表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第六話 デットエンドを回避しろ!


広々とした豪華な応接室には、レオンと、エライザの両親、数人の付き人がいた。

レオンは一番豪華なソファにふんぞり返りながら座っている。先ほどの修練服から着替え、かっちりした子供用の燕尾服を着ていた。この国の正装だろう。赤を基調としていて、金糸の刺繍が細かく入り、かなり高価なものだとわかる。足を組んで偉そうに座っている姿は、王子というよりは王のように見えた。


その横で所在なさげに座っているのはエライザの両親。レオンと違い、うつむいて不安げな表情だ。後ろの付き人たちは無表情を装うが、張り詰める空気はピンとして、居心地が悪い。



俺は速る心臓を無理やり抑えて、ゆっくり息を吐いた。そのまま震える足で、一歩ずつ進む。空いている一人がけのソファに、おそるおそる座った。全員の視線がエライザに突き刺さる。

位置関係としては、レオンの真正面。右手の3人がけソファに両親。少し遠くで壁に沿って見守るメイドたち。エライザとレオンの間には大理石の大きなテーブルが綺麗に光っていた。




「エライザ」




レオンは小さく切り出す。

ごくり、と両親が唾を飲み込むのが見えた。



「さっきの戦いは素晴らしかった。改めて俺の非礼を詫びよう。お前は素晴らしい人間だ。たとえ魔力がなくとも」

「…………どうも」



レオンは眉ひとつ動かさず、エライザを見る。なんだか言葉の内容と顔が一致していない気がする。

チラリ、と先ほどの試合で打ったレオンの右手に目を向けると、赤く腫れていた。ゾッと、俺は背筋が凍る思いがした。スッと息を呑むと、レオンは気づいたのか眉を少しあげて、右手をエライザに見せた。



「……この傷か? まあさっき出来たものだが、気にするな。しばらくは痛むだろうが」



そのまま右手を戻して、真剣な顔でエライザを見つめる。どことなく、目に強い圧力を感じる。




王子に傷をつけたーーーーーというのが、一つの大きな事実だ。

これはもう、何かしらの罰が下されるだろう。隣の両親が青ざめて震えていることからも分かる。



………よくて追放、悪くて処刑………


もしくはノイシュタット領の取り上げ、などの政治的な罰もあるかも知れない。両親を呼んでいるのだから、かなり大きな罰だろう。





「お前との今後について話に来た」




ーーーーー今後

という言葉がずしり、とエライザにのしかかる。

おそらく、この場にいる全員、エライザの悲しい末路が脳裏に浮かんだだろう。



俺は少し諦めも含んで、息を吐く。

それから、強い覚悟を持って、口を開いた。



「………わか、りました。どんな罰も、受け、ましょう」




ーーーーーさあ、処刑か追放か。

唇を噛み締めながら、レオンの言葉を待った。





「エライザ・ノイシュタットをレオン・ルーデベルグの婚約者にする」





◇◇◇





「……………え?」




場にいる全員が、ぽかん、と口を開ける。




…………婚約者?


婚約者って、なんだっけ……………


たしか、結婚する予定の二人、みたいな意味だったような。




「婚約?」

「ああ、婚約」

「…………追放は?」

「は? なんで」


レオンは心の底から意味がわからない、とでも言いたげな顔をする。




「……いや…………レオン、様、に傷、つけたし」

「これは俺が未熟だっただけだ」

「……………だ、だからって、なんで、」




俺はもう頭がいっぱいになった。



レオンと婚約………?

あんなにコテンパンにやっつけたのに?

こんなプライドの塊みたいな王子様を?



意味がわからなくて何も頭が回らない。



追放や処刑よりは、マシなのか?とも考える。とりあえず生きてはいられるらしいけれど。

予想外のことに頭がぐわんぐわんと揺らされてるみたいで、全く動かない。


ぽかん、と全員が口を開けて思考停止になっていた。





「レ、レオン様の、婚約者だなんて、光栄ですわ!」

「ええ、ぜひともうちの娘と…」


そんな中、いち早く意識を取り戻したのはエライザの両親だった。

さっきまでの死んだ顔はどうしたんだってくらい生気を取り戻して、輝く笑顔でレオンに向き直る。


「うちの娘は少しやんちゃですけれど、気立てはいいですし」


エライザの父親はここぞとばかりにアピールをする。レオンはにっこりと聞いているが、多分心には1ミリも響いていないだろう。


とりあえずこの空間は、エライザを置いてきぼりにして、大団円、という雰囲気になった。ハッピーエンド、めでたしめでたし…みたいな。両親の喜びが皮切りとなって、メイドたちの雰囲気も柔らかいものに変わった。



俺はそんな景色を、どこか遠くから眺めていた。

急な展開に、まだ思考があまりまとまらない。

とりあえずエライザも喜んだ方がいいのかな。日本人らしく、場の空気に流されそうになる。追放されないならそれでいい………。




………いや、まて



俺はゲームのエライザの末路を思い返した。




このまま、進んだら、まずいんじゃないか。



エライザの唯一の処刑ルート。

レオン・ルーデベルグの婚約破棄、からの、処刑。




ヒロインが現れたら、エライザはレオンに捨てられるわけで…………




婚約破棄は、婚約してなければ、起きない…………。



だったら、





「お、お断りします!!!!!」





エライザの必死な声が、部屋中に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