第119話 帰省騒動 終幕
俺達が貴族になったことを一切信用しなかったゲンシュタイン騎士によって攻撃されてしまい、逃げる事になった俺達は今回のすれ違いを残念に思うのと同時に、飢餓になることがほぼ確定してしまった村人達のことも残念に思ってしまう。
「……どうにもならないこともあるか」
幾ら魔法が使えても、幾ら俺達が強くても、自ら助ける手を払い除けてしまった人達は助けることができない。
……それでも。
「メアリー、シュネ、俺一旦村に戻る。食料だけでも置いてくる」
「……分かった。気をつけて」
「気をつけてね」
「うん」
領主がどうしょうもない奴らでも見知った村人達を見捨てる事はどうしても俺にはできなかった。
村に戻った俺は村人達から囲まれた。
領主を攻撃したことが広まったのだろう。
「ナツ! 何故戻ってきた!」
「領主に逆らったお前さんを俺達は攻撃しなくちゃならねぇんだ!」
村人達は俺達が逃げた事に逆にホッとしていたらしい。
これで殺し合いにはならないと。
しかし俺が戻ってきたことで、捕縛に動かなければならず、殺伐とした雰囲気が漂っていた。
「ゲンシュタイン騎士の狼藉、同じ貴族として恥ずかしいかぎりである!」
「まだそれを言うか!」
従者の爺さんが俺を怒鳴りつけるが無視し
「しかし、餓えに苦しむ元同村の皆を見殺しにはしたくはない!」
俺は異空間から肉の詰まった樽や壺を広場に置いていく。
「これで今年の餓えを凌いでくれ」
俺はそう言い残すと、再び飛行魔法で上空に飛び立ち、村を後にするのだった。
〜村人視点〜
「ナツの奴……本当に魔法が使えたんだ」
森に度々入っていることは村人達も知っていたが、あえてツッコミを入れる者は居らず、彼らが冒険者になると村を出た時には、まだ幼い彼らも外に出るのかと寂しさがあったものだ。
そして帰ってきたと思ったら、領主に暴言を吐いたとして地主様は斬られるし、逆に領主様とご子息のザトラー様はナツの魔法で返り討ちにあったと聞いていた。
領主様達の意識が戻ると、関係者の各家に乗り込む事になったが、既にもぬけの殻になっていた。
領主様は怒り心頭で、見せしめでナツの実家であるアドラー家の家財を運び出した後に火をつけたが、ここで地主のケッセルリンク家を燃やさない当たり、みみっちいというか、小物というか、貧乏性というか……。
そうこうしているとナツが戻ってきて樽を大量に置いて立ち去っていった。
樽の中を確認すると、大量の塩漬け肉や蜂蜜が入っていた。
村人達は瞬時に察した。
これ……ナツが言っていた事のほうが正しかったのではないかと……。
しかし、領主は何が入っているかわからんとナツが残してくれた肉や蜂蜜の入った樽を自分の屋敷に仕舞うように指示してきた。
どれだけ強欲なのかと村人達はその時呆れるのであった。
しかし数カ月もすると……そうも言っていられなくなり、凶作で冬を大勢が越せない事が確定したのである。
領主様にナツが持ってきた肉の樽を少しでも良いから分け与えてくだされと村人達は願い出るが、領主一家……いや、その取り巻き達も肉や蜂蜜を譲ろうとしない。
餓えて死ぬくらいならと村人達が結託、反乱が発生し、領主一家を殺害。
村人も大勢死ぬことになったが、奇しくもそれにより食料事情が僅かながらにマシになり、生き残った者は冬を越えることができた。
しかし、領主を失い、地主だったケッセルリンク家も居なくなり、生き残った村人は最盛期が200人近く居たのに、100人を切っている。
村の維持をしていくだけでも大変で、結局数年と村を維持できなくなり、村を捨てることになるのだった。
家財を荷車に詰め込んで、行商人のクムさんについて行き町を目指す。
俺達は今後どうなっていくのか全く分からなかった。
