第127話 冬休みの予定 爺さんエルフの思い出の品
他の予備校の生徒達が狩り合宿に行く様になった2学期も終盤、俺達は普通に予備校に通い、ラインハルトとジェイシェット教官から引き続き授業を受けていた。
冬になると動物達は冬眠をし始めて狩りの効率が落ちるため、秋の終わり頃になると最後の稼ぎとして冒険者達も最後の稼ぎ時として頑張るらしい。
俺達みたいな魔法が使える冒険者かつ、ある程度実力があれば冬場限定の魔物を狩りに行くという手もある。
というわけで辺境伯様よりデーニッツさんと冬の期間にとある魔物を狩って欲しいという依頼が来ていた。
「ヨトゥンの討伐ですか?」
「ああ、南部でも更に南の寒い地域だとヨトゥンという全身から冷気を発する巨人の様な魔物が現れてな、そいつが周辺の村々から子供を攫っていくんだ。攫った子供は苗床にされてまたヨトゥンが生み出されると言われている」
東北のなまはげみたいな魔物だな。
いや、子供を苗床にしているから更にたちが悪いな。
「俺達に依頼したのはそれだけ強い魔物ってことだからですか?」
「いや、強さはブラッディベアーと大差無い。坊主達に依頼がいったのは年齢からだ」
ヨトゥン達は子供を攫うので、子供がいると集まってくる習性があるのだとか。
「どれぐらい居るか分からねぇけど根絶やしにする勢いで狩って欲しいとのことだ。ヨトゥンは食用には向かねぇけど、魔石の他に腹の中に手のひらサイズの紫色に光る氷の塊があるんだが、そいつが溶けないで冷気を発し続けるから、箱に入れて冷蔵庫に加工するんだ」
数個あると更に温度が下がり、冷凍庫にもできるため、氷を作ったり、魚などの鮮度を保つために活用されているらしい。
魔導具みたいに定期的に魔石の交換をしなくていいので、結構ヨトゥンの核は需要が高いらしい。
「まぁ売れるのもあるが、南部を統括するお館様は寄子の貴族から度々討伐要請を受けていたから、色々な貴族に顔を売るためにも坊主達を引っ張り出したんだろうな。あとは効率的に倒すのに坊主達が適任なのもあるが」
「ちなみに苗床って女性のイメージがあるんですけど、男性もなるんですか?」
「なる。俺も冒険者時代に苗床の現場を押さえ事があったが、男女関係なくヨトゥンの卵を体内に入れられて、子供の体温で温めるんだ……それに……卵を産み付けられた子供達は次第にヨトゥンのメスの個体に変化して、腹で育てたヨトゥンが羽化して産み落とす。複数の方法で増えていくから厄介なんだよ」
「うわ……」
とんでもない魔物だな。
ヤバい繁殖生態過ぎる……。
「万が一があったらまずいからな。他の奴らは誘えん。だから坊主達と俺で対処する」
「わかりました。冬までに準備を整えておきます」
「おう」
ということで冬休みにヨトゥン狩りの予定が入るのだった。
他の生徒達が狩り合宿に行っている時、放課後時間があったのでマンシュタインを誘って市場調査に出かけた。
「市場調査って何をするんだい?」
「いや、食料品とかの相場を知っておかないと、将来領地を持ったときに市場の値段の上がり下がりで景気が判断できるようになれないから」
「へぇ……ラインハルトさんから教わったのかい? 景気の読み方」
「まーな。マンシュタインはどうやって景気判断をしているんだ?」
「まぁ小麦相場や統計取っている部署の情報からかな」
こういうのは市場を直接見たほうが早い場合もある。
何事も経験あるのみ、早速市場を見てみることに……。
まだ日が落ちるのに時間があるためか、市場では結構な人々で賑わっていた。
「マンシュタインは市場に来ることは結構あるのか? 俺は町に来てからも数回しか来たことがないんだが」
「結構掘り出し物があったりするから休みの日に時間がある時は行くかな」
「……最近だとホワイトとデートに来ていたりするのか?」
「な、なんのことかな!?」
「皆知っているから安心しろ。マンシュタインとホワイトが恋仲なのは」
茶化しながら歩いていくと色々な食材が売られている場所に到着した。
商店に行けば大抵の物は買えるが、少し高い。
その分傷んでいなかったり、品質にこだわっているので、安く揃えられる市場か、多少高くても安心の商店か……色々値段の勉強をすることができる。
「あそこの露店で売られている小麦粉は安いけど混ぜ物が酷いな」
「得意の空間魔法か?」
「ああ、空間魔法を鍛えていたら、透視する技術を身に着けてね。エッチな使い道もあるけれど、有効活用するとしたら魔物を解体する時に内部を見ながら傷つけないように素材を採取したり、今回みたいな詐欺商品を見分けたりするのに使えるな」
