第105話 辺境伯様との会食 下
「な、何を!」
辺境伯様とフレデリック様が蛮行を行ったメアリーに批難の声を上げようとするが、メアリーは
「肉料理に毒が混ぜられています。全員のに」
「な!」
「アキ、毒の解析を」
「了解」
アキは毒が混ぜられていると言う肉をナイフで切り分けると食べてしまった。
「お、おい! 食べても大丈夫なのか?」
「あ、絶対に真似しないでください。私は強力な解毒の魔法をかけているので」
アキはそう言いながら咀嚼すると、ソースに毒が使われていることを示唆する。
「キノコ由来の毒っぽいね。普通なら食べて数分で呼吸困難になって死に至り、解毒ができても身体に麻痺が残る感じかな……ナツ、解毒薬を頂戴」
「あいよ」
俺は異空間からアキ特製の解毒薬を取り出すと、アキはコップに注いで解毒薬を飲み干していった。
「辺境伯様、このメイドに心当たりは?」
配膳を担当し、現在感電しているメイドに辺境伯様は視線を向ける。
「……お前がなんでそんな事を……」
辺境伯様曰く毒見役も任されているメイドだったらしく、彼女が安全を保証していたはずであったのだが……。
「ちょっと失礼」
シュネがそのメイドに近づき、手を確認すると、指輪の魔導具が嵌められていた。
それをゆっくり指から抜き取ると、顔が変化していき、別人へと変わる。
「変化の魔導具」
周囲にいたメイド達が辺境伯様やフレデリック様を守るように壁を作り、変化していたメイド……いや、不審者から距離を取らせる。
「辺境伯様、この者に見覚えは?」
「いや、知らんぞ!」
「辺境伯様、失礼ですが、まだ化けている人物がいる可能性がある為、屋敷の中の捜索をしてもよろしいでしょうか」
「構わぬ。速やかに対処してくれ」
流石に目の前で化けている人物がいた事で、辺境伯様も自身のセキュリティが突破されていることを認識すると、メアリーに命じて、屋敷の人間の確認を行わせる許可をいただいた。
俺は問題の肉料理を回収し、安全面を考慮して、防衛しやすい広間へと辺境伯様方を移動させてる。
そして感電していた不審者を縄で縛り付け、舌を噛み切らないように縄を口に挟み、床に転がしておく。
数分もすると、メアリーはコック服を着た男性と鎧を着た男性の2人も感電させて連れてきた。
この者達も指輪をしており、外すと別人へと変化したのである。
「辺境伯様……この者達は」
「いや、知らん……」
身近な人物に化けていた事に驚くと共に、集まった辺境伯様の家臣の皆さんは同じ職場にいながら変化に気が付かなった事に驚愕していた。
いや、不審な点はあったらしいが、それを見抜くことまではできなかったらしい。
メアリーに続き、俺が探知の魔法と空間魔法で屋敷全体を調べると、辺境伯様の屋敷の倉庫の奥に反応があり、気絶させられた化けられていた3名のメイド、コック、そして衛兵が薄着かつ縄で縛られて転がされていた。
「完全に組織的な犯行ですね……」
シュネがそうつぶやき、メアリーが不審者達に魔法をかけて心の中を読み取る尋問の魔法を使うと辺境伯様とフレデリック様に伝えると、2人は頷く。
まぁ尋問の魔法ではなく読心術なのであるが、魔法を使ったと言った方が今後の不信感を与えなくて良いだろう。
「ではいきます……お前らの目的はなんだ」
『辺境伯一家及びケッセルリンク男爵達の暗殺』
「毒の他に暗殺の準備はしていたか」
『予定では衛兵に化けた横にいるこいつがバイパー様の寝室に入り、暗殺する手はずだった』
「なぜこんな杜撰な暗殺を?」
『依頼主は杜撰とは思っておらず成功すると確信していた』
「依頼主の名前は」
『……レオポルト男爵』
不審者達は質問に無条件で心を読まれていることに恐怖して、顔を真っ青通り越して真っ白になっているし、滝のような汗をかいている。
「辺境伯様、レオポルト男爵とはどの様な方でしょうか?」
