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POKER  作者: 朝倉 ぷらす
3/5

Preflop - Under The Gun -



 そこに配られたカードがあるだろう? な? あるよな? 


 あると言え!


 ……そうだ。それでいい。あるんだ。そこにカードが。

 それをめくると、どうなる? そう……それをめくると、どうなると思う?



 ……めくるとどうなると聞いているんだ!!



   ♛♕♛ ♕♛♕



拝啓


 ご機嫌麗しゅう犯罪者諸君。社会の肥溜

めに混ざる雑多なクソに群がる、ウジ虫の

ような貴殿らが健勝たる不幸をお悔やみ申

し上げる。


 さて、このたびは私、アオイトミノリが

主催する懇親会に貴殿らを招待するべく、

参加証を送付した。会場と日時は追って連

絡する。


 当日は、参加証を持参の上、誘い合わせ

ることなく会場までご足労いただきたい。


 それまでは、貴殿らが死んでいないこと

を願う。


                 敬具


            アオイトミノリ



   ♛♕♛ ♕♛♕




 「……ねえ、招待状(これ)どうする?」


 気だるげに上体をソファーに預けた全裸の地味な美女(丶丶丶丶丶)が、同じ顔の全裸の地味な美女(丶丶丶丶丶)を逆さまに見ながら封筒を指に挟んで差し出した。首にタオルをかけた全裸の美女、(あおい)は差出された招待状とQ(Queen)A(Ace)のカードには心底興味がないとばかりに一瞥(いちべつ)して鼻を鳴らす。見慣れた美しい裸体には目もくれないで。


「どうするもこうするも、必要経費でしょう(丶丶丶丶丶丶丶丶)?」

「……行かなきゃダメ?」

「ダメ。」

「本当に面倒だわぁ。」


 葵のにべ(丶丶)もない返答に(みのり)は溜息をもらす。


 悩まし気に。


 それでも身体を預けたソファーの背もたれのその先の、葵に向かって伸ばした腕を戻す様子は見られない。

 上体から零れた豊満な胸の間に留まる汗の粒は流れずに震え、そして僅かな力の作用がその行く末を決定するカオスのように、ある粒は首筋に伝い、ある粒は薄く割れた腹筋に沿って落ちた。


 結局、根負けした葵は穂から封筒を受け取ってしまい、すでに知ったる中身を検める。招待状と参加証などと思われるカード。

 対して穂は満足な様子で妖艶に微笑む。勝った、とでも言うように。


「誰がどこまで把握していて、わたし達を挑発しているのか、それが判らないと満足に寝ることもできないじゃない。」

「慎重には慎重を重ねて、」

「そして大胆にふしだらに、ね。」

「確かに、ある日突然ずた袋を被せられて、そのまま行方不明。なんて嫌。」

「だから、まだ舐められている間に、終わらせるのよ。」


 満足げな穂に、葵は昼の仕事のストレスのほどを(おもんぱか)る。


「これ、内容の稚拙さに対して、メッセージが巧妙なのよね。」

「親の陰が見える自由研究じゃないんだから、って思うけど。」

「本当にそう。でも差出人は気づいているかしら?」

「だから仮に、悪戯(おイタ)を思い付いた間抜けが判っても、誰の入れ知恵かまでは判らない。」

「トランプのカードまで付けちゃって。JOKER気取りで鼻に付くわ。」

「本当にそう。」

「……ねえ、これわたし達だけを誘き出す罠、ということはないのよね?」

「それならあの街(丶丶丶)で張っていたら良いじゃない。」

「そうね。」


 バスローブを羽織った葵は、穂に無言でソファーを詰めるような視線を投げて、空いたスペースに沈む。招待状をぞんざいにローテーブルに投げ、そこにあった甘い白ワインのグラスを二つ取って、片方を穂に手渡した。


「かんぱ~い。」


 グラスとグラスがぶつかる。


「パルミジャーノ・レジャーノのスライスとシャインマスカット……んー、美味しい。」

「それ、どっちも見切り品で安かったの。」

「あら素敵。」

「でしょう?」

「身体にワインが馴染むわぁ。」

「心には笑いが必要ね。」


 女たちはしばらく当て所ない話題で盛り上がる。


「それで。今日、何があったの?」

「聞いて! ランチミーティングって、何だったと思う?」

「スケジュールに入ってたアレ? ……興味なくて見てなかったけど、そんなに酷かった?」

「お客さまと打ち合わせって……弊社(ウチ)の女子を集めた接待。もうウンザリ。」

「わぁ……。バブル時代じゃないんだから。」

「でも……んっ、ワインおいしー。先方(あいて)が海外だと、まあ。」

「サイアク。」

「相手の文化に乗っかっているだけでもう、下僕になっているようなものじゃない。そんなこともわからない弊社で、本当に涙が止まらないわ。」

「しかも、裏で泣いて隠すから、上のおバカさんたちは知らないなんて、ヒドい皮肉だわ。」

「本当にそう。」


 そして思い出したように招待状に目をくれて、話を戻した。


「で、この下品な(イケてない)挑発に乗るとして、()だと思う?」

「わざわざ犯罪者諸君(丶丶丶丶丶)なんて白々しいこと書いて送った方?」

「そっちのことを訊くと思う?」

「まさか。」

「でもそうね。この招待状の差出人の方も割り出さないと。」

「それに懇親会(パーティ)なら他の招待客も知っておかないと。」

「きっと、わたし達みたいなのばかり集めた面倒な円卓(テーブル)になるのかしら?」

「ばか。」

「でも、朝霧組(ヤクザ)の若頭、Crow(N)(半グレ)の狂犬、楽園(ホテル)のクレーム担当、他にも色々……誰が差し出したのかしら?」

「少なくとも、あの鷹藤(オジ)さんが主宰するには、」

「ダサすぎる?」


 クスクスと女たちが男たちの悪口を酒の肴にした。


「……ええ、それはさておき、」

「色々とやることが多いわね。」

「張り込みに目眩まし、囮になる噂も流さないといけないし。」

「それでも。」


 あの街(丶丶丶)で生きていくために無視ができない招待であった。

 何も、招待主が二人が設定する架空の人物「アオイトミノリ」だったからではない。その程度の挑発なら、今までに何度もあった。招待状が渡された手段も、二人が懇意にするバーの主人を通すという一般的なもの。お得意さま御用達の、飛ばしのスマホに連絡する方法でもない。


「焦らして、焦らして焦らして焦らして焦らしてから乗ってあげましょうか。」

「ええ、そうしましょう。」

「まあ、それはともかく。穂もお風呂、入っちゃいなさい。冷めないうちに。」


 言いながら、葵は穂と唇を重ねた。

 しかし二人とも、数秒後には何事も無かったかのように唇の水音(リップノイズ)だけ残して離れる。


「……ええ、温めてしまわないうちにね。」



「ばか。」









~to be continued~


【Q3】なぜ、葵と穂はJOKERの誘いに乗ったか。(ヒント:葵と穂を指すカードがQueenであると思った理由は?)

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- 耳許で聞いた蝶の羽ばたきは、バタバタと醜かった -

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― 新着の感想 ―
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