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とある転生聖女シリーズ

とある聖女の婚約破棄

作者: アラドリア

「聖盾の聖女ルールー。貴様との婚約は破棄させてもらおう」


王都にある魔法大学院の卒業パーティ。


私は婚約者である、この国の第二王子アルディーノ殿下のパートナーとして参加していた。


そんな中、突然アルディーノ殿下から言い渡された衝撃的な言葉に私も含めて周囲が驚愕した。


私が聖女としての力に目覚めたのは7歳の頃、3年の聖女見習い期間を経て正式に聖女として認められたのは10歳の時。


他の聖女候補よりも強い能力を既に獲得していた。


当時10歳だった私はアルディーノ殿下の婚約者として選ばれた。


孤児だった私を育ててくれた教会に逆らえる訳もなく第二王子の婚約者としても振舞わなくてはならなかった。


聖女の仕事、王族としての礼儀作法も同時に教育されて17歳になり、そろそろ結婚の時期が近付いてきたという時の婚約破棄という大ニュースだ。


「私は我慢ならなかった。孤児のお前をどうして王族に迎えねばならないということが」


普通なら出自不明の人間を王族に迎え入れることはあり得なかった。


だが私の二つ名『聖盾』は伊達ではなくアイテーリアの都を守護するには必要な力であり、数万人という人々の生活を守り続けている実績を殆ど1人で実行していた。


だから、教会と王家が話し合い今後の協力関係が崩れないようにと婚約することで力の均衡を保とうとされていた。


とうぜん私たちにもそのような説明は当初から何度も話されていた。


「私には私と釣り合う女性がいると信じてやまなかった。そして、見つけ出したのだ。皆に紹介しよう聖女リオナ譲だ」


ギィイイ


開錠の扉が開かれ、私と同じ衣装に身を包んだ赤毛の少女が現れた。


王都で働いている聖女の一人という記憶しかなかった。


国全体の聖女、一人ひとり覚えている訳もない。


「彼女は聖女でありながら、侯爵令嬢でもあり血筋もしっかりとしている。下賤の出自であるお前と違ってな」


ギュッと肩を抱きよせながらアルディーノ殿下は私を睨む。


抱き寄せられながら聖女リオナも勝ち誇っている表情をしている。


「殿下、私との婚約は教会と王族との間での政略結婚です。殿下の考えだけで破棄できるものではございませぬ」


「ふんっ! 既に婚約破棄については父上達からも了承を得ている」


「教会側はなんとおっしゃられていますか?」


「教会も、変わりに聖女リオナと再婚約するならばと納得してくれている」


王族と教会との政治的思考は別の聖女との婚約で争うのを止めたと即座に結論づける。


「この7年間、私は王族へ嫁ぐ身として様々な教育を受けてきました。彼女にその代わりが務まるという事でしょうか?」


「とうぜんである。聖女としてではなく侯爵令嬢として教育を受けてきたのだ、王族の礼儀作法もこれから身に着けてもらえば問題ない。そんなに私との婚約破棄は嫌か?」


「いえいえ、私の代わりが出てきたことに喜びさえ感じています」


「なっ!?」


王子含めて周囲の人間たちは私の答えに驚き固まっている。


「孤児の私をここまで育ててくれた教会側に感謝をしています。この力がなければ教育も施されなかったでしょう。前々から私は王族、ならびに貴族社会には似合わないとも思っておりました。これで私はこの社会から離れる事ができますから、とても喜びにみちています」


「ハッハッハッ! 皆の者、聞いたか。この女は下賤の身でありながら我々とは相いれないと言い放ったのだ! 聖女ルールーよ。今宵より私とお前には何の関係はない。即刻立ち去るがよい!!」


