第121話 レグレット・アドラー……ナツの兄です
ナツが数ヶ月ぶりに実家に帰ってきたと思ったら、男爵……貴族になったと言われ、翌日には何故か故郷を捨てることになり、ハーゲンシュタットっていう南部最大の町に移動していた。
乗り物に乗って空を飛んでいるのを窓から見ていたが……全く実感がわかなかった。
それと同時に、ナツは俺の物差しで測れる人物ではないということがわかってしまった。
ナツの兄として威張れたりもするんじゃないかとも考えたが、ナツは貴族であるが、俺は庶民のまま。
ナツに不利益が起これば粛清される可能性もあることにあまり頭の良くない俺でも気が付き、これからとにかく平穏に過ごせることを願うのだった。
町に到着し、町中を進んでいくと、見たことないほど人で溢れかえっていた。
俺達が住んでいた村に比べて、活気に溢れて世界が違うようにも思える。
進んでいくと、うちの領主様の数倍の大きさの屋敷がそびえ立っていて、メアリーが衛兵に声をかけると、中に案内され……この巨大な屋敷がナツ達の家だと言われて、改めてナツの居る世界が違うんだと感じてしまった。
広い風呂、腹いっぱい食べても許される豪華な食事、ふかふかのベッド……物語に出てくるような貴族の屋敷で俺はゆっくり休むことができて、夢のような生活を送ることができたが、うちの両親はこんな贅沢な生活が逆にストレスで体調を崩してしまった。
クリスさんというメイド兼治癒師のお陰で大事には至らなかったが、早く新しい生活環境を整えた方が良いとされ、町で暮らすこと2週間後に郊外に売りに出されていた農園をナツが購入することができたと報告があり、俺と両親やメアリーの両親達がその農園に移り住むこととなった。
案内された農園は牛の飼育もやっているような広い農園で、領主様が住んでいたような広い屋敷も一緒に付いてきた。
前に住んでいた人達は主人達が高齢になり、農園の維持が難しくなった為、ベテランの農夫を残して経営権を売ったのだとか。
ベテラン農夫を残してくれたお陰で、俺達がやるべきことを指示してくれるため、経営権はナツが握って、農夫達にも給料を支払ってくれているため、俺達は農園の利益を丸ごと貰えることになった。
お陰で最初の数ヶ月は前に貰っていた大量の金貨を使いながら必要な物を揃えたりし、ベテラン農夫の言うことを聞きながら畑や家畜の世話を続けると、翌年の春から普通に利益が出るようになった。
しかも年貢を支払う必要が無く、全て町で売ることができるので、村での生活に比べて凄く豊かになることができた。
安定して白パンが食べられるし、ステーキを毎日食べられる夢のような生活が続き、俺も馬鹿ながら農夫達に色々教わって農園の経営の勉強を続けた。
そんな生活が続いていると、ナツが別の土地で領主になることが決まり、町から引っ越すというのだ。
両親はついて行った方が良いか悩んでいたが、俺は申し訳ないが、身分差が付いているため、両親が付いて行ったところで役に立たないと思ったし、ナツからも農園で俺ことレグを見守っていてほしいと言われたらしく、留まることに。
メアリーのとこ……クリスティ一家も農園に残ることになり、ナツ達が町から居なくなっても同じような生活が続いた。
鍛冶屋だったアキの家……ベルベット家の方は、弟が町の鍛冶屋に弟子入りして技術を学ぶ傍ら、妹の方は姉のアキと同じく魔法使いの才能があったため、家臣達にしごかれて、冒険者予備校に姉と同じく特待生で合格したのだとか。
卒業後はアキの居るケッセルリンク家の領地で冒険者をやると俺の所に遊びに来た時に語っていた。
地主のおっさんと息子のアドミンはそのままナツの領地経営に一族として参加。
結局残ったのは俺達だけであった。
それから10年。
俺は前の村から付き合いのあるクムさんの親戚で穀物商をしている商会の娘さんと知り合い、そのまま結婚。
嫁が才女だったから、俺の経営にダメ出しが色々入り、結果殆ど嫁に権限を奪われてしまったが、収益がどんどん上がり、ベテラン農夫達や親父達が引退した穴を冒険者をリタイアした若者達を雇って農園の規模を更に拡大していった。
既に子供も2人生まれて、なんだかんだ人より良い生活ができている気がする。
風の噂で、俺の居た村は反乱が起こって、領主一家は亡くなったとか。
愚連隊でパシリをしていた日々を思い返すと……随分と人生が逆転できたものだ。
「貴方、子供は沢山居たほうがいいですからね! 農園を基盤に子供達から商人を育ててアドラー家を盛り立てていきますからね! 最低でもあと3人は産むわよ!」
「俺はナツみたいに性豪じゃないから勘弁してくれ」
「同じ兄弟なんでしょ! ナーリッツ様は奥さんが何人もいるのに全員孕ませまくっていて……私たちも負けてられないわよ!」
「ひぇぇ……」
毎晩俺は嫁に捕食されて、干からびそうになるのだった。
あと歳を重ねてからようやく、ナツに幼少期悪いことしたなって両親に会いに来た時に謝った。
そしたらもう気にしてないから、親父や母さんを頼んだと言われ、ようやくナツと和解できたように思うのだった。




