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第七話 婚約破棄→強制結婚!?

エライザの両親が、あんぐりとしてエライザを見る。


レオンは、ぽかん、と口を開けて呆然としている。



「エライザ、お前………断る、って、言ったか」

「はい! 断ります」

「な、んで」

「なんでって……」



そりゃ、数年後アンタが(エライザ)を捨てるからだよ。


とはまだ言えないな、ウン……。

とはいえ、今はまだあまりいい説得材料もない。

じっと黙っていると、レオンは立派な服をギュッと掴んで、必死に話しかけた。


「お、俺は、この国の、第二王子だし。魔力も、けっこうあるし、剣も……お前に負けたけど、もっと強くなるし」

「あ、いや、そういうとこじゃなくて」

「えーっと、その、頭もいい。足も速い………」

「いや、別に、そういうのじゃ………」


ダメだこれ子供みたいだ。……いや、子供なんだけど。この年のレオン王子は。

エライザを必死に止めようと自分のいいところを挙げるところは、まさしく子供らしくて、少し微笑ましくなってしまった。一生懸命に自分との婚約のメリットを挙げる姿は、どこか絆されてしまいそうになる。



「いいんだな!? もうこんなチャンスないぞ!」



レオンは、キッ、と鋭い視線をエライザに向けた。顔は少し赤く、むくりとしている。

このままへそを曲げて、この話はなかったことに!となるだろうか。だといいなぁ。


俺は少し息を吐いて、これで終わるぜ、よかったよかった、と安心した。とりあえず処刑ルートは免れそうだ。レオンと婚約しなければいいなんて、最初から正解見つけちゃったや。



そんな安心も束の間、今度はエライザの両親がエライザの肩を掴んだ。


「エライザ!? 何を言ってるの!?」

「レオン様との婚約だぞ、お前、こんな大事なお方とのご婚約を……」


すごい圧力を近くに感じて、俺はヒッ、と声を上げた。エライザの両親はもともとエライザをレオンの婚約者にするのに邁進していた。それを、こんなチャンスを、逃すなと。ガクガクと肩を揺さぶり、考え直せ!と言ってきた。


両親の猛攻を避け、俺はソファに座り直す。この調子の両親の説得は難しそうだ。さっさと『この話は無かったことに…』と終わらせたいのに、終わらない。両親たちはソファに戻るものの、エライザに向ける期待の眼差しは止まない。


視界の端で、レオンが先ほどの泣きそうな子供の顔から、何かを思案する顔に変わったのを感じる。

レオンは顎に手を当てて、ふむふむ、だか、何かいたずらを考えているみたいなーーー。そしてそのあと、エライザを見て、ニヤッと笑った。何か思いついたらしい。




「そうだったな。エライザ。忘れてた、すまないすまない」




先ほどの必死に説得するような可愛らしい子供の口調ではなくなっていた。ゲームの中にいる、芝居がかったレオン王子の口調になっていた。



「今日はいろいろあったから、お前も混乱してるんだろう。よく休むといい。俺もこの腕の療養に努めるとするよ」



わざとらしく赤くなった右手をかざして、ひらひらと振る。エライザの両親が息を呑むのを感じた。その様子を見ながら、レオンは嫌味たっぷりに言う。



「あれェ? これ、誰にやられたんだっけなぁ……まあいいか。ン? どうした? その顔は」



コイツ……………。

俺はごくり、と唾を飲み込む。視線の先は、ニヤニヤと見下ろすレオン。



「ああ、王子に傷つけといて………何も罰がないってのも、示しがつかないかなぁ?」



レオンはわざとらしく、うーんと考えるふりをして、あたりを見渡す。その動作ひとつひとつに、エライザの両親は震え上がるし、俺は罪悪感と恐怖にヒヤヒヤしてしまう。

あたりを見渡すふりをしながら、レオンはゆっくりとした足取りでエライザに近づく。悠長で、優雅で。

コツン、コツン、コツン、と、俺にとっては死刑宣告みたいな足音が響く。


そのままエライザの座るソファまでやってきて、ぽん、とエライザの肩に手を置いた。俺は引き攣った苦笑いでレオンを見上げる。

すると、にっこりと、怖いくらい美しい笑顔のレオンがいた。




「エライザ、


この場だけでも、

イエスって言っておいた方がいいんじゃないかなーーーー?」




レオンの顔は、まさに腹黒王子って顔だった。




「ナニ、今だけだよ。今だけ。細かいことは気にするなって」

「え、…は、……まっ、」

「わかった?」


その瞳は、子供とは思えないくらいすごい圧力を感じて、

背筋がゾッとした。

今までで一番、恐怖を感じたかもしれない。


「わ、かっ………た」

「いい子だ、エライザ。暫定的ではあるが、これでお前は俺の婚約者だな?」


ぽんぽん、と頭を撫でて、レオンは満足そうに笑う。

俺はもう冷や汗がダラダラで何も考えられない。




「じゃあここにサインだ」




レオンは懐から一枚の紙切れを出し、綺麗な大理石のテーブルに置いた。


内容は婚約承諾書。

婚約の約束を明記したものだ。

もちろん名前は、レオン・ルーデベルグと、エライザ・ノイシュタット…………。




………アレ?状況、悪化してない?

もう、婚約結ぶしかなくなってない?



固まっていると、レオンは笑顔でペンを握らせてきた。サインだけでいいからさ、とトントン、と示され、もう後には引けない。

震える手でサインをすると、レオンは残りの空欄を埋めるようにサラサラと日付などを記入していく。あっという間に完成する、二人の婚約承諾書。



「これからよろしくな、エライザ」




目の前には、婚約承諾書を片手に笑う王子様。この爽やかな笑顔が、逆に怖い。冷や汗が止まらない。

レオンの謎の圧力に屈してしまったものの、エライザの将来的な処刑ルートは少しずつ近づいている。




…………このサイン、なかったことにすることって、できんのかなぁ




ニコニコと笑う王子と、ほっと胸を撫で下ろす両親の間で、俺はひとり途方に暮れていた。

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