第151話 領主になるために 2
「はいはい、順番に検査するから並んで〜」
「「「はーい」」」
教会にて孤児達に錬金術の才能があるかどうかのテストが行われていた。
監督はアキとフレンが行い、事前に用意した魔力水に塩を加え、それを加熱し、棒でかき回す。
それで才能がわかってしまうんだから凄いなと思う。
子供達と親しい……というか2年前まで教会で暮らしていたクリスは、俺の屋敷で働いている傍ら、教会にも度々顔を出し、ケッセルリンク家の宗教顧問的な役割も担ってくれていた。
今日は黒の修道服に身を包み、優しく子供達を手引きしている。
子供達もクリスと喋れて嬉しそうである。
「いやぁ、ケッセルリンク男爵様にクリスを預けて正解でした」
「こちらもクリスが居てくれて本当に助かっていますよ」
俺の方は初老の神父と話し合っていた。
2年前に俺達が初めてお布施や治癒師としての登録を対応してくれた神父であり、ハーゲンシュタットの教会ではそこそこ上の立場にいる方らしい。
クリスと引き合わせてくれた縁もあるので、教会になにかある時は彼に対応を依頼していたのである。
クリスからしたら治癒師の師匠でもあるらしい。
「しかし孤児を引き取ると聞いた時には驚きました。メイドや家臣として雇用する例はありますが、それでも才能ある一握りのみで、全員に試験を受けさせて、合格者は全員引き取るというのは聞いたことがありません」
「まぁ試験に落ちても、領土開発が始まれば、うちの家臣候補として他の子も雇いますがね」
「ありがたい限りです」
孤児の子達の出自の多くは、母親が娼婦や冒険者である場合が殆どであり、どちらも子育てをする時間、金銭両面での余裕が乏しい為、教会に預けられるというのが多かった。
教会側は孤児達を預かり、勉強や生きていくための知識を与え、それぞれの才能にあった仕事を斡旋する。
治癒師として活躍できそうなら教会で囲い込み、勉強ができるなら商会に、容姿が優れていれば娼館、要領が良ければ貴族に売り込み、残りの殆どが冒険者となる。
辺境伯側からも治安維持の為に教会側に結構な額のお布施という名の運営費を支払い、余裕のある貴族や商人達からもお布施を受け付けて、孤児達の養育費を賄っていた。
一種の社会的セーフティ……弱者救済の形である。
「孤児もそうですが、教会で働いている15歳以下の子も対象にしてくださりありがとうございます」
「こちらとしては対象が増えてありがたいが、教会側はよかったのか? シスターや修道士達も対象にしてしまって」
「……正直なところ教会側も出生の身分で出世が大きく変わりますので……」
教会の階級として修道士から始まり、門守(教会を守る兵士)、続師(聖書をミサとかで読む人)、祓魔師(現場で除霊を担当する人)、治癒師の4職が横並び、その上に侍祭がいるのであるが、孤児だと上から気に入られるか、よほど才能がなければ侍祭で止まってしまうらしい、成れてもこの2つ上の助祭までである。
副助祭、助祭、とあって、次に司祭となる。
村の神父として派遣されるのはこの司祭からである。
今俺が対応してもらっている神父も司祭である。
この上に複数の教会を管轄する司教がいて、ハーゲンシュタットみたいに大貴族の町……大領を有する貴族のいる町には大司教と呼ばれる人が勤めている。
大司教クラスになると子爵クラスの権力を有している。
帝都には大司教の更に上の枢機卿達が居て、枢機卿の中で選挙が行われて教皇が誕生する流れである。
枢機卿クラスに成れるのは実家が大商人だったり、貴族出身だったりが殆どで、極稀に実力だけで成り上がってくる人もいるらしいが、大抵権力闘争で負けて教皇には成れないらしい。
帝国よりも長い歴史を持つ宗教であるが、平民から教皇に成れた例は3例だけであり、ここ300年は平民出身の教皇は出ていないらしい。
貴族も色々あるが、宗教も権力闘争が激しそうだと感じてしまう。
「ケッセルリンク男爵家は立ち上げ間もない貴族なので、血統的な主義もないですし、紐が付いていない教会の孤児の方が何かと都合が良いのでね」
「そうですか……おや、始まったようですね」
アキが子供達に説明して検査が始まった。
30人同時にやって、確認していくらしいが、教会に預けられている8歳から15歳以下の子達は350人近くいるのでなかなか終わらなさそうである。
