第120話 ゲンシュタイン騎士への処罰
〜バイパー視点〜
「……ゲンシュタイン騎士は度し難い馬鹿者であるな」
私から父上にナーリッツ達とゲンシュタイン騎士爵の騒動について伝えると、静かに呟いた。
これは早急にゲンシュタイン騎士に処罰しなければ辺境伯家の面子も潰れてしまう案件である。
幸いなのは、かの領地が僻地過ぎて情報が外部に漏れない点だろうか。
私からはナーリッツ達より領民の為に経済封鎖はしないでくれと懇願されているので、その手段は取れないが、舐めた態度を取ったゲンシュタイン騎士は息子共々死んでもらわないといけない。
「正直、領主に同調した領民も私からすれば同罪だ。ケッセルリンク男爵達には悪いが、相応の血は流れてもらう」
「暗殺者でも送り込みますか?」
私の提案に父上はそれだけでは足りないと口にする。
「定期便の冒険者をこちらの暗部と繋がりがある者にする。扇動し、ゲンシュタイン騎士領で反乱を起こさせ、混乱に乗じて騎士達一家を抹殺する」
「そしてケッセルリンク男爵達が逃げてきた事は秘匿する。その家族においても他所に住まわせる際には数年は監視の目を光らせておくように」
父上はそう私達に命令すると、紅茶を飲んで怒りを抑える。
「父上、空いたゲンシュタイン騎士領はいかがいたしますか? 周囲を魔物の領域やワイバーンの生息域に面しているとはいえ、数百人が養える農地を放棄するのは惜しいのでは?」
フレデリックが聞くが、そんな場所の安全を担保できるのはケッセルリンク男爵達しか居らず、山に囲まれていて、水源にも乏しく、拡張性が無いような場所を飛び地として与えても困るだけであろうと一喝。
反乱の確認が取れ次第、補助金で誤魔化していたゲンシュタイン騎士領への行商人への補助金は打ち切りることにする。
ケッセルリンク男爵達には悪いが、統治者が居なくなった場所を援助するほどお人好しでは無いからな。
「もう少しかの騎士伯の領地が近かったら、私自ら討伐軍を編成したものを」
「しかし命令すればケッセルリンク男爵達が斬り捨てて良かったのでは?」
「それでも良いが、今回の案件はケッセルリンク男爵と辺境伯家が馬鹿にされた事になり、ケッセルリンク男爵だけの問題ではなくなっているからな。それにゲンシュタイン騎士も一応私の寄子である」
通常の場合、寄子同士の揉め事に寄親は仲裁するに留めたり、裁判官的な役回りになることが多いのであるが、今回は寄親である辺境伯家も馬鹿にされたので、寄子であるケッセルリンク男爵家を飛び越えて、辺境伯家が対応しなければならない。
よって辺境伯家がゲンシュタイン騎士伯達を処罰するのである。
しかも呼び出して弁明の場を与えることなく、領民に殺させることで統治者失格の烙印を死後も背負うことになるため、貴族としては最悪に近い死に方である。
「ケッセルリンク男爵達の対応は正解だったのでしょうか?」
フレデリックが一応確認を取ると、父上は限りなく正解に近い対応をしたと判断していた。
「これでケッセルリンク男爵がゲンシュタイン騎士達を殺害していた場合、辺境伯家としては仲裁しなければならなかったが、状況をこちらに正確に伝えた時点で貴族としては正しい判断だ。しかもゲンシュタイン騎士は距離的に弁明の使者を送ることができないであろうからな」
もし送られてきたとしてもゲンシュタイン騎士領は辺境伯家にとって赤字を垂れ流すだけの存在なので潰れても問題は無い。
辺境伯家の外面を気にして支援を続けていただけなので、こちらが切り捨てると判断すればどうしようもないだろう。
それに、かの領地飢餓が起こりそうであるとナーリッツ達から聞いていたし、ゲンシュタイン騎士がナーリッツが残した食料を領民に分配していたらこちらの反乱の扇動が不発に終わる可能性があるが、そうなれば潜り込ませた冒険者兼暗殺者に殺害してもらうだけである。
まぁナーリッツに聞いた話によるとゲンシュタイン騎士は欲深いらしいから、食料を領民に配らない可能性すらあるけどな。
数カ月後、ゲンシュタイン騎士領に送り込んだ冒険者の報告によると、ゲンシュタイン騎士一家は領民達の反乱で惨殺され、亡骸の確認も取れたとのこと。
領民の多くも亡くなったが、それによって食料に余剰が出来て飢えを堪えることが出来そうであるとも言われた。
一応ナーリッツだけにはゲンシュタイン騎士領での反乱と領主達が死亡した事を伝え、領主不在となったゲンシュタイン騎士領には交易を続ける予定は無いと伝えると、ナーリッツは
「どうか生き残った領民達には罰は与えないでください」
そう懇願され、ケッセルリンク男爵家から辺境伯家が打ち切る補助金を補填すると言われてしまった。
流石にそれをされると辺境伯家の面子に関わる為、辞めさせ、生き残った領民達にそれとなくケッセルリンク男爵家を頼るようにさせて、新しい領地の開発に従事させるまでは補助金を出し続けることに決まった。
「ナーリッツはあれだ、もう少し貴族として優しさだけでなく厳しさも必要になるのだよ」
「わかっていますが……領民達は家が苦しい時に助けてくれた人も居たので、全員を罰することは出来ませんから」
ゲンシュタイン騎士への処罰はこうして終わりを告げるのだった。




