最後の時間
──二度寝後のような曖昧な気分のまま、私は起き上がる。金属の冷たい部屋は意外と快適だった。床で眠ってしまったからか体は痛い。目の前の機関銃と手りゅう弾が、良い目覚めになる。そうか、あれは夢じゃなかったんだ。もう取り返しのつかない現実なんだ。
もっと寝たいな。シャワーに入って、ベッドに入って。家で寝たい。ゴロゴロしながらスマホを見たい。なんでこんなところに、なんであんなボタンを押してしまったんだろう。
唯一の救いは執行者があのお兄さんだったこと。あの人はまだいるのだろうか。そういえば本当に私を殺さなかった。変わっている人だ。私なら殺しちゃうと思う。だって1千万だよ?
そんな私をお兄さんは「おそようさん」と、迎えてくれた。
「後10時間ちょっとだ」
それが何を指すのか数秒後に理解した。私の寿命か。ううん、逃げれば今まで通り生きられる。
「腹減ったし飯行くか」
「うん。あ、でもお金ない」
「おごってやるよ」
彼は刀を置いて部屋を出て行った。この刀、本物だろうか。興味はあったものの、確かめるのが怖い。
久しぶりに外に出た気分。いつも通りの晴れなんだけど、気持ちいい。
「何食べたい?」
「・・・ハンバーグ」
「いいね。肉食おう」
──廃工場を出てやって来たのはマクドナルド。食べたい物と微妙に違うけど、これもこれで悪くないかな。
「ビッグマック久しぶりに食うわ~」
「私、初めてかも」
「こんなもん食わない方が良いぞ」
警告する彼は笑っている。そしてその口でそれを食べる。どういう意味だろう。ビッグマック、食べてみたらすごい美味しかったのに。このポテトだって、ずっと食べられそうなほど美味しい。
私たちはマックでお腹を満たし、なんでもない話をした。昔の話、今の話。やりたかったこと。後悔。今やりたいこと。そんな話をしていると、聞いたわけでもないのに彼の人生が聞こえてきそうだった。
「残り7時間」マックを出た時、彼は言った。けれど私同様緊張感はなかった。だって今ふつうの日常を過ごしているから。その制限時間が過ぎたとして一体何が起こるんだろう。何も起こらないんじゃないか。
街中を歩いた。服を見た。本を見た。スーパーで夜ご飯と飲み物を買った。次に寄ったのは寂しい雰囲気のアパート。お兄さんはその中の1つの部屋の前に立ち、ドア穴に鍵を差し込んだ。ガチャガチャと雑に鍵穴を開ける。
「そこで待ってて。すぐ戻る」
「うん」
彼は本当にすぐ戻って来た。リュックを背負っている。あの中に何が入っているんだろう。色々気になるところはあったけど、あえて聞かない。
「廃工場に戻るの?」
「あそこが安全だからな」
「安全?」
「入口は1つだし。奥の部屋は言われなければ気がつかない」
工場に戻ってから確かにそうだと、納得した。そうか、昨日この人はあの刀で私を守ろうとしてくれたんだ。
「後何時間?」
「4時間」
当初書く予定のない話でした。なんとなく流れで・・・