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女教官様と酒臭い上司

「静狩さん、これからあなたには実地研修をしてもらいます」


と、わけのわからん組織の構成員となった日の翌日、俺は律儀にも皇居まで出勤し、地下にあり秘密基地めいた本部にたどり着いたわけだが。


「えっと、マコッちゃん?昨日は女子高生じゃなかった?」


そう、昨日はセーラー服姿で俺を番犬の如く監視していた彼女、今日は、古めかしいデザインであるが所々に精巧なシルバーアクセサリーを装着したディープグリーンの上下にロングブーツ、そしてベレー帽を装着なさってる。


一言で言えば女軍人。

付け加えるならばエリート士官。

黒髪の長髪は帽子の中に引っ詰めているのだろうか?


「趣味よ」


「……」


本人が言うなら文句は言うまい。

でもホントの年齢っていくつなんだ?


「それと、わたしの名前は真琴であるけど“マコッちゃん”ってなんですか」


「昨日シャクナちゃんが言ってたろ。“マコちゃん”って。俺なりのアレンジだよ」


「あれは局長のお遊びです。気に入った人間に対してはすぐに適当なあだ名を付けたがるんです」


それ、暗に自分がシャクナちゃんに気に入られてるって言ってるんだろうか?


「気に入らない?俺はいいと思うんだけどなぁ」


「まあ、マコタン、とかマーチャンとか付けなかっただけまだマシなセンスではあると思いますが」


「じゃあ、オッケーな」


「好きにしてください。それより、話が全く進んでいないのですが」


あ、そうだそうだ、で、実地研修?つっても業務が業務だけに何させられるか分かったもんじゃないなぁ。


「えーっと、まずはマニュアルなんかを渡したりはしないのかな?」


「この組織にマニュアルなんてありません。全て現場で叩き込みます」


すっごいスパルタ。

さっきの女軍人とこに“鬼教官”って項目も入るんだろうな。


「本日未明、都内の沿岸、3キロ程の所で現界反応と思われる素粒子が検出されました。といっても小規模なものですので特殊兵装の類は不必要。現界時刻は本日フタマルサンマル時。わたし達はその三時間前に現場に到着し、次元境界線上で接敵、討滅します」


喋り方が若干軍人テイストに。

成り切ってるんだな、手を触れないでおこう。


「何か質問は?」


「現界反応や現界時刻ってのは、幻想侵食現象の前段階だってことは語感で分かるとして、次元境界線上、って何?」


教官殿、表情が変化。

今までが普段の表情、クールフェイスだとするなら、道端にたまたま犬の糞を見てしまった的な顔。


しょうがないじゃないか、知らないんだから。


「次元境界線、というのもそのままの意味です。妄想どもが巣くうの向こう側の次元、私たちの住むこちら側の次元、と別れています。私たちにしても向こう側の住人にしても必ず通らなければならない空間。その境目をわたし達は、次元境界線と呼びます。あの世とこの世の境にある三途の川みたいなものです」


「へぇ、じゃあ妄想どもがこっちに来れるように俺達も向こう側に行けるのか?」


マコッちゃん、ここでしばらく黙考。

だが、おそらくこれぐらい幻想侵食現象とやらについて調べているこの委員会が調査していないことは無いだろう。

彼女が黙っている理由は、結果について言っていいかどうか、迷っているのではないか?


「正直に言えば向こう側の探索は既に行われました。無人探査機を境界線上から操作してポータルをくぐり、向こう側の様子を探るというものでしたが、門を抜けた途端、あらゆる計測器が電波を受信出来ず、カメラも映像を写さなくなりました」


「成る程、目下、向こう側の状況は未知数、ってわけね」


「ええ、ついでにポータルというのは、…」


「門、ってことだろ。つまり、門を通り、境界線に入り向こう側の門から出て来るバケモンを倒す、と」


「概ねそれで間違いないです。説明しておきますが、幻想侵食現象対策というものは、世界各国で執り行われており、有事の際には協力体制となりますが、今回のような小規模の場合は現界場所のポータルに一番近い国の機関が担当します」


成る程、了解。


「あ、そのまえにマコッちゃんってどんな能力持ってるの?」


先日から気にはなっていた。

彼女の能力とは、どんな力なのか。


「…研究班の人達によると人間、とゆうか現実側の生物が持っている異能というものは、大別して、“自我展開系”“空間展開系”“使役調伏系”“自己強化系”の基本四種。私は使役調伏系の能力、とだけ言っておきます。あなたは、分類的に言って自我展開系にあたりますが厳密に言えば、自我展開系と自己強化系の中間に当たると思います」