後々の事であるが、ゲンシュタイン騎士領の反乱は辺境伯領でも少し話題となった。
まず英雄として見られていたケッセルリンク男爵の地元であり、その村が飢饉に陥りそうだからとケッセルリンク男爵が大量の食料を提供したと辺境伯様に報告が入り、それを邪魔したゲンシュタイン騎士の評価はどん底まで落ちていた。
そしてその領地が反乱で離散してしまった話を生き残って町に着いた村人達から聞いた歌い手達が面白可笑しく脚色し、歌にしたのである。
『英雄の助けを払った愚か者の末路』
という題材で……。
町に到着した村人達を助けたのもケッセルリンク男爵であり、彼らを支援し、自身が統治することになっていた土地にその者達を引き連れて新しい領民として迎え入れたのである。
それから彼らが幸せに暮らすことができたのか、どうかはまだ先の話である。
〜ナツ視点〜
途中でメアリー達に追いついた俺は、荷台を支えながら飛んでいき、町近郊へと到着した。
「ここが……ハーゲンシュタット」
「凄い栄えているな……」
降り立った場所からでも見える大都市に皆驚いていた。
「色々不安はあるかもしれないけれど、俺達が支援するから安心してほしい。メアリー、アキ、シュネ……皆を屋敷に連れて行ってくれ」
「了解だよ。ナツは?」
「辺境伯様に報告しなきゃならんでしょ」
「確かにね……」
一番面倒くさい報告は俺がやるとして、家族達の事をシュネ達に任せた。
そのまま俺は辺境伯様に会いに行くと、辺境伯様は諸用で外出しているため、バイパー様が対応してくれることになった。
「失礼します」
「やぁナーリッツ、この前ぶりだね……地元に戻ってどうだったかな?」
「滅茶苦茶揉めた結果武力衝突の末に逃げてきました」
「本当かい!?」
「ええ……」
バイパー様がソファーに座るように勧められ、ソファーに腰を掛けると、バイパー様も対面に座り、地竜の血で作られた治癒のポーションを飲んでいく。
「ふぅ……まだ薬に頼らないと危ないからね」
「完治はまだかかりそうですか?」
「ああ、痩せてしまった体も肉を付けていかないと」
「ワイバーンの肉でも食べます? 今回も道中ワイバーンを1頭仕留めてきたので新鮮な状態ですが」
「本当かい? それは頂こうかな。ワイバーン……竜種の肉はどれも美味しいんだよね。地竜の肉も食べてみたけど、美味しかったよ。口の中で肉が溶ける感覚は初めてだ。まだあまり食べれない体なのがもどかしいけどね」
「ゆっくり治していきましょう。話を戻しますが、ゲンシュタイン騎士は私が男爵になった事を認めずに、家紋入りのマントや辺境伯様の手紙を見せましたが、偽物と断定し、剣を抜いてシュネー・フォン・ケッセルリンクの父親を殺傷。幸い治療が間に合い、一命は取り留めましたが、その後、私にも攻撃を仕掛けてきましたので反撃して気絶させました」
「その後は?」
「家族に被害が及ぶと思ったので、ケッセルリンク家の関係者を全員連れてハーゲンシュタットに逃げてきました。この場合どうした方がよろしいのでしょうか」
「そうだね……まずはゲンシュタイン騎士に対して絶縁状を発行し、私の父上に提出すること。辺境伯家も馬鹿にされているから行商人を止めて経済封鎖をするけど」
「それをやると領民が大勢亡くなるので、それだけはどうか……」
「ふむ……じゃあゲンシュタイン騎士の世襲妨害くらいはさせてもらうよ。継承を辺境伯家は認めないってすればゲンシュタイン騎士伯家はおしまいさ」
「なるほど……そういう手があるのですね」
「他にはあるかい?」
「いえ、それくらいでしょうか。ワイバーンはどうしますか? また庭に置きます?」
「そうだね。家臣達に言っておくから庭に置いておいてくれ」
「わかりました」
こうして地元での騒動は幕を下ろすのであった。




