第103話 領地をもらう空手形
ある日の事、俺達が予備校から帰ってくると、屋敷に来客が来ていた。
「父上」
「おお、マンシュタイン元気にしていたか」
マンシュタインの親父さんである。
とりあえず立ち話もアレなので中に入り、用件を聞くとまずはうちとの関係の強化についてと、マンシュタインの他に息子達を家臣として雇わないかという話であった。
マンシュタインの家系は辺境伯家の財務を担当する家で、辺境伯家における財務大臣みたいな立場がマンシュタインの親父さんの今の地位らしい。
なので地竜やワイバーンの金額交渉で既に顔を合わせては居たが、マンシュタインの親父であることには触れてなかったのであるが、ここにきてマンシュタインの親父としての顔を見せてきた。
あとマンシュタインの親父さんは愛妻家としても有名で、5歳年下の嫁と若い頃から仲が良かったらしいのだが、肉体的な相性も抜群だったらしく、10人以上の子供が居たのである。
ただ流石は重鎮……そんだけ子供がいても成人済みの男は何かしらの役職に付け、娘はよその家に一番下の2歳の子も含めて旦那が決まっているらしい。
「息子から見ても凄いやり手なんだが……最優先は財務の仕事だから一波乱あると思うぞ」
とマンシュタインから言われてしまった。
で、最初はマンシュタインの弟を家臣としていりませんかという穏やかな売りつけであり、家臣の採用枠はまだ余っていたし、マンシュタインは将来ケッセルリンク家の重臣となるので、それを支えるのに弟なら受け入れても良いだろうと前向きに検討することを伝え、本題を切り出してきた。
「ワイバーンの売却金額の減額?」
「いえ、減額ではございません、土地を担保にしたいという話です」
現在のワイバーンの売却金額の白金貨8万枚、これは支払う約束もしたし、辺境伯家の財務を決める場でも予算の了承は下りていたのであるが、今後ワイバーンを大量に持ち込まれた際に男爵ではあまりにも莫大な財産を抱えることになるため、それを消費させるために将来領地を与えた方が良いのではないか……という議題が上がっているらしい。
で、辺境伯様から俺達の意見を聞いてこいと言われたらしい。
「まず派閥としての動きもございます。私は財務を取り仕切っていますので、辺境伯家の家督継承については中立を保たなければならないのと、私自身の派閥もございます」
マンシュタインの親父さんの派閥や辺境伯様的には俺達に現在魔物の領地になっている南西大森林の開発をやらせたいらしい。
その地は大量の魔物やワイバーンの上位種であるドラゴンも生息しているし、古代王国の遺跡も多く存在しているらしいが手つかずになっているため、財力があり、地竜を倒せる俺達が主導で開発を行うことで南部経済の活性化を狙うという作戦らしい。
ある程度の開発に成功し、領地が広がれば子爵や伯爵へと爵位を更に上げることも可能だと提案された。
「現状南部辺境伯家は帝国で大領を持つ他の辺境伯や公爵に比べて領地の広さの割には経済力が乏しいのですよ」
地球で言う立場はロシアに近い。
広大な領土を保有しているが、開発されている土地は広くなく、未開発の地が点在している点が特に……。
「どうか南部の発展のために協力してはくれないでしょうか」
「それは別に構わないけど……」
でも移民を募ったりする必要があるが、つい先日解放した地竜の生息域に現状移民が取られていて、新規開発するにも移住する人は少ないんじゃないのか?
そう質問するとその点は問題無いらしい。
フォーグライン辺境伯領の隣で帝都により近いクルップ公爵領は周辺地域よりも高い経済力を有し、食料をフォーグライン辺境伯から大量に輸入する関係らしいが、開発余地が少なく、それでいて工業化を進めている影響で人余りが発生しているらしい。
度々辺境伯様にもクルップ公爵が愚痴を言っていたらしいので、その余剰人材を移民として募り、さらなる食料生産力を上げるためと理由を付け、開発した土地で農地だけで無く、工業も発展させることができれば南部経済はより発展することができるという計算らしい。
「それに辺境伯家と近づきすぎると反発する派閥の妨害も激しくなりますので」
成り上がり者を警戒する派閥からの反発は大きいし、今年の予備校の有望な魔法使いをごっそり家臣にしたのが気に食わない貴族もいるため、注意が必要であると言われた。
「開発に必要な資金の予測はこちらに」
金額も計算していたらしく、ワイバーンをあと1000頭倒せば初期資金は足りるらしい。
「この家の規模だと白金貨8万枚やつい先日の白金貨2万枚近くの買取金に手を付ける事はないでしょう。どうです? せっかくですし、自身に投資をしてみては如何でしょうか」
まぁマンシュタインの親父さんも今からではなく、ワイバーンを倒していって、初期資金が貯まったくらいになる頃は20歳くらいになっていると考えての事らしい。
あと10年もすればバイパー様に当主の継承も行われるし、デーニッツさんも60歳を超えるので引退が見えてくる年代である。
魔法使いは生涯現役宣言する人もいるらしいが! デーニッツさんはボケる前に引退しておきたいと周囲に漏らしていたし、俺たちのことを後継者に指名したらしいので、お抱え魔法使い筆頭としての影響力も加わるから動きやすくなるだろうと教えてくれた。
「それまでに蠢いている後継者争いに決着を付けなければならないがな」
バイパー様の薬はもう少しで完成するらしいし、薬を飲み続けても完治までは1年近くかかるらしい。
それまでに暗躍しているエクス・フォン・ルンシュテッド子爵がどう動くか未知数で、何が起こるか分からないが、現状で手出しできることも無い。
「あと辺境伯様とフレデリック様が君達に改めて会食に誘いたいと言っていたから来週の安息日に屋敷に行くことは可能かな?」
「勿論行きます!」
こうして将来の仮ではあるが約束を行い、マンシュタインの親父さんとの会話は終わるのであった。
「父上との話し合いはどうだったナツ」
「普通に有意義だったのとエクス・フォン・ルンシュテッド子爵に気をつけろと言う忠告だったな」
「ルンシュテッド子爵か……」
「やっぱり有名なのか?」
「まぁ悪い意味で有能だよ」
謀略と資産運用が得意で、辺境伯様も他の貴族からの防諜を担当させているらしいが、性欲が強く、少女達を金の力で妾に次々としていたり、貴族達に金貸しを行うことで多額の利益を得ているらしい。
そのため色々と悪い噂も多いのだが、証拠が出たことが無いのと甥っ子ということで強く出ることができないらしい。
「うーん……そんな奴と敵対することになるとは……」
「搦手で動いてくるので気をつけることしかできませんが……恥をかかせるだけでなく、ケッセルリンク家の失脚を狙う可能性が高いな」
「懐柔しには来ないのか?」
「抱えている子分たちがケッセルリンク家の出現で利益が得られなかったり、損を被った人達だからな。流石に無いだろう」
そんな会話をしてその日は終わるのだった。




