第116話 実家への帰省 上
夏休みも残り10日といったところ……俺、メアリー、シュネ、アキの4人はラインハルトやジェイシェット教官に伝えていたように、数日の間ゲンシュタイン騎士領の村……実家に帰省することに……。
スケジュールを調整し、辺境伯様からもゲンシュタイン騎士に対して領民引き抜きの邪魔をするなという上から目線の手紙……いや命令書を書いてくださり、俺達は準備を整えてから出発した。
飛行魔法で飛べは、行きに1ヶ月かかった道のりも数時間で到着することができ、アキは俺の背中に乗り、メアリーとシュネの3人で編隊を組みながら飛行した。
道中、久しぶりにワイバーンがちょっかいをかけてきたが、俺が異空間から斧を取り出し、アキに手渡す。
するとアキは、俺から飛び降りながらワイバーンの首に強烈な一撃を食らわせる。
ワイバーンの首がくの字に折れ、地面にワイバーンは叩きつけられた。
空中でアキをキャッチし、ゆっくり地面に降りてから、ワイバーンを異空間に収納する。
「これでよし……ナイス! アキ!」
「まーね!」
そのまま村近く……いや、メアリー達と作った秘密基地にまず向かう。
上空から村を見るが……何も変わってない。
山の窪地にひっそりと暮らしている農村……本当よく魔物の群れによって潰されないよ。
魔物のテリトリーを奇跡的に避けて村が広がっているので、本当に不思議な村だ。
「よっこいしょっと」
小屋に到着して中を見ると、行く時に綺麗に片してしまったので何もない。
「何もねーな……4ヶ月も放置してたから埃が溜まってるな。掃除しておくか」
「そうだね」
魔法の力を使い、一瞬で小屋を綺麗にする。
いきなり帰省したので泊まる部屋がなくなっていてもここで寝泊まりすることができる。
「じゃあ……行きますか」
村に俺達が入ると農作業をしていたおばさんが声をかけてきた。
「ありゃ? アドラーのとこの次男坊じゃねぇか? 町に行ったんじゃねぇのか?」
「ちょっと色々ありまして、帰省することになったんですよ。また直ぐに町に戻ります」
「はぇ……じゃあ顔を早く見せてやりな。立派な服を着て……ちゃんと冒険者やれてるんやねぇ……うちの倅なんか帰ってきた試しがないよ」
「あはは……」
まぁ普通こんな村に帰ってこないからな。
さてと、親父を探すか。
メアリー達とは一旦別れて親父や母親を探す。
するとアドラー家の畑で作業をする人影が見えた。
「……兄貴か」
あんまり会いたく無かった人物と最初に出会ってしまった。
「なんだナツ、町に馴染めずにもう帰ってきたのか? 悪いがナツを養えるほどうちは豊かじゃないぞ」
兄貴も俺を見て少し嫌そうな顔をする。
久しぶりに出会っても相変わらず精魂がネジ曲がっているな。
「今回はそんな話じゃねぇんだ。直ぐに居なくなる。親父と母さんは何処にいる?」
「……お袋は家に居ると思う。親父はケッセルリンク様の家じゃねぇか」
「……丁度いいか。ありがとよ」
兄貴も農作業に戻り、俺はシュネの親父さんも居るケッセルリンク家に向かった。
シュネと合流し、家の扉を叩くと、シュネのお母さんが出迎えてくれた。
「まぁシュネ! 帰ってきたの! ナツ君も一緒なのね! あなた! シュネが帰ってきたわよ!」
シュネのお母さんがそう叫ぶと、シュネの親父さんが顔を出し
「おお、シュネにナツ君も……久しぶりだな」
「お久しぶりですエルウィンさん」
「中にナツ君のお父さんもいるけど話すかい?」
「他に人いますか?」
「まぁ……今日は小作人達の年貢について話し合いをしていたからね。既に話し合い自体は終わっているんだけど……」
「でしたらエルウィンさんとうちの親父の2人と話したい事があるのですが」
「……分かった。他の人達は一旦帰そう。待っていられるかい?」
「はい」
十分と少し経過して、部屋で待機していた俺達に、親父達が部屋に入ってくる。
