第101話 VSデーニッツ
〜ナーリッツ視点〜
シュネとザテラスさんの対決は火力のぶつけ合いであったが、周囲の温度が高温になったことで、ザテラスさんの体温調整が間に合わなくなり、滝のような汗を流して、軽い脱水症状を起こして気絶してしまった。
直ぐに治癒魔法と水分の補給で大丈夫であったが、見てる分には迫力があるバトルだったように思える。
既に文句を言っていた魔法使い達はセレフィさんとザテラスさんとのバトルで実力差が改めて分かったのか、能面の様な真顔になっており、一応締めとして俺とデーニッツさんが戦う事に……。
「坊主、準備は良いか? アンデッドドラゴンをお前らが倒した時から手合わせしたくてうずうずしていたんだよ」
「デーニッツさんってそんなにバトルジャンキーだったんですか?」
「冒険者時代のあだ名は決闘者デーニッツだ。幾度となく決闘をしてきた経験がある」
デーニッツさんの若い頃が、闘争にまみれていた事を知り、ちょっと怖い印象を持ったが、普段はイケオジである。
対人戦もアキやシュネ、メアリーの3人とばっかりだったので、新しい経験を増やすためにも、戦っておいて損は無いだろう。
「ではデーニッツさん! よろしくお願いします」
「おう!」
審判役の人が始めと合図を送ると、デーニッツさんが小手調べの土塊を俺に飛ばしてくる。
俺は異空間からワイバーンの鱗で作られたマントを取り出して、土塊を払いのける。
「鱗のマント……素材はワイバーンか?」
「はい、しかも強い個体ので作ったので、並みの魔法障壁よりも強固かつ、魔法に強い耐性があります」
「道具に頼るのはあまり感心しないなぁ」
「それもそうですね」
俺は異空間にマントを仕舞うと仕切り直し。
バチンと俺の体に強い衝撃が襲う。
「対人戦において一番大切な事は、いかに相手を行動不能にすること、次は技の速さになる」
電撃の魔法が放たれたな。
身体強化をしていたから、ダメージはほぼないけど、一瞬体が硬直する。
そこに畳み掛けるように火球が俺に襲いかかる。
火球は俺に直撃するが、服の一部が燃えただけで、特にダメージは無い。
「おいおい、ワイバーンを倒せる攻撃力に、ワイバーン以上の防御力ってか?」
上半身裸になってしまったが、戦闘に支障は無いので継続する。
デーニッツさんが俺に見せて欲しいのは、俺でなければできない戦い方だろう。
それに十分デーニッツさんを引き立てることはしたから、ここからは俺のターンである。
「お見せしますよ。空間魔法による飽和攻撃を」
空中に異空間が幾つも出現すると、そこから高速で太い骨が発射される。
豚骨ならぬワイバーンスープに使った出涸らしの骨や中途半端な大きさで使い道に困るような骨も何かに使えるかもと思って取っておいたのであるが、それをデーニッツさんに向けて発射した。
空間魔法の面白い性質で、空間魔法を重ね合わせると、物体は高速で間を移動するという磁石の反発みたいな性質がある。
俺は異空間をミルフィーユ状に重ね合わせ、その間を骨が移動すると、どんどん加速していき、ソニックブームを起こしながら骨が射出される。
デーニッツさんは俺の攻撃の予兆を感じ取り、魔法障壁を全力で展開するが、一瞬で障壁は高速で飛来した骨に貫通され、デーニッツさんの横を通り過ぎると、地面に巨大なクレーターを作ってしまった。
勿論ソニックブームが出ているような骨が横を通り過ぎると、デーニッツさんも無事では済まない。
まずは爆音がデーニッツさんを襲い、彼の聴力を一時的に奪う。
そして強い衝撃波が体を襲い、身体強化をしていても内臓を揺さぶられて、嘔吐を誘発させる。
「かは!?」
身体強化をしていなかったら眼球が破裂したりしていたところだが、嘔吐だけで済んでいるので、いかに身体強化による防御力が上がるかわかるだろう。
膝と手をついて四つん這いになり、デーニッツさんは吐き続ける。
流石にこれ以上は危険と判断したのか、審判役に見える様に白い煙を出す魔法を使い、降参を合図する。
「勝者ナーリッツ!」
俺は直ぐにデーニッツさんに近づいて治癒魔法をかける。
「あぁ、気持ち悪かった……物体を高速で飛ばすことによる衝撃波を使った攻撃か……理論は知っていたが、そんな速度で物体を飛ばせる魔法は無かったと思ったが……」
「空間魔法の応用でやってみました。まぁ殺すだけなら空間ごと切り裂いた方が防御無効かつ一撃で倒せますが」
「……はは、出鱈目な強さだな……参った参った……」
デーニッツさんは大の字になって倒れ込み、勝者である俺を称えた。
体調が回復したデーニッツさんはお抱え魔法使い達と俺達を連れて教室に戻る。
「お前らが見ていた様に、こいつらの実力は理解したな」
誰も否定する声は上げない。
「あくまで今日は顔合わせがメインだ。成り行きで戦う事になったが、実力が見れて良かったろ。俺でも勝てねぇんだからお前らでも勝てねぇ。将来はナーリッツ達の指揮下に入るか、もしかしたらナーリッツの実力が買われて地方領主に抜擢されるか」
「俺としたらどちらでも良いが、ナーリッツ達のお陰で他所から舐められる事は無くなるだろう。それを政治的利用した方がマシだと俺は思うがね」
デーニッツさんはそう締めて、顔合わせは終わるのだった。
別室に移動した俺達はザテラスさんとセレフィさんと話し合いをすることになった。
「メアリーさんから皆理解していると仰ってましたけど、別に私とザテラスは皆様方と敵対する気はございません。ただ皆様方を不快にさせたのは事実ゆえに謝罪を」
2人は頭を下げる。
貴族にとって頭を下げるというのは大きな意味があり、それが当主であるなら、相手に隙を与えるような行為である。
敵対している者ならこれを口実に政治工作するくらい重要な事案であるが、俺達はそれを受け入れて、特に何も要求することなく和解する。
「損な役回りをしていたのは(メアリー経由で)知っていましたので、特に何もする必要はありません。それにセレフィさんやザテラスさんはバイパー様の派閥の構成員、自分達も家の基盤が固まればバイパー様の派閥に組み込まれることでしょうから、同じ派閥としてよろしくお願いします」
逆に俺たちの方も頭を下げる。
これでお相子だ。
「バイパー様を助けていただいて助かった。現状の我々では地竜を倒すことはできたかもしれないが、多大な犠牲が出ただろう。お館様からしても息子を救うために辺境伯家の軍事的象徴であるお抱え魔法使いの数が大きく減ることは望んでいなかったからな」
「それにアンデッドの大軍を消し飛ばしてくれたのも助かりましたわ。殆どを焼失させてもらったので、倒したアンデッドから疫病が発生したり汚水や汚物で周辺が汚染されてしまうこともある中、綺麗に燃やしてくれたので、後始末が凄い楽でしたわ」
2人共俺達に感謝を口にする。
俺は相談として以後成人となる10歳まで、冒険者予備校で教養や常識を身につけた後に、貴族として辺境伯領のさらなる発展に協力したいのだが……。
「我々も今回の事を利用して他派閥の暴走を抑えようとしますし、とりあえずバイパー様の快調を今は願いましょう」
「それもそうですね」
こうしてドタバタになったが、お抱え魔法使い達との交流が始まるのであった。




