第100話 辺境伯のお抱え魔法使い 下
〜メアリー視点〜
なんか成り行きで僕達は勝負することになってしまった。
『やれやれ、セレフィさんだっけ、損な役回りをしてもらって悪かったね』
『念話……はて、何のことでしょう』
『とぼけなくても良いよ、僕達事情を知っているし』
流石に僕が読心術で心を読んだというのは、相手に無用の警戒をもたらしてしまうし、貴族社会でその事が広まれば、僕に会おうとする貴族もいなくなってしまうからね。
ケッセルリンク家の権謀術数は僕の腕にかかっている。
前世でも僕は女性からモテるくらい中性的な顔立ちだし、胸もほぼ無かったから、男女共に男として見られることが多かったから、友達として色々な情報が入ってきたんだよね。
○○ちゃんが○○と付き合っているだとか、誰が誰の事が好きだとか、大学に通ってからは更に得られる情報は増えたし、知らず知らずのうちに情報屋扱いされることもあった。
まぁ女性達からは王子様扱いされることもあったけど。
だからこの世界に転生する際も他の皆のチートと調整しながらだったけど、僕に一番活かせるのは話術や謀略関係だろうなと読心術のチートを得たけどね。
お陰で僕達ケッセルリンク家に誰が敵対的で、誰が友好的か一目瞭然。
腹の探りあいも、こっちからは相手の腹が丸見えだし、念話でナツとかと相談しながら対処できるのは大きい。
お陰で嫌がらせ関係はだいたい未然に防ぐことができていた。
『なら話が早いわね。お抱え魔法使い達は色々な派閥があるのよ。で、一応男女でリーダー格だった私とザテラスがガス抜きの為にこうして役を買ったんだけど……デーニッツ様はまさか勝負で解決するように誘導するなんてね。せっかくの勝負ですし、ワイバーンや地竜を倒せる実力を見せてもらいますわ!』
審判役の合図と共にセレフィさんが魔法を放つ。
無難に氷柱による攻撃か。
僕は魔法障壁を展開して攻撃を防ぐ。
一部威力に緩急をつけた攻撃をしてくるが、魔力量が圧倒的に違いすぎて、緩急をつけたところで弱攻撃の連打程度の威力しかない。
「アクティーナ」
無属性魔法アクティーナ。
空中に魔法陣が現れ、セレフィさんに魔力の白色光線が襲いかかる。
「魔法障壁!」
セレフィさんは魔法陣から威力を割り出し、通常の魔法障壁では防げないと3重の障壁を展開するが、一瞬でセレフィさんの魔法障壁を貫通する。
ただ一瞬止める事に成功したため、避けることができたが、地上に突き刺さったアクティーナこと白色光線は地面に深い穴が掘られていた。
「威力に乏しく、属性魔法に比べて射速以外有効性が少ないとされるアクティーナでこの威力……」
「威力は調整しているけど、ワイバーンでも当たりどころが悪ければ吹き飛ぶ威力だね。致命傷を与えるには数十発撃ち込まないといけないけど……人族の魔法使いならこの程度で十分致命傷になるでしょ」
「……今のも手加減されてましたのね」
「当たり前じゃん。手加減してなかったら障壁で一瞬でも止まるなんてことはないよ」
「……長くお喋りに付き合ってくれてありがとうございますわね!」
魔力反応的に魔法の準備をしていたのはわかるが、バレバレである。
まぁ読心術をしているので、どんな魔法が来るか予測もへったくれもないけど。
僕の足下から氷の薔薇の茎みたいなのが生えてくるが、僕は服の上に高温の膜を作り出すことで、氷の薔薇が僕に巻きついてこようとすると、ジュワっと一瞬で溶けて水になってしまう。
「そんな!セレフィさんの氷の薔薇が!」
客席から他の魔法使い達が今の攻撃を防いだ事に驚愕している。
地面を伝って、任意の場所に氷の薔薇を生み出す魔法……当たれば対象をどんどん凍らせていくんだろうけど、僕には効かないねぇ……いや、ケッセルリンクの4人には効かないだろう。
対処方法は違うかもしれないし、アキに至っては身体強化だけで突破しそうだけど。
