第137話 魔物の領域解放作戦 上
予備校を卒業し、そのままの流れでゴールドランクの冒険者になった俺達は約1週間は平穏な生活が続いたのだが、その期間が終わると、辺境伯様から早速依頼が舞い込んできた。
最初の依頼は前にミスリル鉱床を見つけた鉱山近くの魔物の領域の解放作戦への従軍である。
「というわけでナーリッツの坊主達が領域のヌシを倒す間に、他の奴らは魔物の間引きだ」
幸いデーニッツさんやお抱え魔法使いの人達と一緒に仕事ができるため、指揮を執る必要は無かった。
ただ拠点となる野営設備は事前に俺達と同じゲルみたいなテントが良いと言われたり、素材の解体を専門にやる人員が欲しいなど言われた結果、その他の負担は激増。
というか前に作っていたミサイル型の乗り物では乗れる人数が足りないと言われたので、更に大型化し、新幹線の先頭車両みたいなフォルムに改造。
お陰で75人まで運べるようになり、相変わらず運ぶ役の俺、メアリー、シュネを除き、お抱え魔法使いとデーニッツさんの21人、俺達のクランメンバーの残り17名、それに現地で解体してくれる職人15名、料理人4名、デーニッツさんが経験を積ませたいと言っている見習い魔法使い18人を乗せて、乗員限界ギリギリで空を飛ぶ。
これが墜落したら辺境伯家の魔法戦力が大幅に減るため、責任重大である。
まぁ移動は特にハプニングも無く、そのまま拠点作成となり、俺が事前に組み立てていた大型テントを周囲に並べ、魔物が万が一にも入らないように空堀を掘って、土魔法で土壁を作って要塞化する。
「ナーリッツ達が居れば何処にでも即席の要塞が出来上がるな」
「これである程度の魔物の襲撃は抑えられるんですかね?」
「ああ、入り口に夜警を2人配置しておけば大丈夫なくらいだからな。その夜警はうちの見習い達にやらせるから安心して休んでくれ」
見習い魔法使い達でも、戦闘能力はシルバーランクの冒険者に匹敵するため、オーククラスの魔物であれば余裕で倒すことができる。
それに緊急時は念話で襲撃を知らせられるし、探知魔法で広い範囲を索敵できるので、見習いとついてはいるが、普通の冒険者達より任せられる。
連れてこられた料理人のために料理小屋や窯を作ったり、食料庫に食料も入れていく。
78名の食事を任されているし、魔物退治の士気にも影響するので、彼らも責任重大である。
一方で、今はのんびりしているのが冒険者ギルドから派遣された解体職人達である。
まぁ本格的な解体は冒険者ギルドの解体小屋でやるが、腐りやすい部位の除去や鮮度を保つための加工は現地でやった方が良いと派遣されたのである。
職人達には冒険者ギルドから危険手当が出ると言われているのと、野営とは思えない美味い飯と酒も少量ながら出ると言われて希望者が殺到したらしいが、ギルド側が厳選した15名が選ばれ、今回参加してもらった。
あと後発で辺境伯軍の部隊も1週間後に到着し、街道敷設を行うため、それまでに魔物を狩り尽くさなければならない。
「アキ、ゴーレムはどれぐらい補充したんだ?」
「基礎型のゴーレムポーンが100体、ミスリル銀を使った改良型のゴーレムナイトが50体、ワイバーンの攻撃にも耐えられる高級タイプのゴーレムルークが10体だね」
「じゃあ各グループに3体から4体護衛に付けてくれ、あとは自律させて雑魚狩りしてもらう感じで」
「了解、設定しておくね」
俺、メアリー、シュネ、アキの4人は纏まって行動するようにデーニッツさんから言われていたので、そうそう負けることは無いだろう。
「ちなみにデーニッツさん、ここの魔物の領域のボスはどんな魔物なんですか?」
「ん、ああ。イフリートという魔物がボスのハズだ」
イフリート……予備校で習った魔物で、討伐に成功した例が少ない魔物である。
体が高温の煙で出来ていて、コアとなる魔石を煙から抜き取らないといけないが、剣やハンマーで叩こうと近づくと、肺が焼かれて呼吸困難になって死んでしまうという恐ろしき魔物である。
なので倒すなら遠距離攻撃かつ熱を下げる水や氷の魔法が良いのだが、生半可な攻撃だと、水蒸気となり、イフリートを更に大きくしてしまう為、高威力の魔法で倒すのが鉄板であるらしい。
「まぁナーリッツ達なら負けることはねーよ。地底神よりはるか格下だからな」
「なるほど……」
まぁ煙だから物理攻撃が効かない点と高温なので近づかないようにすれば良い魔物だ。
ちゃっちゃと終わらせよう。
「じゃあナーリッツ達がボスを倒しに行っている間に俺達は雑魚を倒しておく。見習いはお抱え達とグループ組んで動くように。あとアキーニャの嬢ちゃんが高性能のゴーレム作ってくれたから、狩った魔物はゴーレムが回収してくれる。安心して狩りまくれ!」
「「「おー!」」」
こうして魔物の領域の解放作戦が始まるのだった。
俺達4人は飛行魔法で上空から魔物の領域の森を探索していく。
「なかなかいねーな……見つけられたか?」
「いや……見つからない」
かれこれ30分近く探しているのだが、全然見つかる気配が無い。
「ボスなんだから大きな魔力反応を期待したんだが……ワイバーンとかに比べても小さくないか?」
「うーん、小粒の反応の中にいるのかな? ナツの空間魔法による探知じゃないと判別つかないかもよ」
「うへぇ……負担デカいな……」
ただこのまま探索してもらちが明かないので、探し方を変えることに。
「というわけでシュネ頼むわ」
「まさか熱源探知の魔法が生きてくるなんてね……」
温度の反応に敏感なシュネが使えるようになった熱源探知の魔法。
イメージ的にはサーモグラフィーの様に熱の温度を色で識別する魔法らしい。
シュネ的には料理の温度調整用で作った魔法だったのだが、まさかこんな感じで役立つとは思ってなかったらしい。
「うーん……ん? 北西……ここから15キロ地点で高温の霧が見える」
「……ああ、なるほど。空間魔法で探知できなかったのは、殆どが煙だから、見分けがつかなかったからか……盲点だったわ」
しかし、シュネが煙の範囲が異常に広いことを指摘する。
「範囲が広い?」
「予備校で習ったイフリートは1キロ離れればほぼ安全って教官から言われたけど、ここのイフリート……5キロ離れていてもサウナ並みに周囲が多湿高温状態なんだけど……」
「つまり?」
「ボスとして強いから範囲も広いか……群れで居るか」
「イフリートの群れは考えたくねーな……」
そんなん倒すのに凄まじく時間がかかりそうである。
「こりゃ全面的にシュネの出番だろうな……ギリギリまで近づいて、周囲一帯を凍らせるしか無いだろ」
「……やってみるよ」
というわけで、高温状態になっている場所の上空まで移動すると、確かに温度が上がっていて、蒸し暑い……いや体温を下げる魔法をしていないと火傷しそうである。
「シュネ頼む」
「了解! 一気に決める……『凍る世界』」
シュネの口に魔力が集まり、放出すると、地面に当たった瞬間に、周囲の木々は凍りつき、一瞬で極寒へと変貌した。
俺達は地面へと降りると、恐らくイフリートだろう人型の氷柱が幾つも出来ていて、俺の空間魔法でイフリートの魔石を氷柱から引っこ抜くと、抜かれた瞬間にイフリート達は粉々に砕けて死んでいくのだった。