「ご命令のままに従いましょう」


踵を返して私は会場を後にして、一晩を明かしてアイテーリアの都へと馬車を走らせた。


「ルールーよ、良かったのかのぅ」


大司教ランバルから婚約破棄の報を受けて真っ先に駆けつけてくれた。


第二王子と聖盾の聖女との婚約破棄、ならびに聖女リオナとの再婚約話にアイテーリアの都中で話の中心として騒がれていた。


「いいのです。所詮は政略結婚ですからね愛もありませんでしたし」


婚約破棄を受けて傷心中と教会側が判断し急遽休日を言い渡された私はここ居酒屋シンでビールを飲みながらランバルと話していた。


「それに価値観が私とあの人では違いすぎるのです。婚約者がいる中、別の女性と付き合うなんて浮気じゃないですか」


「う、うぅむ。王族や大貴族であるなら一夫多妻が許されておるしな」


王建制度、貴族階級がこの国の根幹なのだからハッキリとは言えない。


「それに血筋を謡ってましたが、聖女になれるのに血筋は殆ど関係ないですし」


そう、聖女に血筋はほとんど関係なく急に力に目覚めてしまう事が多々あり、聖女の娘が聖女になれる確率は殆どないとされている。


たまたま侯爵令嬢が聖女になれただけであった。


「結局のところ、身分の低い人間、血筋との結婚が嫌だったようですよ」


「んなぁにぃ!」


「俺たちの聖女ルールー様をフッただけじゃなくてぇ」


「そんな事もいいやがったのか!」


周囲で聞いていたアイテーリアの住民、居酒屋シンの常連客達が会話に参加してきた。


ここアイテーリアに限り私の人気は絶大で一種のアイドル的存在で崇められたりもする。噂によればファンクラブ的存在もあるらしい。


「皆さん、お怒りはごもっとですが、過ぎた事なので」


常連客の怒りのボルテージに圧倒されつつ笑顔で宥める。


本人が納得していれば収まってくれればいいのだが・・・


「それで教会側はなんて言ってやがんだ?」


「代わりに聖女リオナとの婚約で王族と教会との約束事は反故されていないとしたそうで」


「なぁにぃ! たったそれだけでルールー様の努力を無下にしちまったのかよ」


「かぁああ! その場にいたらぶん殴りてぇ」


「王族相手の暴力は反逆罪で死刑ですよ」


「ルールー様はそれでいいんですかい?」


「先ほどまでいいましたが、私と彼ならびに王族、貴族との考え方は相いれないので正式に離れられたので逆に良かったのですよ」


「ルールー様が納得してんじゃぁ」


「俺たちが怒っても仕方ねぇか」


私の説明で直ぐに怒りを収めていく常連客達。


「して、ルールー殿はこれからはどうするんじゃ?」


「どうとは?」


「婚約者がいなくなったいま、次の伴侶を決めぬのか?」


「次の婚約者も教会が決めるのでしょう?」


「はいはいはい! 私は反対します!!」


カウンターで聞いていた女性店員のアオイが身を乗り出して否定する。


「すでに7年間も無駄な時間を過ごしているんじゃないですか! なら次の結婚相手はルールーさんが決めるべきです」


「アオイちゃん、さすがに我々が口出しできる状況じゃないでしょう」


「大将は女性の気持ちを分かっていません。7年間も我慢して好きでもない人に嫁ごうとしていたんですよ!次も我慢させるなんてダメですよ!あと浮気絶対ダメ」


「それは日本の考え方で・・・あぁ、ルールーさんも同じ考え方か」


大将とアオイさんが意見を言い合っていたが大将も直ぐに納得した。


「せめて、一夫多妻が適用されない人にして欲しいですね。私を愛してくれる人ならなおさらですが」


「そうですよ! 女性なら自分だけを愛してくれる人がいいです」


「アオイちゃんがそうなら、ルルティーアさんも同じ意見かい?」


「アタシかい?」


給仕をしていた、最近店員になった女性ルルティーアの手が止まる。


「アタシも、やっぱりアタシを愛してくれる人なら嬉しいな。まぁ、身分差があるから縁はなさそうだけど」


基本、居酒屋シンに来る人は平民勢が多く、一夫多妻制の世界はしらない。


「しかし、身分が高ければ一夫多妻も仕方がない事ですぞ」


ここで異論を上げたのは妻を3人娶っている高位貴族の当主であるラランバル侯爵。


居酒屋シンの噂を聞きつけたラランバル侯爵はココが気に入って、お忍びでよく来る常連客の1人。


「私も3人の妻を持つ身、全員を均等に愛しているつもりですが、彼女達のなかでどう思っているかは分かりかねぬ」


結婚して数十年経つが未だに分からないと頭を抱えている。


「侯爵様も大変な苦労を掛けておるようじゃのぅ」


「女性の嫉妬は男とはまた違うから、私にはどうしたものか分からぬ」


「だから、面倒な一夫多妻なんて制度やめればいいんじゃないかい?」


「高位貴族だから、子孫はのこさねばならぬ。例え愛していなくてもな」


「その考え方が相いれないのです」


王族・貴族としての考え方、平民側としての考え方の溝は深まるばかり。


その議題を中心に小市間程言い合うが答えは出なかった。


パンッ


「小難しい話はこれまでにして楽しく飲みませんか? 追加注文はどうですか」


一区切りして大将シンが柏手をして空気を換えた。


「なぁに、私たちの考え方が民衆に浸透するわけはない事は昔から証明されている訳ですからな」


「アタシたち平民側もね」


議論自体は白熱していたがソレを肴にして周囲は飲んでいた。


誰も怒ったりしていなかった。


「好きな人か・・・」


「ルールーさん、好きな人がいるんですか?」


私の一言にアオイが反応した。


「さすがに婚約してたし、聖女として忙しかったからそんな人は・・・」


視線を上げると大将シンと目が合う。


改めて見るとこの世界の人とは違う、顔をしている。


もともと日本人の美的感覚もあるし、日本人の中では偉丈夫で顔も良い。


「駄目、駄目ですからね!」


私の視線を遮るようにアオイが入ってきた。


「何が、駄目なのですか?」


「いや、それは・・・ゴニョゴニョ」


顔を赤らめて目を伏せるアオイに周囲がニマニマと笑う。


「安心してください。アナタの物には手を出しませんよ」


「だから、違くてですね」


微笑ましい光景が広がり周囲もホッコリとする。


「まぁ、結婚相手は今度でいいでしょう。生涯独り身の聖女は歴史的にもたくさんいますし」


「え、そうなんですか?」


「聖女の子供が聖女になる訳ではないので、結婚相手が見つからない事が多いですし。聖女としての力を失わない様に処女を守っていたという話ですし」


ブフッ


聞き耳を立てていた常連客の数人が呑み込もうとした酒を噴出した。


「ルールー殿、その話はしない方が・・・」


「聖女達の中では普通の事ですよ。現に私が結婚したら聖女としての力を失ってアイテーリアはどうなるんだって心配してましたし」


「誠の事なのかのぉ?」


「大司教ランバル様も知らない事だったのですか?」


「う、うぅむ。噂程度でしか聞いてなく眉唾物と思っておったわい」


「結婚しても聖女の力は早々失わないですよ。現に何人かの聖女は夫も子もいる人も存在していますよ」


別の都市では聖女歴40年の人だって実在する。


「聖女を神聖化したい層の考えなのでしょう。聖女なら処女じゃないといけないとか、なんとか」


「な、なるほどのぉ。そう考えたい人が一定層いるのか」


ハラハラと聞いていた常連客達は胸をなでおろす。


「まぁ、この話は終わりにしてください」


「分かったのぉ」


他の話題を持ち出して楽しいひと時が居酒屋シンに流れた。


fin

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