俺が指摘した小麦粉はじゃがいもの粉だったり、燕麦粉が混ぜられたりしていた。
しかも袋を2層にすることで、袋を開けてみても上層は普通の小麦粉があるので、軽く見ただけでは分からない様になっている。
マンシュタインに構造を伝えると
「うわ……詐欺商品だな。信用が大切な商人がそんな事をしていいのか?」
「多分各地を移動する商人もどきなんだろうな。普通の小麦粉を買ってきて、混ぜ物をしてかさ増しし、他の人達に詐欺商品を売る。ある程度売れればトンズラだろうな」
「うへ……」
ただこの商人も良心が僅かにあるのか、食えない物は混ぜていないっぽい。
日本の歴史の授業で、産業革命時のイギリスにて食べられていた偽造食品を聞いたことがあったが、マジでヤバい。
小麦粉の混ぜ物として骨粉やチョークが混ぜられていたって聞いた時はゾッとした。
そんな事をしていたからイギリスはメシマズの印象が付くんだよとも思った。
あちこち移動しながら商品の値段を見たり、目利きをしていて、だいたい市場の商品の6割は普通の商品、1割が訳あり、1割が優良品、2割が詐欺商品といった感じか。
目利きさえできれば安く買えるなと思ったり、市場はだいたい銀貨1枚あれば1日色々買えて楽しめるかなって感じの値段の物が多かった。
銅貨や大銅貨で殆ど事足りるし、金貨を支払うと逆にお釣りで困られそう。
「色々見て回ったが、掘り出し物の店見つけたわ」
「本当か? 何処にあった?」
「こっちこっち」
俺はマンシュタインを連れて、その露店に向かうと、古そうな魔導具が売られていた。
「いらっしゃい」
店主はシワシワの老人エルフで、200年生きるエルフが老化する時は残りの寿命が10年もない時である。
なのでこの店主のエルフも余命幾ばくかという感じなのだろう。
「随分といい品が揃っているが、なんで皆買わないんだ?」
「そうですねぇ……価値がわからないのと、市場にしては値段が高いからでしょうかねぇ……」
手に取ってもと聞き、どうぞと言われたので、触ってみた腕時計の魔導具は年季が入っているが、今でも十分使える一品で見た感じ魔石の交換もしやすそうだし、壊れないように頑丈に作られている。
その割には軽い。
「これ爺さんミスリルが使われているんじゃないのか?」
「お客さんは目利きできるのですね。これは儂が150年前に旅先で買った一品で職人の名前は確か……グルドだったかな?」
「それってお爺さんグルド・タンクじゃないか?」
「ああ、そんな名前だったな」
マンシュタインが新しい名前を出してきた。
俺は知らないので誰か聞くと、100年以上前に亡くなった凄腕の魔導具職人らしい。
数々の新しい魔導具を発明し、莫大な財産を築いた人物で、弟子の育成にも熱心だったので、魔導具開発の歴史を100年縮めたとも言われる偉人らしい。
年代的にそんな偉人が若い頃に作った腕時計というのはどれだけの価値が付くかわからない。
「お爺さん、こんなすごい品を売っても本当に良いのか?」
「お客さん達みたいに価値がわかる人が使ってもらった方が品も喜びます。グルドの品はまだ幾つかありますがいかがですか?」
爺さんエルフは他にも自動剃刀の刃の磨きだったり、魔石を入れると黒、赤、青、緑のインクを生み出して書けるボールペンの様な魔導具、丸ボタン式の電卓の魔導具なんかもあった。
あとは骨董品の皿やコップが何点も。
「どれも本当に良い品だな……とりあえず魔導具と皿やコップは全部買って良いか?」
「随分と太っ腹なお客さんですね。貴族の方ですか?」
「まーね。マンシュタインは何を買う?」
「このペンダントを買おうかな。ホワイトに似合いそうだ」
「ではご購入でよろしいですか?」
「ああ、これだけの品だからもう少し値段高くていいぞ」
「いやいや、老い先短い身なのでこれだけ売れてくれれば、死ぬまでの資金には十分です」
俺は金貨35枚と銀貨7枚、マンシュタインも銀貨2枚を渡す。
「これで心置きなく旅立てます」
爺さんエルフはそう言ってニッコリと微笑むのだった。
また別の日に爺さんエルフが居ないかと思い、店主が売っていた場所に行くと、若いエルフが花束を持って佇んでいた。
話を聞くと、俺が品を買った数日後にひ孫である若いエルフにお金を渡した後に亡くなったらしい。
若いエルフは爺さんエルフのお金のお陰で妻との結婚式をすることができて、爺さんエルフが品を買ってくれた貴族に感謝していたことを伝えるために度々ここに来ていたらしい。
「そっか……爺さん亡くなったのか……」
「最後に僕らの結婚式を見せることができて本当に良かったです」
ちょっとほっこりするエピソードだった。