「ちなみにナーリッツ様、錬金術師の才能がある人はどれぐらいの割合なのでしょうか?」
「アキも今回ので統計取ると言っていましたので何とも……」
「そうですか」
アキとフレンが確認作業をしていくが、最初の30人のうち、才能ありと判断されたのは2人だった。
次々に検査が進められていき、結局352人中21人が錬金術の才能があることが判明したのであった。
「じゃあ才能が確認できた21名はうちが引き取ります。これが彼らを預かる分の献金になります」
「確かに……教会の運営費に充てさせてもらいます」
こうして錬金術師候補の男子13名、女子8名が引き取られるのであった。
「はい、身体強化の魔法をしながら腕立て伏せ20回5セットいくぞ!」
教会から預かった錬金術師候補の21名はまずは魔力を上げないと錬金術を扱うのが難しい為、魔力量を上げるトレーニングを開始した。
まだ魔法にも慣れてないので最初のうちは魔力を捕らえるトレーニングを行い、体の魔力の流れを理解したら、一番簡単とされる身体強化の魔法を練習していった。
現在アルフレッドとジャズ、マーシーの3人が将来増える孤児達の冒険者教育の為の練習として、預かった錬金術師候補生達に基礎を叩き込んでいた。
アキ的には候補生達に将来ゴーレムを作れるようになってもらいたいが、人の構造を覚えていたほうが人型のゴーレムは作りやすくなるという持論を持っている為、体の動かし方を学んで、それを錬金術に活かせれば良いと考えているらしい。
……ただ、15歳以下の子供達を引き取った為、うちの屋敷はどんどん15歳以下の比率が高くなってしまったた。
15歳未満の比率が80%である。
幸いなのは教会である程度の教育を受けていたため、静かにする時は静かにしする分別がついているのはありがたい。
まぁそれでも魔法の訓練は冒険者予備校に通っているわけじゃないから、遊びながら鍛錬できる方法になるべくしてくれとアルフレッド達に頼んでいるので、冒険者予備校みたいに戦闘訓練中心ではなく、魔法を使った的あてゲームだったり、アキのゴーレムを鬼役にし、身体強化しないと直ぐに捕まってしまう鬼ごっこみたいなのを中心で鍛えさせていた。
「子供は元気でええですねぇ」
「お前は遊ばないのか?」
「僕、治癒師兼祓魔師見習いだったんで基礎程度の魔法は覚えてるんですわ」
俺の横で子供達の様子を見守る修道服を着た青年……アキのテストで15歳の中で唯一適性があった人物であり、名前をユードリックと言う。
元々現場でバリバリに働いていた祓魔師見習いのエルフである彼は魔法使いとしての適性も元から高く、祓魔師見習いの中でも有望株であったらしい。
そんな彼が出世を蹴ってこっちに来たのは、俺の下にいた方が金になりそうだという金銭にがめついタイプの細目オカッパリ頭の野郎である。
「しっかしワイバーンの血を原材料にした魔力回復薬をあんなにガバガバと……1瓶で白金貨1枚はするでしょうに……それを惜しげもなく家臣の投資に使うとは豪快ですなぁ」
「まぁ俺達もこれで実力を伸ばしてきたし、スターやライラックみたいにドラゴンスレイヤーに成れた者もいるから、育成方針的には間違ってない……はず」
「いや、育成方針にケチつけるつもりではないですよ。僕も利益を享受している側なんでね……金持ちしか出来ないやり方ですなぁと思って」
「まぁ金も材料も調達できるからな。金稼ぎたいんだったらアキ……いや、フレンのゴーレムホース量産できるようになれば良いんじゃないか? そこまで難しい技術も無く、素材もアキのゴーレムに比べれば安価。それでいて馬以上の価格で売れるし」
「ええ、勉強させてもらいます。それにいろいろできるようになればこの家は出世できそうですからねぇ」
「ユードリックは教養あるし、重臣教育も受ければ? マンシュタインとアドミンが仲間求めてるから泣いて喜ぶと思うぞ」
「ええ、参加させてもらいます。知識は資産になるんでね」
糸目と醸し出すオーラがすっごい胡散臭いし、いかにも裏切りますよみたいな感じのキャラしているんだけど、才能溢れているんだよな……。
多分孤児じゃなくて平民出身だったらこういうのが教会でも成り上がっていくタイプなんだろうなと俺は思うのだった。




