第118話 実家への帰省 下 さらばゲンシュタイン騎士領
夜、実家で寝ていきなさいと親父から言われたが、やるべきことがあるので、気にしなくて良いと伝え、俺は森にある小屋に向かい、ワイバーンの肉を魔法を使ってミンチにしていく。
ミンチにした肉に塩、香辛料、腐敗防止の添加物と大きさが変わりにくい様に小麦粉を加え、アキが錬金術の過程で作っていたソーセージ用のケーシング(コラーゲン由来の物)の中にどんどん詰めていく。
それと同時に塩漬け肉を作り、樽の中に詰めていく。
俺の異空間に保管しているので大量にある食料はワイバーンの肉が殆ど。
なのでソーセージや塩漬け肉といった保存の効く物に加工していく。
「うわ、ナツ何作ってるの?」
「お、アキ……ちょうどいい所に」
アキも実家で色々話したらしいが、やっぱり村唯一の鍛冶屋である親父さんが抜けたら村が困ってしまうから移住は難色を示したらしい。
弟や妹もまだ小さいので親元を離れて移住するというのは現実的ではないのだが、食料事情が逼迫しているので、弟だけでもアキと一緒に移住したほうがいいかもしれない……と、色々話し合ったらしい。
ただ、この村にいても将来性は無いし、鍛冶屋としての腕も、町の職人と比べたら劣っていると思うから、弟や妹達には外の世界を知ってもらいたい気持ちもあるらしい。
「結局5年で村人の誰かに鍛冶屋の技術を叩き込んでから移住するって事に決まったんだ」
「なるほどな。アキの家は揉めると思っていたからそんぐらいで済んでまだマシだったな」
「ナツは領主の所に行ったの?」
「行ったが従者の爺さんに追い返されちまった。ただ食料問題がヤバいから、村人達の為にも保存食を作れるだけ作って譲るつもりだ。なんだかんだ顔見知りも多いから死なれたら嫌だからな」
「確かに……何を手伝えば良い?」
「塩とソーセージ用のケーシングを大量に作ってくれ、あと味噌とかも。小麦粉とかはあんまり無いけど、大豆はメアリーが村に居た時にやたらと作ったから結構あるし、味噌があれば味噌汁や肉の味変にもなるだろう。他の2人は家で寝るって念話が届いているから、俺とアキの2人で作るぞ」
「はーい! 久しぶりにナツと2人っきりだ!」
「前世の兄妹らしく息合わせて行くぞ」
「おー!」
アキの錬金釜を取り出し、魔物や動物の血や骨や内臓から、どんどん塩やケーシングを作っていく。
俺は風魔法で肉を瞬時にミンチにすると調味料や添加物を入れて、魔法でよく混ぜ込み、ケーシングの中にニュルニュルと肉を詰めていく。
それをアキの別の錬金釜の中に入れて、食中毒菌が繁殖しにくい様に再度調整を加えると、棒のように硬い加工ソーセージが完成する。
食べる時は茹でると元の食感に戻る。
塩漬け肉もどんどん作っていき、塩の浸透圧で肉の水分を抜いて、香辛料で腐敗を防ぎ、肉を紙に包んでから風魔法で更に水分を飛ばしていく。
完全に水分が抜けたら、紙を包み直して樽に詰め込んでいく。
肉同士が接触すると変色したり腐ったりするので、紙を間に挟むことでガードしておく。
アキもガンガン味噌も作ってくれるので、これは土魔法で作った陶器の壺の中にどんどん入れていく。
あと何か保存食になりそうな物は無いか漁った結果、蜂蜜が採れる場所でまた大量に蜂蜜を回収すれば足しになるんじゃないかとアキに言われてそれだと叫んだ。
「確かにあそこの蜂蜜を採取しておけば……というか今から行くか」
「え? 今から?」
「大きい壺置いておいて、ゴーレムに守らせておけば問題ないだろ」
「なるほどね」
というわけで俺とアキは一度作業を中断し、巨大な蜂の巣がある場所に向かうと、相変わらず蜂蜜に群がる魔物達が蔓延っていたが、一瞬で蹴散らすと、土魔法で作った巨大な壺を置いておき、アキのゴーレムに護らせるのであった。
夜遅くまで作業を続け、6時間ほど寝ると朝になり、蜂蜜の場所を確認しに行くと、ゴーレムに倒された魔物が山積みになっていた。
「アキのゴーレム綺麗に倒すな」
「まぁね!」