「僕も植物の魔法は使うけど、こんなのはどうだい?」
僕は右手の人差し指を横に一線すると、地面に真っ赤なたんぽぽが生えてきた。
綿毛のたんぽぽを風魔法でセレフィさんの方に飛ばすと、突如発火。
燃えながら空中を漂うたんぽぽの綿毛もどきは風に流されて、セレフィさんに向かっていく。
セレフィさんは氷の壁を生み出して防ごうとするが、風向きを操れば、壁を越えてセレフィさんに殺到させる。
魔法障壁を展開して防ぐが、障壁に当たった瞬間に爆竹の様な音と共に破裂し、障壁を破壊する。
燃え盛るたんぽぽがセレフィさんを取り囲んだところで、セレフィさんはギブアップ。
「参りました」
僕は右手を握ると、燃えていたたんぽぽもどきは全て鎮火して燃えカスになって離散してしまった。
「美しい魔法でしたわね」
「対人用に開発した魔法だよ。火球をぶつけるよりも威力が出るし、風の動きによって誘導も可能……ただ強風の時や雨の日は使えない弱点があるけどね」
年齢的には15歳近く差があるが、セレフィさんも綺麗な女性。
しかも女性ながら男爵の爵位を持っている女傑でもある。
洗浄の魔法で汚れたドレスを綺麗にしたセレフィさんと僕は観客席に移動する。
ナツ達とは合流せずに、僕はセレフィさんの横に座る。
「あら、他の子と合流しませんの?」
「今はセレフィさんの方が僕的には興味があるからね」
「まぁまぁ……本当に9歳ですこと?」
僕達の次にシュネとザテラスさんとの戦闘が始まったが、こっちは滅茶苦茶の火力戦、互いに炎の魔法が飛び交う。
「ザテラスは瞬間火力であればデーニッツさんにも引けを取らないほどの炎魔法の使い手なのですが……押されてますわね」
「シュネの火力はあれでも相当手加減しているねぇ。本気だしたら周囲が融解して溶岩地帯みたいになって、足場が消滅するから」
「……それってシュネさんも危ないのでは?」
「シュネは溶岩遊泳ができるくらい高温に耐性があるからね。逆の低温状態にもシュネはマイナス150度くらいまでなら耐えられるし」
「超低温にも耐えられるって……竜人なのに凄いですわね」
「僕達の中でシュネが一番火力出せるからね……」
『ここからは念話で』
僕は念話に切り替えた。
『何か聞かれたくない事かしら?』
『敵対派閥について僕達が成り上がり者だから嫌っているだけなのかと思ってね。何か別の思惑が動いているんじゃないかっていうのがあるんだけど』
『フォーグライン辺境伯家には幾つか派閥があるのはご存知かしら?』
『当主である辺境伯様の派閥とご子息のバイパー様とフレデリック様の派閥ではないのですか?』
『実はまだあるのよ……辺境伯様の姉の子供が当主のエクス・フォン・ルンシュテッド様が』
爵位は子爵であり、他のフォーグライン辺境伯様の一門が男爵止まりなのに対して、ルンシュテッド家に養子入りしたことで子爵になった人物である。
辺境伯様からすると甥であり、厄介なのがバイパー様が病弱だったために、エクス様を推す派閥が存在しているらしい。
その貴族にとってバイパー様が回復するのは好ましくないが、下手に工作すると反撃で容赦なく家を潰される可能性があり、バイパー様には手を出せない……という状態であったが、僕達新しく男爵になったケッセルリンク家に八つ当たりするのはちょうど良いと見られたらしい。
「そうそう、そのエクス様が教会で気に入った娘を誰かによって横から掻っ攫われたから余計にピリピリしていたのよ」
ちょっと待って……それクリスが言っていた貴族じゃないだろうか。
「エクス様って結構お年を召してらっしゃる感じですか?」
「今年で38歳だったはずよ」
うん、クリスが中年って言っていたから、多分エクス様がクリスを狙っていた貴族だ。
徹底的に敵対してしまっているわけか……。
こりゃクリスの事がバレたら大事になるだろうな……帰ったらラインハルトに聞いて対策しないといけないか。




