第106話 夏休みに向けて
辺境伯毒殺未遂事件から2週間後、予備校では夏休みに入るため生徒達はこれからの休みをどう過ごすかで盛り上がっていた。
ある者はパーティーメンバーと一緒に狩りに精をだし、ある者はクランの見習いとして参加しながら、将来の就職活動を行なったり、遠くの実家に一時帰省する者もいる。
夏休み期間も予備校に通って勉強をすることになっている俺達には無縁なことであったが……。
一応シュネの親父さんに色々報告したりゲンシュタイン騎士に挨拶に行かないといけないので、1週間近くは出かける予定が立てられているが……。
そんな俺達の話題と言えば期末テストの結果である。
冒険者に必要な知識はちゃんとした教育を受けていたり、俺ら4人みたいに転生によって知識を有している為、ある程度苦手分野を詰め込めば合格点は余裕で超える点数を得ることができた。
他クラスの平均点が50点のところ、俺達のいる特別クラス組は平均点で90点、最低点の奴でもどの教科75点を切っていないので、ジェイシェット教官からも例年と比べても優秀という評価をいただいた。
問題はラインハルトが作った、貴族及び貴族の家臣が求める知識のテスト。
これはまだ習いたてっていう側面もあったがマンシュタインが満点を叩き出す中、俺達4人の平均点が80点、他の人達は50点前後を推移していた。
別枠でテストを受けることになった元銀の翼のアルフレッド、ジャズ、マーシーの3人は赤点を取ってしまったので雇ったメイドさん達に付きっきりでスパルタ教育を受けさせられる羽目に……。
唯一ライラックは元日本の高校生で基礎学力が高かったし、勉強のコツを理解している優等生だったので、俺達よりも高得点かつマンシュタインの次に高い点数を取っていた。
これにはラインハルトも驚いており、野生の天才ってやつですかとライラックをベタ褒めしており、ラインハルトに気に入られたライラックはラインハルトに任せられている金銭管理の一部を手伝わせる事が許されていた。
「うう……補習地獄や……うち冒険者になることばかり考えとったからあんまり勉強していなかったのが響いてもうた!」
「フレン! 赤点ギリギリじゃない! 錬金術の事は覚えるの得意なのになんでそうなっているのよ!」
「アキさんな、楽しいことや面白いことは覚えるの楽なんやが、苦手な事は覚えるの難しいんやで……ようアキさんは覚えられはるな」
「そりゃこっちは当主代行をする立場だし、貴族と話す機会が多いから必死よ! フレンも元貴族の娘の立場なんだからしっかりしなさいよ!」
「そうは言ってもなぁ……」
最近アキのお気に入りはフレンという魔族の娘らしい。
肌の色が青紫色をしているため、一目で魔族だとわかるのであるが、珍しい一族が貴族の魔族である。
神からの話では魔族は奴隷階級だと教えられたが、貴族にまで上り詰めた者もいることに最初は驚いた。
フォーグライン辺境伯家がどちらかと言うと能力主義的な人事をしているのも大きいらしい。
まぁそうでなかったら俺は男爵にはなっていないし、可能性があったのもシュネが没落貴族出身だったから復権を許すくらいで留まっていたはずだ。
「能力主義的な割には開発が遅れているのはなぜなんだろうか」
「ん? また何か悩んでいるな?」
「あ、マンシュタイン実は……」
俺はなんで南部の開発が滞っているか聞くと、一番大きいのは魔物の領域が各地に点在していることで、迂回を余儀なくされて他の地域よりも輸送効率が悪かったり、食料生産力は比較的高いが、人口の増加率がいまいちで、余所の地域より発達していないから医療の発展も緩やかなため、新生児の死亡率が高かったり、病気が流行ると村ごと壊滅してしまったりするらしい。
まぁ他にも複合的要因があり、人口爆発は起こってないらしい。
