第12話 ペットボトル1本にも満たない水を生み出す
「全体的に聞きたいことは聞けたんじゃないかな」
画面が切れてから桜花さんが締めの言葉を発した。
今回の質問で異世界についての解像度が大きく上がった気がする。
それに転生時に選べる項目が明確になったのも良い。
種族とチートが選べるだけでも良かったが、転生後の性別や赤ん坊時代をスキップできる意識の覚醒なんかも選べる親切設計……神様転生って呼ばれる作品の中でもだいぶ情のある感じになっているな。
「じゃあ桃奈さん、私達夏兄連れて魔法の練習するから!」
「はーい、じゃあ私も調べ物したら合流するからね」
俺達はそれぞれ別れるのだった。
「で、まずは汗をかく魔法を覚えるためには何をすれば良いんだ?」
「とにかく走る! 走ったら熱く感じるから、それで皮脂腺から汗が滲み出てくるのをイメージすれば汗が出てくると思うよ!」
実里に言われたので、とりあえず走ってみる。
「全力の方がいいよな?」
「うん! 全力ダッシュ」
体育館の端に向かって走っていき、折り返して少しすると体が熱くなってきた。
前回は走るのを止めてクールダウンしたが、熱をこもらせたまま移動して、汗を全身から出すようにイメージする。
すると額や手足から汗が滲み出てきた。
「おお、本当にイメージ通りにできた」
この時、魔法を発動できたおかげか、全身に血液とは別の物質の流れみたいなのを感じることができた。
恐らく魔力と呼ばれる物であろう。
「ふーん……これが魔力か」
俺は試しに、手汗をかく要領で手で器を作って水が湧き出るイメージで体に流れている魔力を変換してみると、手のひらから水がゴポゴポと音を立てて湧き出て一瞬で小さな水たまりができてしまった。
「夏兄、もうコツ掴んだの!?」
「早いです! 私達数時間かかったのに……」
「たはぁ……数百ミリリットルの水を出したら魔力切れ……こりゃ長期スパンで鍛えねーと行けねぇな。ちょっとびしょびしょになったから魔力がちゃんと切れているかの確認と汗を流してくるわ」
「わかった! でもその前に水を湧き出させるコツみたいなのを教えてよ」
実里からの質問に俺は
「手汗だけをイメージするんじゃなくて、体に流れている魔力を感じ取ってそれを物質に変換するイメージと今回は手から水が湧き出るみたいなイメージをしたらできたぞ。多分無意識にやるんだったら汗をかくみたいな生理現象くらいしかむりかもしれないけど、先にイメージを固めて設計図を描く」
「その設計図に魔力を後追いで流し込むとイメージ通りに魔法が扱えるぞ」
「な、なるほど……」
「夏兄が頭いいこと言ってる……そんなキャラじゃないのに」
「実里! どういうことだ!」
そんなキャラじゃないって……俺は別に勉強できないタイプではないんだけどなぁ。
まぁ確かに実里の方が要領とか良いタイプであったが……。
「とりあえず俺風呂場行って、体洗ったら少し仮眠するからよろしく」
「「はーい」」
脱衣所の魔力測定装置で魔力を確認すると
【現在の魔力量 0】
【最大魔力量 5】
【精神摩耗度 1%】
ちゃんと空になっていることを確認した。
魔法で出せた水の量は500ミリリットルのペットボトル1本にも満たない量だった。
「これを攻撃に転じさせたり、実用的な用途で使うとなると……魔力量は最低でも数百ないとダメそうだな」
精神体として直ぐに寝れる利点や時間感覚が殆ど無い今だから最高効率で魔力を伸ばすことが出来るが、肉体がある状態だったら1日魔力上限を1上げるとしても1年で365しか上がらない……地球換算で計算してしまったが、異世界だから1年間の長さも違うかもしれないな。
とりあえず精神摩耗度が上がりすぎない範囲で魔法を使う、寝るを繰り返してみることにするか……。
