第107話 夏休み 魔導具屋での一幕
夏……日本の夏は凄くジメジメしていて湿気がやばく、不愉快な暑さを感じることが多かったが、ここハーゲンシュタットの夏はどちらかと言うとカラッとしている蒸し暑くない夏である。
日本だと北海道の夏が近いかもしれない。
自分達が死ぬ直前の北海道は40度超える異常気象で悲鳴をあげていたが、普段の北海道の夏といえば扇風機だけで乗り切れてしまうほど基本は涼しい。
で、フォーグライン辺境伯は南部と言われているので、東南アジアとか赤道近くのクソ暑い地域を連想するかもしれないが、この世界はオーストラリア似の巨大大陸が星の陸地の4分の3を占めているし、その西半分をほぼ有している巨大帝国は国内で赤道を横断しているし、最北は日本の北海道から南はオーストラリアのシドニーくらいの南北で距離がある。
なのでフォーグライン辺境伯の管轄する南部はどちらかと言うと寒い。
ハーゲンシュタットの町はそれでもやや北寄りにあるので夏は適度な暑さで冬は氷点下にギリギリならない程度の寒さという、春や秋が長い様な気候をしていた。
多分ここハーゲンシュタットが南部最大の町になった理由も、大きな川と支流が流れていて水の確保が容易なこと、川を使った物流のシステムを構築しやすかったこと、そして過ごしやすい気候だったことなどが挙げられると思う。
あと平野部の真ん中なので町を広げやすかったというのもあるかもしれない。
まぁ町が広がった影響で食料需要が年々高まっていたから地竜の土地を解放して穀倉地とし、ハーゲンシュタットの需要を満たしたいというのがあったのだろうが……。
そんな事で、夏は比較的涼しいのである。
それでも夏になった事で服装も皆夏着に変化。
普段着は半袖短パンになり、スカートの丈も短め、最近の女性陣のトレンドは肩を露出するような袖無しワンピースが町で流行っているらしく、うちの女性陣やスターやマリー達のような家臣兼クラスメイトの子達もミクが服のお店に詳しい為、集団で夏服を買い揃える為に出かけていった。
唯一興味なさげにしていたのはクリスであり、服のセンスが終わっているので、基本メイド服か外行く時もシスターの服装で活動している。
流石にネタの様な文字Tシャツで買い物をされると他の貴族達から家臣の教育が行き届いてないと笑われてしまうので止めてくれと懇願していた。
まぁ女性陣達がクリスも強制参加と連れて行かれたので、まともな服を選んでくることだろう。
ラインハルトも休息日までは拘束しないので、久しぶりの自由の日、狩りも良いが、町を散策したい気分なので、男だけで遊ぶことに。
「というわけでイカしたメンバーを紹介するぜぇ!」
「「わー」」
「パーティーメンバーの中でイチャイチャしているのを横目に、自分も彼女を作ろうと奮闘中! ジャズ!」
「おい! もっと良い紹介あるだろ!」
「なんでもこなせる天才イケメン少年。他のクラス女子達から告白を受けること既に10人以上! マンシュタイン!」
「告白された人数バレてたのか!」
「以上愉快な2人とお送りします」
本来だったらアルフレッドさんも一緒に行動する予定だったが、マーシーさんとデートに行ってしまった。
ラインハルトは急な来客が来ても対応できるようにお留守番である。
「男3人が遊びに行くとなったらどこだ?」
「もう少し歳がいってれば風俗に誘うんだが……今だと立場的にそんな場所には行けないもんな。ナツさんは」
ジャズの言葉に、女遊びしているからモテないんですよと超正論パンチを繰り出すマンシュタイン。
ジャズは吹き飛んだ。
「ここは魔導具を売っている店に行きましょう」
確かにそっちのほうが面白そうである。
俺ももう少し部屋に魔導具が欲しかったので、3人で行ってみることに。
貴族街から大通りに出て十数分。
商人街に出ると、相変わらず人通りが多い。
市場も混んでいるが、いいものを揃えるとなると商店で揃えた方が良い。
俺もクム商会経由で食材や日用品を扱っている商会を紹介してもらい、色々卸してもらっているし、クム商会にも家具や交易で遠くから運んでくる食材なんかをよく購入していた。
結構色々揃えているクム商会で取り扱っていない物が魔導具である。
現代の家電の代わりに発展しているのが魔導具で、冷蔵庫や洗濯機といった物からホームベーカリーみたいな物まで……結構色々作られている。
冒険者として嬉しいのは間違いなく荷車式の魔導具である。
ポーターが居る冒険者パーティーなんかは色々荷物を詰め込める荷車に魔石によって動力によってアシストすることで、人力トラックみたいな感じで運用するらしい。
でもそういう荷車式魔導具で安いのでも新品で買うと白金貨数枚とかするので、なかなか手が出せないのだとか。
「というわけで到着したわけだけど」
儲かっているのか、魔導具の商店は他の店と比べても3倍くらい大きく、日本の電気屋くらいの広さの店内であった。
それが4階とこの世界ではなかなかの高さがあり、中には魔石で動くエレベーターがあるのだとか。
「いらっしゃいませ!」
店員が元気よく挨拶してくれて店内を見渡すと、小物の魔導具が沢山置かれていた。
例えば黒電話みたいな魔導具は中央に魔石が埋め込まれていて、登録すると遠方の人と通話できるほぼ電話と同じ機能の魔導具だったり、うっすら光を出すことによってコバエを引きつける電動コバエ取り器ならぬ魔導具コバエ取り器なんて物もあった。
よう作るわこんな物……。
店内を回っていると食品家電ならぬ食品魔導具コーナーに到着し、見てみると、興味をそそるものが色々ある。
「ほっほ~ミンチマシンがあるじゃん!」
ハンバーグやソーセージを作る時にお馴染みのミンチマシン。
俺の場合は魔法で簡単にできるが、魔法を使えない人には便利だろう。
「お! こっちはケトルだ」
瞬間湯沸かし器の保温機能が無いものがケトル(この場合魔導ケトルと呼ぶらしいが)であり、説明によると3分以内にお湯を沸かせますと書かれていた。
「……俺の場合魔法で直ぐに湯を沸かせるな」
なんなら熱湯を魔法で生み出してしまえば0秒である。
「なぁナツ……」
「マンシュタイン言わないでくれ」
魔導具屋で色々眺めてみたが、思ったのは優れた魔法使いであれば魔導具を使わなくても、魔法で全てできてしまうし、魔法のほうが圧倒的に早い。
洗浄の魔法で洗濯機を使わなくても綺麗にできるし、なんなら乾燥の魔法でふわふわに仕上げることもできる。
乾燥機能付き洗濯機が置かれていたが、白金貨1枚……日本円換算で100万。
いや、業務用洗濯機並のサイズなので数を購入してコインランドリーみたいなのを開けば元値を回収できなくも無い気がするが……それは家電とは言わない。
「ありがとうございました〜」
約2時間色々見て出てきた結論は
「うん、魔法があればいらねぇな」
「まぁナツには要らんだろう」
マンシュタインにそうツッコミを入れられ、魔導具で色々飾るという計画は頓挫したのであった。