「たしかに、昔アスクレピオスの研究員どもも別人格のマテリアライズ化がどうこう言ってたっけな」



「無駄話は、ここまでにして移動しましょう。質問は車内ででも」


無駄話って…。バッサリと切り捨てられた感がいなめない。

とはいえ、人類が異能を現実のものと認識しており、かつ、その研究とやらをくそ真面目に行っているとは意外だ。


「科学者も自分の目で見たものを否定することはできない、ってことかな」


「何か言いましたか?」


「いや、な〜んにも」


ジィ、っと見つめ、いや、睨みつけて視線をガラス窓へと移動させたマコッちゃんは端にある指紋照合機のようなものに手を当て、さらに上にある網膜照合装置に自分の目を捉えさせる。

すると、ガラス窓が空いて何やら物々しい物品がズラリと吊されていた。チャカ、ガン、ピストル、いろいろな呼び名はあるが、いわゆる拳銃と呼ばれる類の違法火器が新品の弾倉と共にしまい込まれている。


ブツ自体は零課時代から携行と所持を認められていたため珍しくもないが、問題なのは装填されるべき弾だ。


流線型の砲弾型とゆうのは変わりないのだが、材質はどう見ても透き通るようなクリスタル。

それでは発砲した時に砕けてしまう。


「特殊兵装とは別に通常兵装と呼ばれる武装です。発砲しても砕けません、特殊な水晶を加工して造られた弾丸で、幻想種に命中すればある程度のダメージを与える事ができます」


「撃つのか、やっぱり」


「それ以外でどう使いますか。軍隊ならガン・カタ等を仕込むんでしょうが、撃鉄を起こして引き金を引く、これ以上拳銃に合った使用方法がありますか」


正論。反論を述べる隙も無い。


「あまり時間もありません。2、3個通常弾装を使用して拳銃のクセを掴んでおいてください」


拳銃を持った事はある。所持して現場に向かった事もある。だが、生きている存在に向けて引き金を引いた事はこれまで一度も経験したことがない。


だが、俺が身を置くこの委員会では、拳銃を撃つことが当たり前の世界で仕事をこなしていく必要がある。


「拳銃が通常兵装、ってことは特殊兵装ってどんなの?ロケットランチャーか?」

「それも通常兵装に含まれます。もちろん、ロケット弾も普通の火薬を使いはしませんが」


涼しい顔で、たまに凄い事言わないか、この子?ともあれ、横にある射撃訓練所じみたスペースがあるわけだし、さっそく手に持ったW&S社製オートマチックの拳銃に弾を入れる。

と、その時向こう側で射撃訓練をしていた髭面のおやじと目が合った。

ニカッ、っと男臭い笑みを俺に向けてきやがった。


「権堂さんよ。実働一課の現場指揮官。私たちの直属の上司でもあるわ」


そこまで説明したマコッちゃんは、早く行けと無言のプレッシャーをかけてきた。


「直属の上司、ねぇ」

「こう言っては何だけどかなり豪快な人よ。面倒臭い事が嫌いでもあるけど」


それ、指揮官としてはどうなんだよ。


そんな言葉を飲み込み自動ドアを跨ぎ、って。


「酒クセェ!!」


思わず叫んでしまうほどのアルコール臭。


「ん?おぉ、悪いなアンちゃん。酒は嫌いか?」


酒瓶片手に声を掛けてきたのは先程紹介された権堂指揮官。

今、勤務時間だよな?

それ以前に第一声が“酒は嫌いか”ってもっと他に聞く事あるだろ!


「はじめまして、昨日付けで実働一課に配属された静狩…」


「一士、だろ?花井の野郎、ようやくアンちゃんをこっちに寄越したらしいなぁ」ム、人の台詞を取って、しかもなんだ?人を物みたいに言いやがって。


「よろしくお願いします。花井課長とはお知り合いで?」


「野郎がこっちの現役だった頃から知り合いだ。もちろんアンちゃんの事もある程度は知ってる。それとよ、固っ苦しい言葉は使わねぇでくれねぇか。なんか背中がむず痒いわ。ハッハッハ」


野太い声に顔の三分の一程が髭に隠れたおやじ臭い顔が熱っ苦しい事この上ない。

が、事ここに至りようやくまともな人間に出会えた気がする。


「はぁ、そんじゃお言葉に甘えてそうさせてもらいます」


「おぅ、あぁ、そうだ。オレは権堂(ゴンドウ) 一馬乃介(カズマノスケ)ってんだ。長ったらしいから権堂か一馬でいいわ。けど、一応、“さん”は付けろよ?後ろのやかましいのが出て来るからよ」


後ろの控室で腕組みしてるマコッちゃんを見て権堂さんは悪戯小僧みたいに笑った。

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