シャワーを浴びて布団で横になり直ぐに爆睡し、起きると実里とつららちゃんも布団を敷いて眠っていた。
起き上がった俺は書庫で調べ物をしている桜花さんに声をかけた。
「桜花さんお疲れさまです」
「阿部君お疲れさま。どう? 魔法は覚えられた?」
「はい、少しばかりは……ところで魔力が空になったので、眠って回復したんですが、何時間くらい眠っていたか分かりますか?」
「うーん体感時間だと皆と分かれてから3時間程度かな」
「となると魔力の回復には2時間半程度の時間があれば良いってことになりそうか?」
「うーん、精神体であることも考えた方が良いかもね。異世界に転生したら肉体があるわけじゃない。だからレム睡眠、ノンレム睡眠みたいに浅い眠りと深い眠りがあるから、魔力は深い眠りしか回復効果が無いかもしれないよ。精神体だと強制深い眠り状態だけど、肉体のある人間が8時間眠った時に深い眠りになっている時間は75%から80%……5時間強が深い眠りとなるね」
「そう考えるとその約半分で魔力が全回復すると考えた方が良いかもね」
「なるほど……」
あくまで仮説だけどと桜花さんが言うが、そうやって色々直ぐに仮説を立てられるのが凄い。
「桜花さん、過去にもこんな事あったりしましたか?」
「なに? 転生みたいな事がってこと? あるわけないじゃん。ボケてるの阿部君?」
「いえ、桜花さんの仮説をバンバン考えつくのを見て、過去にもこんな経験があったのかなって思いまして……」
「いやいや、ゲームとかで隅々まで攻略したがるタイプだからそういうので鍛えられたのかもしれないね」
「桜花さんゲームやるんですね」
「そりゃやるさ。ただFPS系のゲームを付き合いでやることが多かったけどね」
「そうなんですね……」
「まぁ阿部君の知識が現状役立っているから頼りにしているからね」
「は、はい!」
桜花さんも一旦魔法のトレーニングをしてみたいと本を片付けて、体育館みたいな部屋に移動して、俺が実里やつららちゃんから習った様にまずは汗をかく魔法を覚えてもらう。
次に魔力の流れを感じることができたら手から水を出すことに挑戦してもらうと、桜花さんも普通に成功した。
「ふむ、水を出してしまうとびしょびしょになるのが欠点だね。修行場を風呂場にした方が良いかもしれないねぇ」
「まぁ……そうですね。あ、桜花さん、もし良ければできるんじゃないかな〜って思っている魔法があるんで見ていきませんか?」
「おや? 何をするんだい?」
俺は軽く浮き上がる風船をイメージする。
精神体であるのであれば、重さも殆ど無いだろうと思い、浮かぶことができないか試してみる。
するとふわりと体が浮き上がった。
「おお! 浮いた!」
「……浮いたは良いんですけど制御ができないですね……」
俺は天井まで飛んでいくと、天井を蹴って地面に戻っていき、あと3メートルくらいの場所で魔力が切れて落っこちた。
「痛……くないな。うん」
「なるほど、痛みを感じない今だからこそ習得しておいたほうが良い魔法だね。肉体を持ったら怪我をしてしまうからね」
「一応成功……なのか?」
「あとは手足から風を吹き出す様な事をイメージできるといいんじゃないかな? 手足から炎を吹き出して空を飛ぶヒーローみたいなのいなかったっけ?」
「名前は出てきませんが、確かに居ましたね……たは……今のでまた魔力空っぽだ」
「滞空時間は3分ってところだね」
「やっぱり魔力の総量を上げるしか無いですよ」
「だろうね……とりあえず当分この空間に居ても良いらしいから覚えられるだけ魔法を覚えていくことにしようか」
「はい!」
その後俺と桜花さんは風呂場でシャワーを浴び、さっきまで寝ていた実里とつららちゃんが起きてきたので、俺達は再び眠るからと一声かけてから眠るのだった。




