第148話 砂糖と妊婦
「砂糖はやっぱり高いな……」
「いや、これくらいが普通じゃないですかね?」
ある日、俺とマンシュタインがクム商会に行ったら砂糖が大量に入荷していた。
色々手広くやっているが、クム商会の本業は貿易商……各地に行商人を送り出し、その地の特産品を町に持ってきて売るのと、いった先々に必要な物資を販売することで生計を立てている。
今日は寒い地域からビート……砂糖大根を原材料とした砂糖が入荷されて売られていたのである。
この世界にも赤道が存在し、俺達は赤道よりも南にいる為、北に行くほど暖かくなる。
南に行くほど寒くなるので、サトウキビが栽培できるほど暖かくないのである。
俺が領地として貰える予定の南西部の未開拓地は比較的暖かく、未開拓地の北部であれば赤道近くになるので東南アジアくらいの作物も育ちそうであると下見で確認できていた。
もしかしたら米の原種があるかもしれないので可能性に賭けていたりもする。
なので開発すれば未開拓地北部はサトウキビ栽培が可能で、南部は比較的寒い……と言ってもマックス北海道の札幌くらいの寒さであるので農業は可能である。
砂糖の話に戻るが、サトウキビに比べるとビート(砂糖大根)の砂糖精製率はサトウキビが茎から11%前後、ビートが根っこから16%前後となる。
サトウキビはそこから収穫期には2、3メートルまで成長し、茎部分は約1キロとなる。
なので取れる砂糖の量は1本あたり110グラムほど。
一方でビートも根っこの重さは約1キロほどで絞ると160グラムほどである。
作付面積の違いや地中に埋まっている手間等を考えるとどちらも一長一短で、サトウキビの方は降水量が多い地域でないと育ちが悪くなってしまう。
現代日本で沖縄でサトウキビが大々的に収穫されているのは本土よりも気温が高いのは勿論、降水量が多いのも関係している。
一方でビートの方は気温が重要になってきて、寒くないとあまり糖が蓄積しないのである。
日本で北海道で栽培されている理由は作付面積を広くしないと利益効率が輸入品に負けてしまうからというのもある。
採算度外視だったら東北地方でも栽培はできるが、そんな面積取るビート育てるより米作ってろって日本はなってしまうので……。
フォーグライン辺境伯領周辺は比較的寒いので、ビートが主流。
魔法があるとはいえ、農業は昔ながらの人力が主流なため、それなりに人件費と輸送コストがかかる。
それでもハーゲンシュタットの町は辺境伯家のお膝元ということもあり、他の南部地域より砂糖の値段は安めではあるが……。
「それでも1キロ銀貨1枚はなかなかの値段だな」
「これでも十分安いんだがな……」
農村は中世、町の下層が近世、普通の町民や貴族が近代や現代に近い生活をしているが、色々物価が日本とは違うなってなる時がある。
まぁ史実のヨーロッパみたいに香辛料がべらぼうに高いって事は無く、どちらかと言うと肉が高い。
これは町の人口に肉の供給量が追いついてないだけであるが……。
逆に小麦粉などは現代日本よりもやや安く感じる。
質は流石に日本の方が勝つが、普通の商人から買えば混ぜ物とかをしてかさ増ししていないので、そこら辺は良心的であるように思える。
あとは酒も安めである。
日本だと酒税で価格が釣り上げられているが、辺境伯領ではそれが全ての酒で1割なので、安い酒はとことん安い。
野菜も比較的安いが、乳製品は高め、あと生鮮食品類も高いという感じかね。
「でも今日の砂糖はいつもと比べると安いな」
「大銅貨9枚と銅貨2枚か……砂糖は料理に色々使うし、腐らないから結構な量買っておいた方が良いかな?」
「……ナツだったら空飛んで現地で購入したほうが安上がりなんじゃないか?」
マンシュタインが真っ当な事を言ってくるが、クム商会やハーゲンシュタットの町でなるべく買うようにしているのは、辺境伯様の依頼で納めているワイバーンの亡骸や、魔物の領域解放の過程で大量に狩る魔物の素材をこの町の冒険者ギルドで換金しているので、なるべく地域に還元したほうが良いと思ってのことである。
まぁ現地に買いに言っても結局は南部地域の経済活動には貢献してはいるが……。
(それだとゼファーさんに悪いからなぁ)
結局のところ、うちの政商になってもらっているクム商会への配慮が大きい。
「ゼファーさん、砂糖20キロ、現金一括で」
「おう! ナツが運ぶか?」
「ええ、その方が手間ないでしょ。ゼファーさんの方で困っていることはないですかね?」
「うーん、今のところないな。ナツの商売に色々噛ませてもらっているから商会全体も活気づいているからな」
「それならよかった」
砂糖と香辛料を購入し、異空間に仕舞ってからマンシュタインと共に店を後にするのだった。
ミクの懐妊から約2ヶ月。
クリスが定期検診をし、参考の為に家臣の女性陣や俺がクリスに妊婦の検診方法を教わっていたが、この日は俺とクリス、それにメアリーがミクの診察をしていたのだが……。
「多くない?」
「多いね」
「空間魔法で確認したんだけど……五つ子じゃないか?」
胎児の確認をした俺達はミクのお腹の中に宿る子供が5人いることがわかった。
「……アキの妊娠薬が強かったって事は無いか?」
「うーん……妊娠しやすくするだけで多受胎しやすくなるのは……ないんじゃないかな……僕も錬金術に関しては専門外だから分からないけど」
原因は不明。
ただ五つ子が授かったのは事実なので、俺は双子とか複数人子供を授かった場合母親への負担は大きくならないかの方が心配である。
クリスに聞いてみたところ
「私も双子までしか対応したことがないですが、治癒魔法を適切に使えば母親が死ぬ事はまずありません。ただ五つ子がちゃんと全員育つかまでは確実に大丈夫とは言うことができません」
まだ少女ながら、教会で幾度と治療に携わったクリスの言葉は重い。
「とりあえず私から言えることは、なるべく栄養価の高い食べ物を複数回に分けて食べてください。つわりが酷い期間は食べられる物だけでもいいので……あとアキさんに言って栄養剤とかも作ってください。食欲がない時はそれだけでも飲んでもらわないと」
ここらへんは日本と同じ感じだな。
母親であるミクが命を落とす確率が低いのが分かっただけでもよかった。
「私も気をかけますが、ミクさんには体操やストレッチをしてもらって軽い運動をしてもらったりもしますが、後期になると普通の妊婦よりお腹が出てくると思うので、安静にさせているしかないですね」
流石服のセンスがクソダサ以外は完璧少女である。
「すまんなクリス……本当知識がある人が家臣になってくれて助かったよ」
「こちらとしてもお抱え医者並みの給金いただけて助かります」
元々クリスは教会からの派遣みたいな立場だったが、予備校卒業してから少ししたくらいで教会側と話し合い、クリスを正式にケッセルリンク家所属に引き抜きすることが取り決められたのである。
教会側には俺が魔物の領域をどんどん解放して居住可能な地域が増えているので、新しく村を作る時に教会も建てられるので、神父達のポストを増やしているのに貢献していたし、辺境伯様から俺に未開拓地が与えられるのは広まっていたので、その土地での布教を許すことでそちらでもポストが増えるので喜んでいた。
あと追加でお布施したのも効いたっぽい。
お陰でクリスという腕の良い治癒師を永続雇用できたのでね。
ミクに関しては日本の妊婦の様によく食べ、軽く運動して、ストレスを溜め込まない生活をし、体調不良があれば直ぐにクリスを頼ることになるのだった。