「顔色は……良さそうだな」
「親父は相変わらずやつれているな」
軽口を言い合いながら、親父も席に座る。
シュネと目を合わせると、シュネも頷き。
「まずこの度、私、ナーリッツ・フォン・ケッセルリンクはフォーグライン辺境伯様より男爵の爵位を戴き、貴族となるに至りました。そして彼女シュネー・フォン・ケッセルリンクも騎士の爵位を授与され、ケッセルリンク男爵家とケッセルリンク騎士家が誕生したことになります」
「ほ、本当かい!」
シュネの親父さんが驚いているが、俺が異空間から授与されたマントを見せると表情が変わる。
「こ、これは確かに爵位を戴いた者にしか身につけることが許されないとされる家紋入りのマント……本当に爵位を……」
「ちょっと待ってくださいエルウィンさん……ナツ、お前何をしたんだ?」
「アンデッドドラゴンを倒して町を救い、ワイバーンを無数に献上し、そして地竜を倒し、辺境伯様の息子さんの病気を治す薬の素材を確保したらあっという間に男爵へとなりました。これ以上は辺境伯様の力では上げられないので、冒険者予備校を卒業して少ししたら土地をいただく事になっていますが」
これだけだと分からないと思ったので更に詳しく説明をし、証拠としてワイバーンの首を異空間から取り出して親父達の前に置く。
「エルウィンさんはナツ達が魔法使いであることを知っていたのですか?」
「ええ、一度彼らが戦闘訓練をしているのを見ていてね……まさかワイバーンを倒せるほど強くなっているとは思いませんでしたが……」
うちの親父は衝撃のあまり腰を抜かしてしまったが、しっかりしてくれと座り直させて、今後の話をする。
「申し訳ないんですけどシュネの親父さん……というかケッセルリンク家はシュネの新しいケッセルリンク騎士家に統合するのと、将来領主になった時に統治のノウハウが皆無なので協力してくれませんか?」
ちなみにと現在の俺達新ケッセルリンク男爵家の内情が書かれた書類を見せる。
家臣構成や財政状況、家財の価値なんかをラインハルトが纏めてくれたのを渡す。
「そうなった場合……シュネの親父さんとシュネのお兄さんはケッセルリンク一族全員町に移住して支えてほしいのですが」
「ふむ……まぁ元よりシュネが貴族になれたら支えるつもりだったし、この土地で地主として終わるのは少し嫌だったから。今まで義務感で地主をしてきたけどさ」
かと言って今全部を投げ出すほど無責任というわけにもいかない。
「アドミン(シュネの兄貴)はシュネやナツ君達と共に町で経験を積んで欲しい。なに、あの子も地主……いや、没落したとはいえ貴族の教育はできる限り施した。だから経験を積めば活躍できると思うよ」
「ではアドミンさんは連れていきます。シュネの親父さんも引き継ぎが終わり次第来てもらいますから」
「ああ、2年は待ってほしい」
「わかりました」
話に置いていかれていたうちの親父にも声を掛ける。
「親父達はどうする? 町で暮らすこともできるが、もう少し生活が楽な農地を買って自作農するっていう選択もあるけど」
「じ、自作農になれるのか!」
「勿論、今よりも利便性が高い場所で生活できるようにするけど」
「それだったらナツを頼りたい。ここの土地は借り物だから自分の物の土地の方が嬉しいしな!」
「分かった……一度町の宿で泊まってもらうけど、1ヶ月以内に土地や家を用意するよ」
「ナツは本当にできた息子だ!」
親父が俺に抱きついてきたが、だいぶやつれていて皮と骨だけの状態だ。
「……もしかして不作なのか?」
俺がそう言うと、シュネの親父さんが、今年は不作で、餓死者が出かねないらしい。
なので食料をもしあるなら譲ってはくれないかと頭を下げられた。
俺としても村の知り合いが死ぬのは嫌なので食料の援助を約束し、そのままシュネとは婚約状態であるということも伝えるのだった。




