死亡フラグ
残り時間がわずかだと知っても私はスマホを見ていた。
「そういえばさ」
「おう」
「私の死に方とボーナスの意味が分かった」
「・・・というと?」
彼は食いついてきた。きっとこの状況から抜け出せるアイディアを、私が浮かんだと思っているのだろう。残念だけど、そんなもの浮かんだらもっとテンション高く言うよ。
「執行者が安楽死・・・殺人を出来なかった場合、私がそれを選んで自分で死ぬためじゃないかな」
「黒野お前、今も死にたいのか?」
「生きたい。でも怖い」
「俺だって後4時間後には安楽死ボタンが起動する。怖いよ」
「もし今からでも私を殺せば、お兄さんは助かるよ」
はっと気がついたように彼は私を見る。一瞬の沈黙に唾を飲んだ。
「──単純に勇気がない」
「なくて良かった」
「その点、黒野はすごい。あのボタンを押せたんだからな」
「別に。あの日の夜は死にたかっただけだから」
「そんな勇気があるなら、もう2日3日くらい生きられただろ?現に今生きてるしな」
「はは。そうだね」
もし戻れるならあの時に戻りたい。安楽死ボタンを押すのは次の日でも良かった。次の日過ごしてそれでも死にたかったら押せば良かった。
「そろそろ奥の部屋に行きな」
「お兄さんは?」
「ここに来る執行者を説得してみる」
「・・・そう」
ごめんと、ありがとう。どちらがこの場合正解だったんだろう。回答時間に間に合わなかった私はただ相槌を打っただけ。こんなのがこの人との最後の会話になったら嫌だな。
「ねえ」
「なんだ?」
「名前。聞いてなかった」
「あー。そうえばそうだな」
とっとと言ってしまえば良いのに。彼は腕を組んで考える人になる。
「なんか・・・今言うと死亡フラグみたいじゃないか」
「なにそれ」
「最近の10代には伝わらないか」
「ん?」
「まあいいよ。休めるときに休んでおきな」
「はーい」