そのためマンパワーが足りず、南部の未開発地の解放が進まなくて、人口が増えないの堂々巡りに陥っているのだとか。
「ゆ、緩やかには成長しているから」
おう、マンシュタイン、声が震えているぞ。
「お前ら着席しろ。午後の授業始まるぞ」
ジェイシェット教官が教室に戻ってきたので、慌てて席に座り、授業の準備を始める。
今日の授業内容は夏休みはこのクラス以外は授業が無いから、その時間を使って近くの狩場で泊まり込みの狩りを行うから、その準備を行うということだった。
1泊2日だが、少しの間ラインハルトのスパルタ教育を休めるのはありがたい。
それに地竜退治に行ったっきり狩場で狩りが一切できていなかったので気分転換にもなる。
「今回はナーリッツの力を借りて安全面優先で狩りを行う。テントとかは事前に建てたのをナーリッツに運んでもらうし、獲物を運ぶのもナーリッツだ」
「「「いやっほぉ!」」」
クラスメイト達は歓声を上げる。
俺と一緒の狩りとなれば凄い楽だとマンシュタイン達が言っていたし、俺達からも地竜討伐の時の話をクラスメイトには言っていたので、狩場近くでシャワーを浴びれたり、水洗トイレが使えるというのは本当にありがたいのだろう。
それに狩った獲物を持ち運んでくれるため、狩る事に集中することもできる。
何より狩った獲物を換金した金は俺達が予備校に通っている間はマージンは取らないと皆に約束していたので、狩った分だけお小遣いが増えるのである。
そりゃやる気になるわな。
しかも入学から約3ヶ月で全員探知の魔法や消音の魔法は覚えたし、獲物に付ける傷を最小限に抑える魔法も覚えていたので、十分に戦力になるとジェイシェット教官も判断したのだろう。
ちなみに本来こういう野営をする狩りは2学期終盤で行う行事なのでだいぶ前倒している。
というわけで俺達は校庭に移動してテントの設営を行うのであるが、まずは俺達4人が地竜の時に使ったテントを見せてくれとジェイシェット教官から言われたので大型ゲルを異空間から取り出して設置する。
外観を見ただけでも圧倒されるが中を確認してみると、ベッドはあるわ、収納棚はあるわ、ストーブや照明も揃っていると下手な宿より豪華じゃねぇかとジェイシェット教官は突っ込みを入れた。
「えー、普通はこんなテントに泊まれません」
そんな事は皆分かっている。
というか教育の一環で普通の冒険者が使うテントを建てる訓練しているし……。
「だがお前達は魔法使いだ。これくらい豪華とは言わなくても魔法を駆使すればそこそこの居住環境を整えることはできるだろう」
ジェイシェット教官の言葉に皆ハッとした顔をする。
土魔法で石のかまくらみたいなのを作り、床に絨毯を数重で敷けばある程度の居住性の担保にはなるし、入口部分を布で隠せば隙間風の侵入を防ぐこともできる。
「ナーリッツ、布はあるか?」
「ありますよ。手本見せればいいですか?」
「ああ、頼む」
ジェイシェット教官に言われたので俺は土魔法で中が8畳くらいの大きなかまくらを作り、石化させて強度を確保する。
床も石になっているので、このまま寝るのは痛い為、壁にフックを作り、布を吊り下げてハンモックを作る。
これからの時期になると暑くなってくるので床で寝るよりも下に熱が籠もらないハンモックの方が寝心地は良いだろうと判断してだった。
そして壁に武器を置いておける棚を作り、食事ができそうな窯をインテリアとして設置すれば完全に居住可能な空間の完成である。
「「「おぉ……」」」
これならハンモックを持っていけば土魔法だけで事足りるので絨毯を何枚も運ぶ必要も無い。
「流石だな。ただここで注意するのは虫が入るからと言って入り口を完全に土魔法で覆わないことだ。換気できない状態で眠ると運が悪いと朝酸欠状態に陥ることもあるからな。虫除けのお香は買っておけよ」
「「「はい!」」」
こんな事をしながら夏休みに突入していくのであった。




