整地しただけの土地だと農業はできないんだよね」
「確かに」
畑にするには整地した場所を耕して、適切な肥料を混ぜて土を作り、作物が育つ土壌を作らなければならない。
アキが栄養価の高い肥料を魔物の血肉から作ることはできるが、こればっかりは農業の専門家の人達の感覚や知識に頼ったほうが良い。
まぁ最初は焼畑農業が基本になるかもしれないけれどね。
肥料が不足している開拓序盤なんかは土壌を整えるための焼畑農業は普通にする……というよりその方が手っ取り早い。
雑草を焼くことで地中の余分な根っこや細菌なんかを熱で殺し、灰が肥料となって土壌がある程度整うのである。
勿論管理された土壌を100点とすると70点くらいの土壌ではあるが、0点の荒れ地を70点まで一気に引き上げられるのが焼畑のメリットである。
デメリットは栄養の持続性が無く、約3年から5年で土地が痩せてしまう欠点がある為、適時肥料を追加して土壌を良くしていく必要がある。
まぁ今はとにかく雑草は焼いて灰にし、土と混ぜて土壌を整える程度で良い。
耕す前にまず1000人の居住区画を作らないといけないのでね。
「1日約60ヘクタール整地できたけど、開拓民の募集要項ってどんなのだっけ?」
「えっと……思い出すから待ってて……」
マンシュタインが思い出してくれたが、開拓民の募集要項はこんな感じ。
まず通常開拓民と家族移住開拓民、冒険者開拓民の3種類があり、それぞれ
通常開拓民
・土地 約20アール(2反)
・中古物件もしくは小さめの家1軒及び倉庫1棟、鶏小屋1棟
・各種農具、生活用品一式
・ゴーレムホース1頭
・鶏4羽(後日配布)
・2年間の食料支援
・入植一時金 金貨2枚
家族移住開拓民
・土地 基本20アール+人数×10アール
・大きめの家1軒(中古物件の可能性あり)、倉庫2棟、鶏小屋1棟(大きめ)
・各種農具、生活用品一式
・ゴーレムホース1頭 作業用ゴーレム1体
・鶏4羽+人数分の雌(後日配布)
・2年間の食料支援
・入植一時金 金貨3枚
冒険者開拓民
・土地 基本20アール+ブロンズ以上の冒険者の場合希望者は追加
・新築の家1軒及び倉庫2棟
・各種農具、武器一式、生活用品一式
・ポーンゴーレム1体
・2年間の食料支援
・入植一時金 ブロンズ金貨3枚 シルバー金貨10枚 ゴールド金貨25枚
という感じになっていた。
あとは安さ重視で働かされている娼婦を数十人引き抜き、殆ど男性が多い開拓者達に癒しを与えてもらう予定である。
食料支援は期間中無料の大衆食堂をオープンする予定であり、その人員も確保している。
普通の開拓民だとこれほど支援は手厚く無いらしいので、辺境伯様に見せた時には施し過ぎでは?
と突っ込まれたりもしたが、場所が場所なので手厚く支援しないと人が集まらないと思い、手厚くしていた。
「1人当たり30アール計算で1000人だから300ヘクタール必要になるね。実際はもっとだろうけど」
「魔物が入ってこない緩衝地を考えると更に広い土地解放しないとか……2から3週間くらいかかるか?」
「普通の開拓だともっとかかるけどね。あとは川から水を引いてくるか、井戸を掘るか」
「井戸掘りか……アキに明日井戸掘りしてもらうか」
一応事前調査でここら辺は地下水脈が流れているし、今拠点となっている屋敷のある場所から今日解放した土地の中に、そこそこの大きさの川が流れているので、水資源には困らなそうである。
気候的には現在いる場所は冬の今で最低気温が氷点下いかない(5度くらい)かつ雪があまり降らないが、川の水量が冬でも多かったり、川近くの土壌が肥沃なのを考えると、夏場は洪水している可能性が高い。
そうなると夏には降水量が増える感じに推測できるため、温暖冬季少雨気候と呼ばれる気候をしているっぽい。
地球だと中国やアフリカ中南部、インド北部に多い気候で農業に適している気候と言える。
日本でも群馬の一部がこの気候に該当する。
この気候の特徴は主要作物はなんでもよく育ち、この世界の作物だと麦やトウモロコシ、綿花、茶葉が最適かもしれない。
注意するのは冬場の乾燥に弱い作物……キャベツ、白菜、大根、カブなんかは生育に適さない。
米があれば2期作が可能であった気候とも伝えておく。
「水さえ確保できれば農業に適した気候で安心した……」
「ナツ、そうだね。こっちとしても農業に適した土地で安心したよ……」
なおここから北西に進んで海が近くなると熱帯モンスーン気候の傾向が見られ、南西に進んでいくと西海岸性気候……ヨーロッパの様な気候へと変化する。
どちらも農業や家畜の飼育に適した気候であり、全体の開発が成功すれば広大な農地……帝国の食料庫になり得るポテンシャルを秘めていた。
米さえあれば本当完璧だったのに……。
「とりあえず俺は建材や魔物の素材を運んでハーゲンシュタットの町で魔物を解体してもらったり、建材を使って家や倉庫、鳥小屋を大工にどんどん建ててもらわないと……」
「ナツは当分ここと町を行き来になるね。こっちの全体指揮はラインハルトさんがしてくれるし、僕も補佐程度だけど現場指揮するからナツしか出来ない仕事を頼むよ」
「了解。現場を頼むなマンシュタイン」
俺がステラリアとハーゲンシュタットを往復しながら色々運んでいる間にもどんどん開拓及び整地が進んでいき、1週間で480ヘクタール、2週間で約1000ヘクタール開発に成功した。
ここら辺の魔物はまだ比較的弱い……それでも変異種のオークやブラッディベアーが群れで出てくるくらい魔境であるが……とりあえず都市1つがはいるくらいの面積の解放には成功した。
このまま外周部を中心に整地を続けていき、時期を見計らって深部の魔物の大討伐作戦をするつもりである。
「現状でも1日中アキのゴーレムが魔物を手当たり次第に狩っているけど、流石未開発地域……まだ探知範囲に魔物の反応がビンビン感じる」
少なくても直径25キロ圏内に魔物の反応が数万体いる。
これを狩り尽くすのは少々時間がかかりそうである。
「こりゃ数年では終わらねぇな……」
まだ開拓は始まったばかりである。