誇らしげに胸を張るアキに、俺は魔物の亡骸を全て回収し、あと蜂蜜が大量に入った壺も回収した。
そのままシュネの家に向かい、昨晩念話でシュネに村人達の食料を用意したから、シュネの親父さんが領主に伺いをたてて食料を配るようにお願いしていた。
シュネの実家に到着すると、シュネとお兄さんが立っていた。
「久しぶりだねナツ君。いや今はケッセルリンク男爵様か」
「お久しぶりですアドミンさん」
アドミンさん曰く朝一でシュネの親父は領主の館に向かい、事情を説明しているらしい。
「もう少ししたら戻ってくると思いますよ」
と言われて、家の中で待っていると、シュネの実家の扉を蹴破って人が入ってきた。
「私が様子を見てきます」
アドミンさんが様子を見に行くが俺も空間魔法で確認すると領主とその息子が中に入ってきていた。
しかも剣を抜いている。
「アドミンさん、行かないほうが良いです……というか貴方はシュネ達と見ていてください」
俺はアドミンさんを引き留めて、廊下に出る。
「ナーリッツ・アドラーだな」
「いえ、今はナーリッツ・フォン・ケッセルリンクです。手紙を読んでいませんか? ゲンシュタイン騎士殿」
「無礼な! 貴族を騙る愚か者め! それに誑かされるエルウィンもエルウィンであるな!」
ちょび髭を生やした茶髪の男性がゲンシュタイン騎士伯であり、その横に立っている目つきの悪い青年が息子のザトラーだ。
「エルウィン殿が早朝そちらに向かったハズだが?」
「あの不忠者には仕置きをしてやった」
騎士は剣を見ながらそう呟くが、剣には血が付着している。
俺は直ぐにシュネに念話を飛ばすと、シュネは裏口から飛び出して父親の元に駆けつけた。
「手紙には辺境伯の名を騙り、私を侮辱する内容が書かれていた。これは万死に値する」
「な!?」
手紙には辺境伯家の家紋や辺境伯様自らのサインが書かれていたのだが、それを偽書扱いするとは……しかもシュネの親父さんに手を出しているとかどんだけ暗君なんだ!?
いや……この領地から外に出ることが殆ど無いから領主としてこの地を統治している自分が一番偉いと思っているか、本気で俺達が騙っていると思っているのか……。
どちらにせよ既に手を出しているため、平穏に解決するのは不可能である。
「死なない程度にしますが滅茶苦茶痛みに苦しんでください」
領主が剣を振り下ろしてくるが、それを魔法障壁で防ぐ。
あんまり良質な剣で無かったのか、障壁に当たった瞬間に折れてしまった。
「な!」
俺は領主とその息子に対して電撃の魔法を放つと、バチバチっと音と共に、2人は感電して失禁しながら意識を失う。
「うわ……大の方も漏れてるじゃん」
「ナツ君! 大丈夫かい!」
「アドミンさん、悪いんだけど領主が手を出してきた以上逃げるしかないんで、奥さんを呼んでこの土地から逃げますよ。アキ、お前の家族もこうなったら逃げるしか無いから秘密基地に向かえ」
「分かった! 直ぐに行くね!」
「アドミンさんとシュネのお母さん、悪いですが逃げますから俺に捕まってください」
2人が俺の体にしがみつくと、飛行魔法で一瞬で秘密基地……森の中の小屋まで到着した。
「ちょっとここで待っていてください」
俺は直ぐに親父や母さん、兄貴を連れて秘密基地に到着すると、シュネによって治癒魔法をかけられたことで一命を取り留めたシュネの親父さんが苦しそうに立っていた。
「ナツ、増血剤を地主さんに!」
事情を念話で話したメアリーもこの場に到着しており、俺は直ぐに増血剤を異空間から取り出してシュネの親父さんに飲ませる。
すると失った血が少しずつ回復したのか、顔色が良くなる。
「事情は後で説明しますが、領主が俺達を罪人扱いするのでこの場から逃げます。この場に残ったら殺される可能性が高いので!」
俺は異空間からミサイル型の荷車を取り出し、中に皆さんを乗せ、飛べないし、現場を見ていたアキに詳しい事情説明を任せると、俺達は飛行魔法でこの土地から一気に離れるのであった。