「レオポルト男爵……地方領主なのだが、良い噂は聞かない奴だったな。私とも関わりが薄く、暗殺に踏み切るにはリスクが大きすぎると思うが……」
「レオポルト男爵の目的は?」
『知りません。私はレオポルト男爵の命で暗殺を実行せよと』
「レオポルト男爵の他に協力者がいたのでは?」
『……ゼレン準男爵が協力しております』
彼らの情報を精査していくと、命令したのはレオポルト男爵、変装の魔導具を用意し、辺境伯家の内情を伝えていたのは諜報部門に所属していたゼレン準男爵が、そして両方の家に資金援助を行なっていた過去がルンシュテッド子爵にあった。
「ルンシュテッドの奴が裏にいそうであるが、流れを複雑化してわからないように工作しているのが透けているな」
「どうするのですか?」
「本来ならここまで背後関係を洗い出す事はできないが、分かった以上厳罰に処すのが辺境伯としての務めだ。ルンシュテッドの野心は私が思っていた以上に大きかったようだな」
この3人はどうするか辺境伯様に聞くと、自分達に食べさせようとしていた肉を1人に食べさせよと言われ、メイドに化けていた者の口の中に肉を放り込んだ。
無理矢理飲み込ませて数秒後、泡を吹いて失神した後に痙攣して、涙や鼻水を垂れ流しながら絶命した。
「確認のために食べさせる必要があったが……やはり毒だったか」
「父上、他の者は拷問を行います」
「うむ、許可する」
フレデリック様は家臣達に指示すると、同僚や主に危害を加えられて怒り心頭の兵士達に化けていた不審者達は連行されていった。
「ルンシュテッドの奴には反撃を行い、温床になっていそうな諜報部門は解体しなければならんな」
一部署の解体はそれに所属していた貴族達の役職を奪うことになるので普通はやらないが、今回は事がことなので解体に踏み切るらしい。
「メアリーに、ナーリッツ、アキーニャ、そしてシュネーよ。私達を再び助けてくれてありがとう」
「いえ、未然に防ぐことができて良かったです」
「会食の場はこの様な形になってしまったが、お前達の人柄については分かった気がする。これからもフォーグライン辺境伯家と共に繁栄していければ良いと思う」
俺達は片膝を付いて改めて辺境伯様に忠誠を誓うのであった。
「ということが辺境伯家に行ったら起こった」
「えぇ……なんで人生で1度起こったら凄いようなイベントが月1ペースで起こってるんだ……ナツ達は」
風呂に入りながらマンシュタインと今日あった事を伝えるが、一緒に行っていたラインハルトは後始末の関係で数日は辺境伯家で泊まり込みである。
可哀想に……。
辺境伯様からは口止め料を含めて何か欲しい物はあるかと言われたのでパクーを下ろしている商人との繋がりを求めた。
あの魚……本当に美味しかった……。
村を出てからイベントが盛りだくさんだったな。
ワイバーンに襲われて、アンデッドドラゴンやアンデッドの大軍を倒して、地竜倒して、辺境伯様暗殺事件に立ち会って……。
まだ村から出て半年経過していないのだから密度がやばい。
「これペース的に夏休み頃にも何か事件が起こる感じか?」
「どうだろう……何事も無い……とは言い切れないな」
「ですよねぇ……」
なおこの数日後にルンシュテッド子爵の屋敷に辺境伯様の家臣達が家宅捜索に入り、本当に対象の貴族達への資金援助していた事実が見つかり、名前が上がっていた貴族達からもルンシュテッド子爵からの見返りの約束があったから動いたという証言が取れた事で、ルンシュテッド子爵は処断され、子爵家は取り潰しの上で僻地の教会送り。
実行犯を送り込んだゼレン準男爵とレオポルト男爵は処刑され、家族は教会送りの上で領地も没収。
不正の温床になっていた諜報機関は部署ごと解体されて一から再編となり、ルンシュテッド子爵派閥だった貴族や人員の多くは没落することになるのだった。




