咎人の仕事−2−
皇居の門をくぐり、近衛兵に花井課長の紹介状を見せたところ、別室に案内された。
「ところで、この会社ってなんで皇居の中にあるんです?」
同席、とゆうより見張る為に同じ部屋にいる近衛兵に聞いたが、目を伏せ、無言を返された。
「………」
「………」
気まずい。
10分程そのまま氷点下の空気が続き、静かなノックの後、これまた静かにドアが開き黒髪の……
「なんで女子高生が?」
思わず口に出してしまったが、彼女や近衛兵は気にするそぶりもツッコミもしなかった。
………おかしい、何かがおかしい。
本能と理性が同時にサイレンを鳴らしたような錯覚。
空いてるドアから何食わぬ顔で出ていきたい気分。
と、その時、女子高生が差し出した書類に近衛兵がサインし終わって、俺に向き直った。
「出て。これから局長に面会しに行くわ」
どうでもよさ気な抑揚の無い口調でスタンドアップを要求してくる女子高生に、思わず助けを求めるように近衛兵に顔を向けるが、しっかりスルー。
もういいや、とりあえずここは法治国家、日本だ。
皇居の薄暗い部屋に女子高生が入って来たとしても危険は無いだろう?
近衛兵も驚くそぶりすら見せないなら、ここでは日常的にこの手のやり取りをしているのだろう。
「わかった。でも局長?まるで政府機関みたいな呼び方だね」
「まるで、じゃなくて正真正銘の政府機関。早くして」
俺、嫌われてるのかな?
一抹、いや、かなりの不安を抱きながら長く、そしてコンクリート剥き出しの壁に囲まれた廊下を歩きながら、とりあえず無言でいるのも気まずいので会話を振ってみた。
「えーっと、質問が二三あるんだけど、いいかな?」「構わない、もしかしたら、あなた物凄い勘違いしてるかもしれないし」
カツカツカツ。
「えーっと、まずは、だ。ここは皇居の一角で、俺が紹介を受けた企業がここにある、ってことで間違いない?」
「訂正するのは二カ所、まず、あなたが紹介されたのは企業ではなく政府の特務機関。二つ目、ここは皇居の一角ではなく皇居が本部の一角でカムフラージュとして置かれているだけ」
おいおいおいおい、今さりげに凄いこと言わなかったか、このお嬢さん。
そう、訂正部分において、一般人ならツッコまざるを得ない単語が出て来ている。
「と、特務機関?なにそれ?少年漫画やラノベに出て来る秘密組織じみたやつ、とか?」
「そうね、アレに近い業務を専門としてるわ」
とゆうことは、だ。
超能力者だったりスパイだったり、なんか気合いで世界を救ったりする連中がいる?
いや、待て待て俺。
仮にそんな連中がひしめいている機関があったとしてだ、どうして何のスキルも持っていない俺が?
オカルト対策専門のマユツバ部署たる零課で勤務していたからか?
だったらもっと適任がいるだろうに。
「私はあなたがここに出向してきた理由を詳しくは聞いてない」
重厚な開閉式自動ドアが音も無く開き、ある程度の広さを持つ箱、エレベーターに乗る。
「でも、ここに来た、とゆうことは資格がある、とゆうこと」
「いや、待ってくれ。出向?俺クビにされたんだけど?」
「それもカムフラージュ。公安委員会特務零課、通称霊柩課は、私たち特務機関、幻想侵食対策委員会の要請に従いあなたを寄越してきた」
「幻想侵食……?」
「詳しくは局長に聞いて。私はあなたを近衛兵の留置所から本部に連れてこいと言われただけ」そこまで言い終わると無言となった。
階層が書かれていないエレベーターが止まり、入った時と同じく無音で開閉したドアは上の無機質な廊下とはえらく違う光景を映し出した。
左右はガラス貼りであり、その向こうは白衣を着た研究員達が何かの装置を操作したり巨大な試験管を揺らしている装置の周りに集まり、しきりに何らかのデータを書き記している。
「あれらは私達の同僚。研究開発部」
「…結構デカイ組織なんだな」
「そうでもない。研究開発部は30人前後、そのほかに実働部、経理、総務、統括を合わせても100人に満たない」
こんなこと何でも無いとゆうように見向きもせず歩を進める。
「ところで君の名前は?」
「名前?尾賀 真琴。委員会の実働部に所属している」
そこで彼女、尾賀 真琴ちゃんは歩くのをやめ、左側の真っ白なドアの前にピタリと止まった。
横にあるプレートには達筆な字で“局長室”と書かれている。
二度のノックの後、彼女は口を開き、
「失礼します。局長、例の新人を連れてきました」
「空いてるよ、入ってきなよ」
朗らかな女の子の声。
……明らかに場違いだ。
「失礼します」
と、そこでドアを開き向こう側に広がる部屋に入っていくため一歩を踏んだ。




